先生、いきなり人の後ろから壁ドンするのはどうかと思います！【番外編連載中】

番外編-未来編

ある夜の話ーSide.N

ナオト 視点





◇     ◇     ◇


ーー今でも、夢に見る。

彼に汚いと言われた時のあの顔が。表情が。

勿論、先生本人からそんなことは言われたことはない。
先生は、優しいから。
思っていたとしても、俺には言わないだろう。

だけど、いつか。

言われてしまうかもしれない。


彼に言われた言葉なのに。
それが先生の顔になって、それで。



「……っ！」

目を覚ますと、そこは見慣れた部屋の天井で。

ふと横目をすれば、隣には、あの時よりも老けた顔の先生が、俺の傍で小さく寝息を立てながら寝ていた。


ーーーこの人が先生で、奇跡が起きて、恋人同士になれて。

これ以上の幸せなんて、烏滸がましいくらいで。


いつか、先生に飽きられてしまっても。
今のこの思い出があれば、俺は生きていける。
だから、大丈夫。


でも、今は。今だけは。

無意識だったか。手を伸ばして今にも先生の頬に触れそうになる寸前で、先生の瞳がぱちり、と開く。


「……ナオ？」




「！  ごめん、なさい。起こしちゃいました、よね？」
「……いや。なんとなくだ。お前こそ、どうした？」

いつの間にか目を覚ましていた先生が、ぼんやりとこちらを見る。

……あんな夢、見た後だけど。
俺、うまく笑えてるかな？

「……なんでもないですよ。先生に、触れたくなっちゃって」
「………」
「あー。喉、渇いたかも。先生も、なにか飲みます？」
「……ナオ」
「え？」

起きようとした俺の腕を制して、先生が俺の名前を呼ぶ。と、そのまま胸の中に俺を抱きしめてくれた。

「えっ、と……？」
「……もう少し、寝るから。大人しく、抱き枕になっとけ」

眠そうな声でそう言いながら。背中から感じる優しい振動で、優しくぽんぽんしてくれているのが伝わった。


(……かなわない、なぁ)


先生は、敏いから。俺の気持ちが落ち込んでることに気付いて、でも俺が話さないと踏んで、甘やかしてくれる。


(幸せすぎて、こわいなぁ)


それでも、今ここにある、限りある優しい時間が惜しくて。
年月が経っても大きな背中に腕を回して、強く、しがみついてみた。