27 / 29
番外編-本編時間軸
後悔と決意 後編
しおりを挟む(ーー俺のせい、だな)
あの日、強引にコイツの口から吐かせた告白を思い出す。
この子供は、出会った当初から公私混同を嫌う大人びた生徒だ。
だから、あの宇宙人の言う通り、俺のことを特別な目で見ていたとしても。別に、どうする気もなかった。どっちでも良かった。
ただ、最近アイツが生意気な口を聞くようになって。ごちゃごちゃと多くなったうるさい小言に、うんざりしてきていて。
今思えば、いつもしてやられる仕返し、みたいな気分だったと思う。
結論から言えば、失敗だった。
後悔したのは、無理矢理気持ちを吐かせた後に、アイツのぐちゃぐちゃな笑顔を見てからだ。
それを見た俺は、衝動的に、逃げてしまった。
そして、あの日以降。アイツは、俺のいる保健室に来なくなった。
それはそうだ。上手く隠してくれていたアイツの気持ちを、無理矢理引っ張り出した上に、踏みにじったのだ。そんな相手に、愛想を尽かさないはずが、ない。
その代わり、近づいて欲しくないうるさい馬鹿ガキは、保健棟から出てくる俺のところへ頻繁に来るようになった。ウザいが、自業自得だと甘んじて受けることにした。
とはいえ、1週間も経てば、色んなやつに好かれたがりのあの馬鹿な宇宙人はやっと俺に飽きてきたのだろう。あのガキも、アイツも来ない。そんな味気ない昼休みをただぼけっとしたと思えば、この騒ぎだ。
「ーー何やってるんだ、俺は」
……こんなつもりじゃ、なかった。
俺はただ、いつもいつも、人のことをぷりぷりと怒る助手の鼻を開かせれば、それでよかった。
ただ、それだけで。
そんな、子供みたいな仕返しを、思いついた幼稚な自分が、恥ずかしい。
教師としても、大人としても。
後手後手に回りすぎて、巻き込んでしまったのは、俺だ。
自分の不甲斐なさに、思わず手が止まり、自己嫌悪の波に飲まれかけていると。
「ーー先、生」
ハッと気づけば、目の前で死んだように気絶していたはずの少年が、ぼんやりと目を開けてこちらを見やる。その口元は、微かに微笑んでいるようにも見えた。
「……こんな時でも笑うのかよ。お前は」
相変わらずのお人好しぶりに、こちらまでつられて笑ってしまう。そんな場合じゃないと分かっていても、軽口を叩きたくなってしまう。けれど、よくよく見れば、彼の目は焦点が合っておらず、意識は混濁してるように見えた。
もしかしたら、夢を見ているような気分なのかもしれない。
「…か、ない、で」
「……?」
「先生、なんだから。そんな顔、しちゃダメ、ですよ……」
「ーーー」
思いもよらぬその言葉に、絶句する。何か言おうとしても、いう言葉が思いつかなくて。はくはくと、口を開けては閉じるのを何度も繰り返す。
「泣かないで、先生。先生は、何もーー悪くない、ですーー」
そう言って、また目を閉じる。
出血もあるし、限界だったのだろう。息も荒く、ぐったりと意識を失ってしまったようだ。
「ーーアホか。こんな時まで、人の心配かよ」
平静を保ってたつもりだが、内心の動揺は見破られていたらしい。
さすが俺の助手、と褒めるべきか。お人好しも過ぎる、と叱るべきか。
ーーそれでも。
「ーー馬鹿野郎が」
だから俺は彼の手を強く握りしめ、決意した。
ーー俺はちゃんと、コイツに謝らなければいけないのだから。
「ーーで。なんでだよ!!意味わかんない意味わかんない意味わかんない……っ!!」
後ろからキンキン高い声が響き、ガンガンと靴音を鳴らして踏み鳴らすウザったい雑音が聞こえる。
仕方なくゆっくり振り返ると、そこには顔を真っ赤にさせた馬鹿ガキが、地団駄を激しく踏んでいた。
元々は整った顔立ちなのだろう。
なぜ隠しているのか分からないが、分厚い眼鏡の隙間から垣間見える細くも綺麗に整えられた睫毛から溢れ出す涙を見ても、何の感慨も湧かなかった。
元々、関わりたくもなかったのだが。
そんな、おそらく美少年と思われるよく分からない生き物は、わななく口元を顔立ちに似合わず醜く引き上げ、甲高い声で罵る。
「なんで!?ソイツはアンタの嫌いなホモなのに、なんで優しくしてるんだよ!!」
「怪我人だからに決まってんだろ。……そうじゃなくても、コイツは曲がりなりにも、俺の助手だ」
「そんなの贔屓だ!アイツだって、ナオトだって俺のこと酷い悪口を言ったのに!!」
知るか。そもそも、お人好しなあのバカをそこまで怒らせたお前自身がよっぽとの地雷を踏んだだけだろう。そう思って聞き流したかったが、奴はまだまだ言い足りなかったようだ。
「ナオトが言うんだ!アキが俺のことを見ないのは、俺が悪いからだって!俺、悪いことなんてしてないのに!!
