世界征服へと至る愛

鳴海

文字の大きさ
上 下
3 / 14

03

しおりを挟む
 藤原茜に睨みつけられながら西島は思った。彼女の態度は当然だ、と。不可抗力だったとはいえ、告白の邪魔をしてしまったのだ。恨まれても仕方がない。

 もしかして、その謝罪をするためにここに呼び戻されたのだろうか、と西島は思った。だとしたら話は早い、今すぐ謝ろう。そして課題プリントを取って、さっさと家に帰るんだ!

 よし、と心を決めた西島が頭を下げようとしたそのタイミングで、教室の入口ドアを閉めた石神が、西島の後ろからこう言った。

「ほら藤原、こいつが西島だよ」
「クラスメイトなんだから、顔ぐらい知ってるし。あたしが言ってるのは、そういうことじゃなくて――」
「なんだ、知ってたのか。だったらもういいだろ?」
「良くないに決まってるよね。あたし、納得できないよ!」

 西島を挟んだ前後の二人が、いきなり会話をし始めた。カースト上位様たちの会話に割って入れるはずもなく、西島は空気に徹して黙り込む。それにしても。

 早く家に帰りたい。
 謝ってすむ問題なら、早く謝らせて欲しい。
 ってかこの二人、一体なんの話をしているんだ?
 俺、ここにいる必要あるわけ?

 なんてことを思っていた西島だったが、口に出すなんてことは当然ながらできやしない。仕方なく、謝るタイミングを計るために黙って耳をそばだてていたのだが、聞こえてきた石神の言葉に、顎が外れるほどの衝撃を受けた。

「とにかく、俺が好きなのはこの西島なんだから、おまえと付き合うのは絶対に無理だ」

 えっと驚き、西島は勢いよく後ろの石神を振り返った。
 自分よりもかなり高いところにある石神の目は、真っすぐに藤原茜に向けられている。その視線を追うようにして、西島も視線を藤原茜に移動させた。
 するとそこには。

 般若がいた。

 藤原茜の恨みと憎しみと怒りの籠った両目は、はっきりと西島に向かっている。
 あまりの恐怖に西島は「ヒーッ!!!!」と心の中でと叫んだ。

 なんだ、これ。なにが起こってるんだよ?!

 パニック寸前の西島がその場でガタガタ震えていると、藤原茜がつかつかと歩み寄ってきた。

「この腐れホモ野郎が!!! 死ね!」

 憎々しくそう言い放つと、西島の腹に思いっきりグーパンを喰らわせたのである。

 不意打ちを喰らった西島は、あまりの衝撃にその場に膝をついた。そして、痛む腹を抑えながらこう思う。

 殴られるのは仕方がない。告白を邪魔してしまった自分も悪かった。
 けど、ホモ野郎は違うから!
 それは俺じゃなく石神だから!! 
 ホモが理由で殴るのなら、俺じゃなくて石神を殴るべきだから!!!

 目をつぶって痛みに耐える西島の横を藤原茜が通り過ぎる時、頭上からこんなセリフが聞こえてきた。

「人をバカにして! アンタたち二人、絶対に許さないから。覚えてなさいよ!」

 藤原茜はそう言い捨てると、乱暴にドアを開けて教室から出て行ったのだった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺の平凡な学生生活は本日終了いたしました。

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:363

平凡αは一途なΩに愛される

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:91

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,266pt お気に入り:33

推しを眺めていたら推しが近づいてきた

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:312

異世界へようこそ、ミス・ドリトル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:25

【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:558

俺が、恋人だから

BL / 完結 24h.ポイント:276pt お気に入り:22

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

処理中です...