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ここ最近、真の機嫌は最高に良かった。
初めて直樹とエッチなことをして以降、週に一度、真は月曜日にお隣へ通うようになっている。
日曜日の夜に心を込めてお菓子を作り、翌日、学校が終わるとそれを持って直樹に会いに行く。そこで二人だけの甘い時を過ごすのだ。
会う日を月曜日にしたのは、直樹の両親が仕事で家にいないからだ。誰にも邪魔されず、二人の関係がバレないようにするためにも、月曜日の逢瀬が都合良かった。
少し前までは、道場に行く時くらいしか直樹に会えなかった。それを考えると、週に一度とはいえ、ゆっくりと時間を取って会える今は、真にとって天国のような日々と言えた。
そんな真の機嫌の良さを、当然のように周囲は敏感に感じ取る。
穏やかで優しい性格をしている上に容姿も綺麗に整っている真は、元々、学校の教室でも女子からかなり人気の男子だった。自分からは必要以上に女子に話しかけず、控えめで落ち着いた空気感もまたいいのだと、元気系女子から大人しい系女子まで、あらゆる層から熱い視線を送られていた。
そんな真が、このところものすごく機嫌が良い。
話しかけた時に「なに?」と目を合わせてくるその時の顔が、とんでもなく優し気な笑顔なのだ。体中から幸せオーラを常に発している。
そんな風に、いつも楽しそうで幸せそうにしている真の傍には、いつも以上に自然と人が集まってきた。近くにいるだけで、くだらない雑談をして一緒に笑い合うだけで、幸せ気分のおすそ分けがもらえて自分まで明るい気持ちになってくるのだから、それも当然である。
幼稚園の年長までの真は、周囲にたくさんの友達がいることを苦手としていた。引っ込み思案で大人しく内向的なせいで、自分の意見を他人に主張することができない子供だったからだ。いつも周りの人間の言いなりにばかりなっていた。
けれども直樹と出会って、ものすごく大切にされたおかげで、自分という存在に自信が持てるようになり、少しずつ少しずつ変わっていくことができた。
今でも根本的な性格は変わっていないのかもしれないが、それでも昔よりは明るくなったし、他人という存在を怖がることなく接する勇気を持てるようになっている。
今の真は昔とは違い、見た目も良ければ性格もいい。合気道の道場にずっと通っているだけあって体も綺麗にひきしまっているし、学校の成績だって悪くない。それでも奢ることなく他人の心を慮り、思いやりをもって接することができるという、そんな人間に成長してきている。
すべて直樹のおかげだ、と真は思っていた。
幼稚園の時に直樹に懐いて以来、真は直樹の部屋に入り浸るようになった。直樹はどんな時も嫌な顔ひとつせず、真を受け入れてくれた。そして、一緒にゲームをしたり、本を読んだりしてくれたのだが、中でも真は、直樹がしてくれる日常の教訓ともなるべき話を聞くことが一番好きだった。
直樹のベッドの縁で二人隣り合って腰を下ろすと、真はその日の出来事の中で疑問に思ったことや納得のできなかったことなどを直樹に話し、それに対して意見をもらう。どんな些細なことにでも、いつも直樹は真面目に考えて、自分の意見を話してくれるのだ。
年下だからとバカにすることなく、直樹はいつも真剣に話を聞き、真面目に返答してくれる。真はそれを聞くことで、自分と他人との考えの違いを知り、それについてまた考え、出た答えを直樹に話してまた意見をもらう。十人十色という言葉を知ったのは、こうやって直樹と話していた時だ。
そうやって、自分よりかなり年上の直樹と話をすることで、真の視野は大きく広がっていった。
自分が今、級友たちに好かれる人間になれているのは、直樹とたくさん話をしてきたからだと真は思っている。人見知りだった自分が多くの友人たちを持ち、みんなと仲良くしようと思ったのも、直樹からその必要性を教えてもらったからだ。
それは確か、直樹のこんな話から始まったんだったな、と、真は当時のことを懐かしく思い出す。
