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最終話 後篇
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カーフェン王国の王子として生きていた頃のエミリオは、いつも寂しそうだった。
ふとした時に見せる表情はどこか覇気がなく、未来を夢見ることができず、人生を諦めたような悲しい顔ばかりしていた。
誰からも愛されることなく、実の父親から常に命を狙われていたのだから、それも仕方ないことだろう。
けれど、今のエミリオは違う。楽しそうな笑顔を頻繁に見せるし、未来のことを考えられるようになっている。
「ねえローベルト、来年はあの野菜を育ててみようよ。すごく美味しいんだって」
「やっぱり飢饉の時のための食糧の備蓄は必要だよね。保存食、今度一緒に作らない?」
「来年か再来年、余裕があったらヤギをもう一匹飼いたいな。子供を産ませてさ、数を増やしてチーズを作ってみたいんだ」
「僕は不器用じゃないはずなんだけど、針仕事はちょっと苦手だな。でも待ってて! 絶対に上手になって、その内ローベルトの服を僕が手作りしてあげるから。何年かかるか分からないけど、楽しみにしててね」
エミリオの語る未来には自分が必ずいる。それだけでローベルトは嬉しくて堪らない。
けれど、まだまだ足りない。
もっともっと楽しい未来をエミリオに想像させてあげたい、幸せを感じて欲しいと思ってしまう。
そのために、ここ最近のローベルトには、エミリオのために密に計画していたことがある。それはこの地に孤児院を作ることだ。
子供を持ち、育てる幸せをエミリオに感じさせてあげたい。子供たちの将来を楽しみにするという幸せを教えてあげたいと、そう思ったことが発端だ。
資金ならある。
ローベルトが生まれた時、大喜びした父親が母親に金山二つと銀山を一つを祝いとして贈ったのだが、母親亡き今、三つの鉱山はローベルトのものとなっている。
おかげで莫大な不労収益が毎月転がり込んでくるローベルトにとって、田舎で孤児院を一つや二つ経営することなど少しの痛手にもなりはしない。
実を言うと、孤児院での働き手も既に決まっている。王立学院の寮母をしていた、あのロレーヌという名の女性である。
戦争後に学院が廃校になったため、ロレーヌは職を失って生活に困窮しているらしい。手紙を送って孤児院で働くことを提案したところ、大喜びでベルネック国まで来てくれることになった。
ロレーヌとの話がまとまったところで、ローベルトは孤児院経営の計画をエミリオに話した。すると、感極まったエミリオに抱きつかれたのである。
「ローベルト! 君って本当になんて素晴しい人なんだろう!」
「反対しないのか? 孤児院の経営は金もかかるし、責任も重い。かなり大変だと思うけど」
「反対なんてするわけないじゃないか! 金銭面のことは確かに大変だろうけれど、僕もがんばって働くし、きっと町の人たちも協力してくれるよ」
自分が皇帝の庶子であることを、ローベルトは今も内緒にしている。今後もエミリオに言うつもりはない。その必要を感じないからだ。
財産は少しだけ持っているが、それはブラント商会からもらったものだとエミリオには説明している。大金を持っていると知られて、ほぼ無一文のエミリオに引け目を感じさせたくないからだ。
「ああ、すごいなぁ、孤児院かぁ。できるだけたくさんの子供たちの助けになれるといいね」
「そうだな。頼りにしてるぞ、エミリオ」
エミリオは嬉しそうに笑いながら「うん!」と頷いた。
ローベルトは甘く目を細めると、エミリオの額にそっと口付ける。
「俺たちの手で、子供たちに幸せな未来を作ってあげよう」
「うん、そうだね」
満面の笑みを浮かべるエミリオを見ている内に、ローベルトの頭の中にある映像が思い浮かんだ。それは孤児院で働くエミリオと自分の姿だ。
忙しそうに子供たちの世話をしながらも、とても楽しそうにしているエミリオは、誰の目から見ても文句なくかわいらしい。そして、その隣にいる自分が、見たことのないほど幸せそうな表情をしていることにローベルトは気が付いた。
「……そうか、改めて気付かされたけど、俺の幸せはエミリオとずっと一緒にいることと、エミリオが幸せで楽しそうにしていることなんだな……」
ぼんやりとそんなことを呟いたローベルトにエミリオが食ってかかる。その顔は真っ赤だ。
