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番外編-本編時間軸
後悔と決意 前編
しおりを挟む※本編の上城先生視点のお話です。
時間軸としては「屋上でのうたたねと、いつかの昔話」時点となりますが、先生視点の本編回想にもなります。
後編もありますので、本編と合わせてお楽しみください。
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本当は、前から気付いていたのかもしれない。
けれど、それを気のせいだと思いこんでしまえば。
もう少しの間、クソ真面目な助手と悪くない日常を過ごせると思っていたんだ。
ーーあの、余計な一言さえなければ。
『アキはさ、もし身近に自分のこと好きな人がいても、こっぴどくフることとかできるのか!?』
最近、生徒会の奴らばかりか、何故か俺の周りにもまとわりつくようになった宇宙人みたいなガキが、唐突によくわからん質問を投げかけてきた。
ここ数日、俺の周りにやけにまとわりつきだしたこのクソガキは、理事長の甥にして、最近の学内で起こる事件の中心人物だ。
そこそこ長く生きてきたつもりだが、ここまで意思疎通に困った生徒は過去を遡ってもそうさいない。さながら宇宙人だ。
そんな彼に、いきなり訳の分からない質問をされた意図がまるでわからなかったが。とりあえず、いつも思っていることを、そのまま答えてみる。
『……まあ、女ならともかく。男相手なら、当然だな。生物学的に、男は女と付き合うのが自然なんだよ。いくら身近に男しかいないとはいえ、気持ち悪いもんは気持ち悪いからな』
そう、口では言いつつも。最近、そんなことを言うたびに、心の中では何か、モヤモヤしだすようになっていた。
いつから、自分の信条が揺らぎ始めてしまったのか。
……ふと、脳裏に思い浮かんだ少年の顔を思い出しかけたが、即座に打ち消した。深く考えてしまうのはマズいと、直感的に感じたからだ。
『ふーん…?』
『……なんだ、その反応は』
横道がうるさいのは、いつものことだ。幸い、保健棟には暗黙のルールがあり、病人や怪我人、または関係者でなければ立ち入ってはいけないというのがあるためか、そこにいる時はあの宇宙人に邪魔をされずに済んでいた。
だがその代わり、職員室にいくために校舎に寄るときは何故か無性に絡まれることが多かった。あの派手なスキンシップもだが、それ以上に元患者の生徒と話すときでさえ、奴は空気を読まずに話に割り込んでくるため、ひどく迷惑をしていた。
『いやー、だとしたら、アキって鈍いんだなー、ってさ!』
『……何の話だ?』
だから、次に彼の口から出る言葉なんて大したことない。
そう、思っていたのだが。
『決まってるじゃん?ナオトが、アキのこと好き、っててことだよ!!』
『……!!』
その言葉に、心臓が押し潰されるように縮みこむのが、わかる。
けれど、そんな心中を察せられないように、敢えてぶっきらぼうに振る舞ってみせる。
『……アホらし。そんなデタラメ、真に受けるやつがあるか』
『……ん?ナニソレ、変な反応!……アキなら、すげー長い時間呆けるかと思ったのに』
なんだ。だったら俺、言わなくてもよかったんだ。
そう言って子供のように笑う横道が、酷く気味が悪かった。
どう言って、アイツを置いて保健棟に戻っていったのか、覚えていない。
ただ、帰る途中にふと、有能だが変なところで意地を張る、顔見知りの少年の顔が脳裏に浮かんできたのは、確かなことだ。
もし俺が、あの宇宙人の言ったことを真に受けた振りをしてアイツに問い詰めてみればどういう反応をするんだろう?
最近、少し生意気になってきたお小言ばかり零すようになってきた、優等生のいい子ちゃんな有能な助手が、少しでも動揺すればいいのに、と。
ただの暇つぶしのタネの一つ、だったんだ。
本当に、ただ、それだけのはずだった。
ーーそんな、子供じみた、バカみたいな好奇心が。
今、最悪の形として起こってしまっていた。
アイツのクラスメイトからの知らせに、俺は報告を聞くや否や、数年ぶりに全力で廊下を走り、屋上へ向かう。
息を何とか整えながら、屋上の扉を乱暴に開けて、最初に見えたのは、見知ったはずの姿が、血塗れになって倒れたところだった。
そんな、1週間ぶりに見る助手の変わり果てた姿を目の当たりにしたせいか。
頭の中から血が下がっていく音が、確かに聞こえた。
それでもなお、大声をあげ、殴りかかる馬鹿の姿に、我を忘れて殴りかかりそうな自分を理性で必死に抑えつけ、なんとか言葉を絞り出す。
「ーー何をしている、お前ら」
「……アキ!」
倒れていたアイツに向かって、暴力を振るい激昂していた生徒ーーもはやキチガイ、と言ってもいいかもしれないーーが、俺の声を聞いて、それまでの憤怒の表情がコロリと変化し、笑顔になって俺の方へ駆け寄り抱きつこうと、手を伸ばして走りよってきた。
ーー気持ち悪い。
さっきまでの自分の行為を、忘れてしまったのだろうか?
子供とはいえ、その醜悪な姿に吐き気がする。
よくも、そんな顔で、俺の元に、来れたものだ。
人としても、教師としてもーー倒れている子供を助手として任命した、責任者としても。
目の前の光景は、到底許せるものではなかった。
「それ以上、近付くな」
いつにも増してドスを効かせた自覚はある。
空気をまるで読むことがないクソガキでも、俺の機嫌が最底辺になってることには気付いたのだろう。その場でピタリと止まったかと思えば、俺に触れようと伸ばした手をしぶしぶ下ろし、唇を尖らせ拗ねた顔をしてみせた。
「だって……聞いてくれよアキ!ナオトったら、ヒドイんだぜ⁉︎自分はアンタに惚れてるくせに、純粋にアンタと友達である俺を何でか悪者扱いするんだぜ!ヒドイよな?なっ??」
「ーーテメェが、それを言うのか。血まみれになってる“オトモダチ”を放っておいて、笑顔でそう人をなじる、その口で」
「……え?」
開口一番で罵った俺のことを、理解出来なかったのだろう。
だが俺からしてみれば、ソイツ自身のことが理解できなかった。
自分の拳に付着した血液を拭おうともせずに、俺に抱きつこうとする。ーーどんな神経を持てば、俺がお前を笑顔で迎えいれると思っているんだ?
そんな救いようもないガキの傍を通り過ぎ、俺は倒れたまま身動ぎ1つもしない、子供の元へと歩みを進めた。
倒れた彼の傍に近付き、怪我の状態を見るために膝を着いて様子を見る。
ーー近くで見れば、さらに悲惨さがわかる。見れば見るほど、酷い怪我だ。
頭から血を流してるだけでなく、顔も腫れてるわ、服もボロボロだわ、あげく床に血溜まりが出来るほど出血量が激しいわ……立派な暴行事件の完成だ。
呼びかけて辛うじて意識があることがわかり、とりあえず応急処置を施す。
よくよく見遣れば、怪我しただけにしては、ヤケに弱っているように見えた。力なくほんの少しだけ開いた瞼の下には、大きな目のクマも色濃く残っていた。
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