「自分がされて嫌なことは人にすべきじゃないし、逆に自分が人にされて嬉しいことは、どんどん他の人にもしてあげるといいよ。最初は大変でも、無理をしてでもやり続けてごらん。それはいつの間にかマコにとって、することが当たり前のことになっていくから」
「当たり前になるの? 本当に? うーん、嫌なことって、ずっと嫌なままな気がするなぁ」
「そう思うよな。でも、本当なんだ。やる前はなかなか信じられないだろうけど」
と、そこでしばらく考えて、思い出したように直樹は言った。
「ほら、挨拶! 小さい頃のマコはさ、知ってる人にさえ恥ずかしがって、自分から挨拶できなかっただろう? でも、今は平気でできるようになってるじゃないか」
「あっ、そうだね! うん、今は逆に挨拶しないと嫌な気分になるよ」
「いつもしていることは習慣化するんだよ。習慣化したことはストレスなくやることができる。知ってるか? 世の中にはな、ごめんなさいやありがとうだって、くだらないプライドのためや、言わなくても分かってくれてるだろうっていう勝手な思い込みとかで、なかなか言えない人もいるんだぞ」
「そうなの?!」
真は驚いた。悪いことをして謝ることや、人に親切してもらってお礼を言うことは、真にとって当たり前のことだからだ。
それができない人? 意味が分からない。
「不思議だね。僕だったら言わない方が嫌な気分になっちゃうな。なんだか悪いことしたみたいな後ろ暗い気持ちになっちゃいそう」
その言葉を聞いて、直樹が嬉しそうに笑った。真の頭を撫でる。
「マコは本当に良い子だな。よし、じゃあマコに問題を出してみようか。AくんがBくんを虐めているところを見かけました。さて、マコはどう行動すべきだ?」
「うーん、僕がBくんなら助けて欲しいと思うから、急いでAくんを止める?」
「普通だったらそう考えるよな。でもな、この場合の正解は”分からない”だ」
「え?!」
その答えに、真は驚いて大きく目を見開いた。
初めて直樹とエッチなことをして以降、週に一度、真は月曜日にお隣へ通うようになっている。
日曜日の夜に心を込めてお菓子を作り、翌日、学校が終わるとそれを持って直樹に会いに行く。そこで二人だけの甘い時を過ごすのだ。
会う日を月曜日にしたのは、直樹の両親が仕事で家にいないからだ。誰にも邪魔されず、二人の関係がバレないようにするためにも、月曜日の逢瀬が都合良かった。
少し前までは、道場に行く時くらいしか直樹に会えなかった。それを考えると、週に一度とはいえ、ゆっくりと時間を取って会える今は、真にとって天国のような日々と言えた。
そんな真の機嫌の良さを、当然のように周囲は敏感に感じ取る。
穏やかで優しい性格をしている上に容姿も綺麗に整っている真は、元々、学校の教室でも女子からかなり人気の男子だった。自分からは必要以上に女子に話しかけず、控えめで落ち着いた空気感もまたいいのだと、元気系女子から大人しい系女子まで、あらゆる層から熱い視線を送られていた。
そんな真が、このところものすごく機嫌が良い。
話しかけた時に「なに?」と目を合わせてくるその時の顔が、とんでもなく優し気な笑顔なのだ。体中から幸せオーラを常に発している。
そんな風に、いつも楽しそうで幸せそうにしている真の傍には、いつも以上に自然と人が集まってきた。近くにいるだけで、くだらない雑談をして一緒に笑い合うだけで、幸せ気分のおすそ分けがもらえて自分まで明るい気持ちになってくるのだから、それも当然である。
幼稚園の年長までの真は、周囲にたくさんの友達がいることを苦手としていた。引っ込み思案で大人しく内向的なせいで、自分の意見を他人に主張することができない子供だったからだ。いつも周りの人間の言いなりにばかりなっていた。
けれども直樹と出会って、ものすごく大切にされたおかげで、自分という存在に自信が持てるようになり、少しずつ少しずつ変わっていくことができた。