「こっ、孤児院の話をしていたのに、どうして急にそういうこと言うんだよ。しかも真顔で……び、びっくりするじゃないか。そ、そりゃ嬉しいけど、は、恥ずかしいというか……うう、顔が熱い」
「俺の愛が嬉しくて赤くなったのか? エミリオは本当にかわいいな」
「も、もうっ、またそんなこと言って!」
増々顔を赤くするエミリオを、ローベルトがぎゅーっと抱きしめた。
「仕方がないだろう。全部本当のことだ。愛してるよ、俺のエミリオ」
にこにこと機嫌のいいローベルトを見て、エミリオは脱力してため息をついた。
「まったく、君は本当に、出会った頃からずっとマイペースだよね」
「嫌か?」
「ううん、そういうところ、すごく好きだ。それに言わせてもらえば僕だって、僕の幸せもローベルトとずっと一緒にいることだし、ローベルトの幸せが僕の幸せだって、いつも思ってるよ。だ、だって、僕だって愛しているんだから、と、当然だろう?」
最後の言葉は聞こえるかどうかくらいの小声で言うエミリオは、さっきまで以上に真っ赤になっている。顔だけでなく耳も首筋までも赤い。
「あーもう、かわいくてたまらないな、俺の王子様は」
ローベルトはエミリオの頭にすりすりと顔を頬を擦りつけた。
「も、もう、またからかって」
「からかってない。孤児院ができて子供たちと暮らすようになっても、こういうスキンシップはやめないからな。子供たちの前でも愛しているって言いまくるし、キスだってしまくってやる」
「ええーっ、それってどうなの?!」
「きっと皆いい子に育つさ」
「そ、そうかなぁ。うーん……」
そんなくだらない話をとりとめもなくすることが楽しくて。
こんな幸せが一生続くことを当然と思える今が、とても幸せで。
元王子と元皇子の二人は、微笑み合いながらお互いを大切に抱きしめ合ったのだった。
end
◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇─◇
読んで下さってありがとうございました!!!
ふとした時に見せる表情はどこか覇気がなく、未来を夢見ることができず、人生を諦めたような悲しい顔ばかりしていた。
誰からも愛されることなく、実の父親から常に命を狙われていたのだから、それも仕方ないことだろう。
けれど、今のエミリオは違う。楽しそうな笑顔を頻繁に見せるし、未来のことを考えられるようになっている。
「ねえローベルト、来年はあの野菜を育ててみようよ。すごく美味しいんだって」
「やっぱり飢饉の時のための食糧の備蓄は必要だよね。保存食、今度一緒に作らない?」
「来年か再来年、余裕があったらヤギをもう一匹飼いたいな。子供を産ませてさ、数を増やしてチーズを作ってみたいんだ」
「僕は不器用じゃないはずなんだけど、針仕事はちょっと苦手だな。でも待ってて! 絶対に上手になって、その内ローベルトの服を僕が手作りしてあげるから。何年かかるか分からないけど、楽しみにしててね」
エミリオの語る未来には自分が必ずいる。それだけでローベルトは嬉しくて堪らない。
けれど、まだまだ足りない。
もっともっと楽しい未来をエミリオに想像させてあげたい、幸せを感じて欲しいと思ってしまう。
そのために、ここ最近のローベルトには、エミリオのために密に計画していたことがある。それはこの地に孤児院を作ることだ。
子供を持ち、育てる幸せをエミリオに感じさせてあげたい。子供たちの将来を楽しみにするという幸せを教えてあげたいと、そう思ったことが発端だ。
資金ならある。
ローベルトが生まれた時、大喜びした父親が母親に金山二つと銀山を一つを祝いとして贈ったのだが、母親亡き今、三つの鉱山はローベルトのものとなっている。
おかげで莫大な不労収益が毎月転がり込んでくるローベルトにとって、田舎で孤児院を一つや二つ経営することなど少しの痛手にもなりはしない。
実を言うと、孤児院での働き手も既に決まっている。王立学院の寮母をしていた、あのロレーヌという名の女性である。
戦争後に学院が廃校になったため、ロレーヌは職を失って生活に困窮しているらしい。手紙を送って孤児院で働くことを提案したところ、大喜びでベルネック国まで来てくれることになった。
ロレーヌとの話がまとまったところで、ローベルトは孤児院経営の計画をエミリオに話した。すると、感極まったエミリオに抱きつかれたのである。
「ローベルト! 君って本当になんて素晴しい人なんだろう!」
「反対しないのか? 孤児院の経営は金もかかるし、責任も重い。かなり大変だと思うけど」