ナオトはアキに惚れてるくせに、俺の方が悪いって言うんだ!!ナオトの方が気持ち悪いのに!!!」
聞けば聞くほど、自分の責任をあの子に押し付けているだけの我儘にしか聞こえなかった。
こんなどうしようもないガキの提案に乗ったあの時の俺は、本当にどうかしていた。
「ーーだから、なんだ。仮に、ナオトの方が悪かったとして。それがお前に、何の関係がある?」
「えーー?」
まるでわかりませんと、目も口も丸くして、ぽかんと俺を見つめ続けてくる。そんなバカから、俺は視線を逸らした。
「コイツはーー月島ナオトは、俺の助手だ。けど、お前は俺にとって、この学校に所属してるだけの、ただの生徒だ。
そいつが何で、俺たちのことに首突っ込むんだ」
うぜーんだよ、そういうの。
そう言って、ぐったりした彼を頭を動かさないよう気を遣いながら横抱きにする。本当はストレッチャーが来るまで待つのが妥当だろうが、あんな話の通じないクソガキと同じ空間に、これ以上彼を置いていたくなかった。
そして、そのまま宇宙人を無視して、その場を後にしようと奴に背中を向ければ。
「ーー嘘つき!!」
後ろから投げかける言葉に、聞こえない振りをして歩みを進める。が、次の言葉を聞いて思わず足を止めた。
「ナオトにだけ、そうやって甘い顔するくせに!
ーーアンタだって、気持ち悪いホモ野郎じゃないか!!!」
その言葉で、今更胸につかえていた感情の正体を思い知る。
そして振り返りもせず、吐き捨てるように答えた。
「ーーはっ。それは、光栄なこった。
なら、お前が俺に近付く理由はもう、ないよな?」
馬鹿への言葉はもう、それ以上考えたくもない。下手をすれば命に関わりかねない腕の中の少年の安全性を考慮しなかったとしても。もはや彼にかける言葉など、時間の無駄でしかないのだから。
ーーそのまま屋上から去った自分にまだ何か甲高い音が投げつけられた気がしたが、空耳だろう。
そんなことよりも、腕の中で意識を失ったままの彼の方が、余程重大だ。
頭から出血したせいだろう、顔色はますます青ざめており、止血した包帯の赤は、いまだに広がり続けていた。ぐったりと閉じられた瞼からは、いつの間にか涙の痕が残っていた。
もう、これ以上不甲斐ない失敗をすることは出来ない。それほど、彼の現状は一刻を争うものだった。
「ーーまずは、お前を助ける。話は、それからだ」
そう、ぽつりと呟いてから。
俺は腕の中の少年をしっかりと抱え直し、急ぎ保健室へと足早に進めるのだったーー。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
僕はただの平民なのに、やたら敵視されています
カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。
平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。
真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる