先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います!【番外編連載中】

あか

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番外編-未来編

ある夜の話ーSide.A

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アキ 視点




◇     ◇     ◇


昨夜は、次の日が久しぶりの休みということもあり、お互い家で酒を飲みすぎて、落ちてしまった年下の恋人をベッドに連れていって、寝かせようとして。
動かしたせいで起こしてしまった。寝惚けてるのか、ぼんやりした顔つきでこちらを見たあと、へらり、と気の抜けた笑みを見せてきた。


「……先生?」

「おー。ようやく起きたか?この酔っぱらい」

「えへへー……だってー、先生と飲むお酒は、いつだって美味しいですもーん」

「もーん、じゃねえよ。もうガキじゃねぇんだから、ったく」

「当たり前でしょー?俺、ちゃんと稼いでるもん。ちゃんとした、大人だもーん」

「はいはい、そうだな、大人だから、酒飲むんだもんな。たく……ガキだった頃のお前ですら、ここまで子供っぽくなかったはずなんだがな?」

「だってぇ、早く、大人になりたかったもんー。
大人だったら、アイツらのことをちゃんと守ってやれるしー。
大人だったら、先生の隣にどうどうとならべるしー。
……大人だったら、こんな俺でも。先生は、安心して俺の事好きになってくれるかなって」

「……月島?」


随分深酒したものだ、とは思ってはいたが。
ここまで支離滅裂になったのを見るのは、初めてかもしれない。
今までも酒を飲んだのを見た事はあるし、一緒に飲んできたが。

いつもヘラヘラ、楽しそうにしていたから。
笑い上戸なんだろうと、ずっと思っていた。



だから、見落としていたんだ。
いつもなら、きちんとセーブをしていたのだと今の今まで気づかなかったこと。
こんなにも前後不覚になるまで酔ったコイツを見るのは初めてだったこと。


ーーだからこそ、今になってやっと見つけられることが出来た。
まだコイツの中で燻っていた、深い傷を。


「ごめんなさい……ごめんなさい。大人だったら、先生に迷惑かけずに、すんでるのに」

急にボロボロと涙を零し、謝罪を繰り返す。
目の前にいる俺のことを忘れて、何度も、何度も。


「俺、卑怯だ。先生の生徒なら、きっと。生徒思いの先生は、俺を見捨てないって。そんなこと、思って」

「汚い気持ちで愛して、ごめんなさい……」

「好きになって、ごめんなさい……」


ごめんなさい、ごめんなさいと。
泣きながら謝り続ける月島に。



今更、気付いてしまった。


あの時の事件は。
俺が思う以上に、こいつの心に相当深く、根深いものになっていたことに。





(……誰だよ。アイツにここまで、クソ最悪な呪いをかけやがったのは……っ!)

一瞬思い浮かんだのは、馬鹿みたいな返答をしていた、あの宇宙人の姿。


ーーいいや、違う。
俺があの時、あんな戯れに乗って、勝手に気まずい思いをして。

ーー不可抗力とはいえ、強く拒絶したことも。
あの時の絶望した顔も、忘れられない。

1人にさせなければよかった。
アイツを弱らせるまで放っておいて、アイツが優しいのをいいことに今までぬくぬくと甘えてきた俺が。


一番、クソ野郎だ。




「……すまない。ほんとに、悪かった」


泣き続けてそのまま眠り込んでしまった子供の涙のあとを、今更拭いてやりながら。


どう、償えばいい。
どう、声をかけてやればいいんだ。


深く悩みながら、その夜は過ぎていく。



次の朝、起きたらアイツは覚えていなかった。


お酒飲みすぎて迷惑かけたらすみませんと、謝ってきたから、これくらい気にするなと、言ってやった。

そう。コイツは、何も悪くない。



「……クソが。まだ、か」



ーーーあの時のことは、今思い出しても、胸糞悪い。



『汚い気持ちで愛して、ごめんなさい……』
『好きになって、ごめんなさい……』



いつの間にかいらない謝罪を口にしては、ボロボロ涙を流す、バカな相方を見て。


ーーあの時の傷が、今でも深く深く、アイツに刻み込まれたままであることに。
今更、自分のしでかした過ちの大きさに、改めて気付かされる。

あの時、自分が馬鹿な思いつきをしたせいで。

今もまだ、コイツは悪夢に魘されている。



「………」



腕の中でまた眠ったコイツの寝息は、すやすやと気持ちよさそうなのは、俺がこうして抱きしめてやっているからだと、自惚れることにする。


どんなに時間がかかってもいい。

コイツの出来た傷跡を、俺が少しでも埋めてやって。それで。


もう二度と、夢の中で魘されずに済むようにしてやりたい。
年上のクセに、散々コイツを振り回してしまった俺だけど。

どうか、少しでもコイツの心が癒されますように。


あの夜から、何度も祈り続けて。
今日も願いながら、腕の中の大切な存在を優しく、くるまってやるのだ。


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