「反対なんてするわけないじゃないか! 金銭面のことは確かに大変だろうけれど、僕もがんばって働くし、きっと町の人たちも協力してくれるよ」
自分が皇帝の庶子であることを、ローベルトは今も内緒にしている。今後もエミリオに言うつもりはない。その必要を感じないからだ。
財産は少しだけ持っているが、それはブラント商会からもらったものだとエミリオには説明している。大金を持っていると知られて、ほぼ無一文のエミリオに引け目を感じさせたくないからだ。
「ああ、すごいなぁ、孤児院かぁ。できるだけたくさんの子供たちの助けになれるといいね」
「そうだな。頼りにしてるぞ、エミリオ」
エミリオは嬉しそうに笑いながら「うん!」と頷いた。
ローベルトは甘く目を細めると、エミリオの額にそっと口付ける。
「俺たちの手で、子供たちに幸せな未来を作ってあげよう」
「うん、そうだね」
満面の笑みを浮かべるエミリオを見ている内に、ローベルトの頭の中にある映像が思い浮かんだ。それは孤児院で働くエミリオと自分の姿だ。
忙しそうに子供たちの世話をしながらも、とても楽しそうにしているエミリオは、誰の目から見ても文句なくかわいらしい。そして、その隣にいる自分が、見たことのないほど幸せそうな表情をしていることにローベルトは気が付いた。
「……そうか、改めて気付かされたけど、俺の幸せはエミリオとずっと一緒にいることと、エミリオが幸せで楽しそうにしていることなんだな……」
ぼんやりとそんなことを呟いたローベルトにエミリオが食ってかかる。その顔は真っ赤だ。
「こっ、孤児院の話をしていたのに、どうして急にそういうこと言うんだよ。しかも真顔で……び、びっくりするじゃないか。そ、そりゃ嬉しいけど、は、恥ずかしいというか……うう、顔が熱い」
「俺の愛が嬉しくて赤くなったのか? エミリオは本当にかわいいな」
「も、もうっ、またそんなこと言って!」
増々顔を赤くするエミリオを、ローベルトがぎゅーっと抱きしめた。
「仕方がないだろう。全部本当のことだ。愛してるよ、俺のエミリオ」
にこにこと機嫌のいいローベルトを見て、エミリオは脱力してため息をついた。
「まったく、君は本当に、出会った頃からずっとマイペースだよね」
「嫌か?」
「ううん、そういうところ、すごく好きだ。それに言わせてもらえば僕だって、僕の幸せもローベルトとずっと一緒にいることだし、ローベルトの幸せが僕の幸せだって、いつも思ってるよ。だ、だって、僕だって愛しているんだから、と、当然だろう?」
最後の言葉は聞こえるかどうかくらいの小声で言うエミリオは、さっきまで以上に真っ赤になっている。顔だけでなく耳も首筋までも赤い。
「あーもう、かわいくてたまらないな、俺の王子様は」
ローベルトはエミリオの頭にすりすりと顔を頬を擦りつけた。
「も、もう、またからかって」
「からかってない。孤児院ができて子供たちと暮らすようになっても、こういうスキンシップはやめないからな。子供たちの前でも愛しているって言いまくるし、キスだってしまくってやる」
「ええーっ、それってどうなの?!」
「きっと皆いい子に育つさ」
「そ、そうかなぁ。うーん……」
そんなくだらない話をとりとめもなくすることが楽しくて。
こんな幸せが一生続くことを当然と思える今が、とても幸せで。
元王子と元皇子の二人は、微笑み合いながらお互いを大切に抱きしめ合ったのだった。
end
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読んで下さってありがとうございました!!!
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(3件)
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エミリオとロベルト二人が幸せになっ良かった〜🩷🩷🩷🩷ロベルトはほんとにすごい!いつまでも皇子なのは隠し通して二人で更に幸せになってください~🤭🤭
二人が幸せになって嬉しいです。
ありがとうございます!
なんとか幸せにしてあげることができました(∗ˊωˋ∗)
読んで下さって感謝します!!!!
こんばんは。
エミリオ王子、可哀想です(*´>д<)
クソ国王とクソ王妃なんて放っておいてさっさとローベルトと幸せになって!
そんなクソ王家なんてさっさと滅びればいいのに!
こんばんは!
ご感想ありがとうございますm(_ _)m
エミリオに優しい言葉をありがとうございます( ´ ▽ ` )
ハッピーエンドですのでご安心を!