【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

海野ことり

文字の大きさ
173 / 194

86.助っ人-1(R−18)

しおりを挟む
 獣人たちはまるでアメコミヒーローのようだ。
 分厚い胸板に長い手足、精悍な獣のフルフェイスに超人じみた身体能力。
 出来すぎた、作り物のお話の中から抜け出してきたような彼らを、自分とは違う生き物だと思っていた。
 でもね、プロテインを飲んで巨人兵みたいなガタイになったあいつらは、正真正銘別の生き物だよ!

(もうっ、なんなの? みんなやり過ぎ! 頑張り過ぎ!)
 頑張れば頑張った分だけ成果が出て嬉しいのも、他の人に負けられないのもわかる。わかるけど、だからってRPGのラスボスみたいな外見になってどうするんだよっ!

 もうほんと、地獄の門番みたいな奴らがゾロゾロと訓練場から出てくるのを見た時には、この世の終わりかと思ったね。
 しかも王城の近衛隊の方も似たりよったりなんだから嫌になる。

「なあ、あんな獣人離れした見た目になって、本当に嬉しいのかなぁ?」
「嬉しいのだろう。よく鏡を見つめているぞ」
「うぇぇ……」
 俺は鏡の前でポージングを決める奴らを想像してげんなりとした。
 イヤ、夢中になれるものを見つけられたのは良かったんだけどさ。

(でも、俺のロクがあいつらみたいになったら絶対にヤダ)
 ロクにはプロテインが効かなくて良かった、と俺は密かに胸を撫で下ろした。

「国王も上級プロテインを飲み始めたそうだ」
「あ~、意外と時間が掛かったね」
 あれだけ強い肉体を求めていたので、てっきり無理をしてでも秘薬に手を出すんじゃないかって思っていたのに意外と慎重だったみたいだ。

「恐らく、身体がついて行かなかったんだろう。国王も若くはないからな」
「ふぅん、獣人たちの年齢は俺にはよくわからないや」
 獣人は年をとっても顔に皺が刻まれる訳でも、わかりやすく白髪になる訳でもないので彼らの年齢は俺にはわかり難い。
 声の感じや、話し方からなんとなく類推するのみだ。

「特級の再生薬を飲めば、少しは回復すると思うのだが」
「だとしても、若返りまではしないよ」
「若返ったような気になるだけでも十分だ」
「そうか?」
 よくわからないけど、それで国王の機嫌が良くなるなら定期的に薬をあげてもいいくらいだ。
 どうせ人の寿命が少し伸びたくらいじゃどうということもないだろう。

「だとしても、今はまだこちらから折れる必要はない。餌が必要になったら考えよう」
 俺はロクの言葉に黙って頷く。
 国王の欲しいものを俺たちが持っている。その時点でこちらの優位は決まっている。
 後はやり過ぎないように、でも敵にはならないように気を付ければいい。

「国王はそれでいいとして、俺は元の世界の神に渡す対価を探さなくちゃいけない」
 俺がこっちにいられる対価として、元の世界の神は “神になる可能性のあるもの” を所望した。
 しかも珍しいもの、或いは強くなりそうなものという条件付きだ。

「天界まで探しに行くか?」
 ロクにそう訊かれて思わず唸り声が出た。
 正直に言って、再び天界に行くのは嫌だ。避けたい。

「お師匠様に紹介して貰うのってどうかな? ほら、天界に行っても知り合いがいる訳でもないし」
「それはそうだが、ミロクを呼び出せるのか?」
「う~ん、難しいかも」
 向こうは神だから俺に会いたくなったら勝手に来られるし、遠くから様子を窺うことだって出来る。
 でも俺が呼び出すのは不遜だし、いつも見ているとは限らない。

(興味を無くしたとは思ってないけど……)
 俺が悩んでいたら、ハヌマーンが何も考えていないような顔であっけらかんと言ってきた。

「緊箍児を外せばいいだろう」
「勝手に外したら、俺がお師匠様に怒られるかもしれないだろっ!」
「何故だ?」
「だってわざわざ付け直したんだから、外すなってことじゃないの?」
 俺はハヌマーンに緊箍児なんて不要だとは思うけど、他の神の手前付けておいた方がいいみたいだった。
 それに人の社会で暮らすなら、なんらかの縛りは必要だ。そういう意味でも目に見えるあれは都合がいい。

「ならばどうする?」
「だーかーらーそれを考えてるんだろ~」
 こいつは本当に何も考えていないな。
 いっそ清々しいほどにノープラン、ドントウォーリーで羨ましい。

(実のところ、俺に考えが無い訳じゃない)
 元の世界で神が出てきた時に気付いたんだけど、あいつらは自分に縁の場所だと出てきやすいらしい。
 多分、俺の知らない神のルールとかがあるんだろう。

(お師匠様は緊箍児が外れた途端に姿を表した。きっとお師匠様と感覚が繋がっているんだろう)
 俺は緊箍児を外さずにお師匠様を呼び出すにはどうしたらいいのか考える。

「ハヌマーン、ちょっと緊箍児を見せてくれ」
 そう言ってよく見ようと、背伸びをして緊箍児に手を伸ばした。
 けれど勿論そんなことをしても届く筈はなくて、俺は子供みたいにハヌマーンにヒョイと持ち上げられてしまう。

「イチヤ、緊箍児は外さないのか?」
 なのにどうして見たいのか、と首を傾げるハヌマーンに苛立つ。

「いいから、ちょっとじっとしてろよ! な~んか、秘密の機能とか無いのぉ?」
 俺はハヌマーンの頭を引っ掴まえて金の輪っかを弄くり回す。

「コラッ、痛い! 止せっ!」
 ハヌマーンは頭を必死に避ける癖に俺を降ろそうとはしない。
 馬鹿なのか、人が良いのか……やっぱり馬鹿なんだろうな。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

処理中です...