今でも根本的な性格は変わっていないのかもしれないが、それでも昔よりは明るくなったし、他人という存在を怖がることなく接する勇気を持てるようになっている。
今の真は昔とは違い、見た目も良ければ性格もいい。合気道の道場にずっと通っているだけあって体も綺麗にひきしまっているし、学校の成績だって悪くない。それでも奢ることなく他人の心を慮り、思いやりをもって接することができるという、そんな人間に成長してきている。
すべて直樹のおかげだ、と真は思っていた。
幼稚園の時に直樹に懐いて以来、真は直樹の部屋に入り浸るようになった。直樹はどんな時も嫌な顔ひとつせず、真を受け入れてくれた。そして、一緒にゲームをしたり、本を読んだりしてくれたのだが、中でも真は、直樹がしてくれる日常の教訓ともなるべき話を聞くことが一番好きだった。
直樹のベッドの縁で二人隣り合って腰を下ろすと、真はその日の出来事の中で疑問に思ったことや納得のできなかったことなどを直樹に話し、それに対して意見をもらう。どんな些細なことにでも、いつも直樹は真面目に考えて、自分の意見を話してくれるのだ。
年下だからとバカにすることなく、直樹はいつも真剣に話を聞き、真面目に返答してくれる。真はそれを聞くことで、自分と他人との考えの違いを知り、それについてまた考え、出た答えを直樹に話してまた意見をもらう。十人十色という言葉を知ったのは、こうやって直樹と話していた時だ。
そうやって、自分よりかなり年上の直樹と話をすることで、真の視野は大きく広がっていった。
自分が今、級友たちに好かれる人間になれているのは、直樹とたくさん話をしてきたからだと真は思っている。人見知りだった自分が多くの友人たちを持ち、みんなと仲良くしようと思ったのも、直樹からその必要性を教えてもらったからだ。
それは確か、直樹のこんな話から始まったんだったな、と、真は当時のことを懐かしく思い出す。
「自分がされて嫌なことは人にすべきじゃないし、逆に自分が人にされて嬉しいことは、どんどん他の人にもしてあげるといいよ。最初は大変でも、無理をしてでもやり続けてごらん。それはいつの間にかマコにとって、することが当たり前のことになっていくから」
「当たり前になるの? 本当に? うーん、嫌なことって、ずっと嫌なままな気がするなぁ」
「そう思うよな。でも、本当なんだ。やる前はなかなか信じられないだろうけど」
と、そこでしばらく考えて、思い出したように直樹は言った。
「ほら、挨拶! 小さい頃のマコはさ、知ってる人にさえ恥ずかしがって、自分から挨拶できなかっただろう? でも、今は平気でできるようになってるじゃないか」
「あっ、そうだね! うん、今は逆に挨拶しないと嫌な気分になるよ」
「いつもしていることは習慣化するんだよ。習慣化したことはストレスなくやることができる。知ってるか? 世の中にはな、ごめんなさいやありがとうだって、くだらないプライドのためや、言わなくても分かってくれてるだろうっていう勝手な思い込みとかで、なかなか言えない人もいるんだぞ」
「そうなの?!」
真は驚いた。悪いことをして謝ることや、人に親切してもらってお礼を言うことは、真にとって当たり前のことだからだ。
それができない人? 意味が分からない。
「不思議だね。僕だったら言わない方が嫌な気分になっちゃうな。なんだか悪いことしたみたいな後ろ暗い気持ちになっちゃいそう」
その言葉を聞いて、直樹が嬉しそうに笑った。真の頭を撫でる。
「マコは本当に良い子だな。よし、じゃあマコに問題を出してみようか。AくんがBくんを虐めているところを見かけました。さて、マコはどう行動すべきだ?」
「うーん、僕がBくんなら助けて欲しいと思うから、急いでAくんを止める?」
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「え?!」
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