ゆっくり進みながらも振り返ろうとする心情を、人は愛と呼ぶのです

はるた

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水族館 2

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「ん? どした、ケイン」
「……俺の身長だと水面しか見えなくてな、だが、しゃがむと後ろに迷惑になりそうで……」

 オロオロと困惑したように眉を下げるケイン。
 膝を折ると近くの小学生に当たりそうで、しかしそのままではポンプのせいで揺れる水面と飛び出た水草しか見えないのだと小さく呟いた。
 後ろにいた小学生らしき子供は、背伸びで水槽の中を見ようとしているというのに。
 ケインは背を丸めても水槽の中が見られない、高身長がこんなところで弊害になるなんて、誰が思っていただろうか。
 初めて見るケインのその顔と情けない声音に、優吾は我慢ならないと肩を震わせる。

「ふ、ふふっ……そう、だな……っ、」
「……隣の水槽も、俺の目線では壁だ」
「ふはっ! ま、まって、ほんとだっ……ケイン、背、たかっ……!」

 最初のコーナーは平均的な日本人の身長、大きくても百八十くらいの人までしか想定していないらしく、規格外のケインでは見ることすら困難だとは。
 丁度人が捌けたところで、優吾が笑いつつも今ならしゃがんで平気だと言えば、ようやく水槽の中を見られたようで嬉しそうにしていた。その表情の変わりように、優吾の口角が今度は穏やかに上がる。

「ここって、結構新しいからさ。もっと大きく作られてると思ったわ」
「まあ、子供に淡水魚の魅力を伝えるために低めに作られていると思えば仕方ない」
「水族館の人みたいな感想だな? 奥の方の水槽は縦に長いから、そっち行くか」

 魚の生態によって水槽の形が変化しているのは面白い。
 しかし、やはりといえばいいのか、淡水にすむ水生生物のイモリやカニのボックス型水槽は優吾でも低いと思う位置にあったため、もはやケインは膝をついて見ようとしていた。
 いや、なんなら膝立ちでも微妙かもしれないという事態を目の当たりにし、優吾は今度こそ笑い声を上げてしまった。
 控えめではあるがそれでも堪えきれず笑う優吾。周りからの生温かい視線を感じつつも、もう気にする余裕はない。

「……俺のような体躯の人間は、やはり大海原に出るしかないんだな」
「あはっ、ひ、な、なに言って」
「優吾、見ろ。やはり海なら俺を受け入れてくれる」
「待って、もうほんと、限界っ……!」

 淡水コーナーが終わり、日本の海の生き物と書かれた水槽の前でケインは両手を広げたまましたり顔を見せている。
 ケインの身長でも頭二個分高い水槽。逆に言えば、ケインは頭二個分しか余裕がないということだ。
 おまけに、その水槽内を周りの人たちは見上げているが、ケインは視線を下げて魚たちを眺めている。
 あまりにも想像していなかった図に、笑いの沸点が低くなった優吾はまともに中を見る余裕がない。

「あ~もうっ! ケ、ケイン、ふはっ、も、そん、面白いの反則だろ!」
「そうか? ああほら、奥の方にカニがいるぞ」
「普通そんな奥見えないって!」

 わざと言っているのだろう、ケインが指差す先は、優吾が背伸びをしてギリギリ視界に入る程度だ。
 腹から笑う優吾にケインは満足げな顔をしているが、あいにくケインの一挙手一投足全てがツボに入っている優吾はそれに気付かないまま、必死に息を吸って落ち着こうとしていた。

「ははっ、はぁ~……やばい、ケインお前、そんなキャラだっけ?」
「俺は事実を言っていただけなんだが」
「そっか、ふふ……水族館じゃなかったら俺、もっと笑ってたな」

 日本の海から世界の海へと水槽の中の生き物が変わっていき、大水槽まで来ればもうケインの背の高さも気にならなくなった。
 都内にある水族館の中で最も大きいとパンフレットに書いてあった、目玉である巨大水槽。その水槽を囲むように熱帯魚が入った小さなアクアリウムが設置されており、子供は大水槽、大人はアクアリウムといった風に分かれて中を覗いている。
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