こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!

濡れた姿はなんとやら

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「泡流すぞー。」


 絶頂の余韻も冷めやらぬうちに、後ろから温かいお湯がかけられた。


「うう…っ。なんでそんなに平常心なんですかぁ……」
「逆に、お前はなんでいつまでもそんなにウブなんだ?」


「僕が変なの? どう考えたって恥ずかしくない?」
「少なくとも、大抵の奴はお前の倍は免疫があるわな。」


「あうぅ……」


 その事実に、フィレオトールは撃沈。


 まあ、ヴァリアでは一切隙を作らずに鉄壁の笑顔で周囲を遠ざけていたフィレオトールだ。


 夜の話ができるほどの友人がいなかったのは周知の事実だし、彼の過去を知っているキシムの人々がそんな話をするとは思えない。


 フィレオトールを神様のように慕う商会の人々に至っては論外。


 こうして考えると、フィレオトールが夜の実情にうといのはある意味仕方ないのかもしれない。


 ……だからその分、こちらが好きなように誘導できるのだが。


「フィル、こっち向け。」


 ほくそ笑みをすぐに隠し、ノクスはフィレオトールの肩を掴んで回す。


 嫌がることなく振り返ってきたフィレオトールの唇を塞ぐと、彼は素直にキスを受け入れる。


 いちいち飛び上がったり逃げようとしたりと過剰反応をするフィレオトールだが、それでも変化がゼロというわけではない。


 キスくらいは平気で受け入れられるようになったというか、むしろ最近は恥ずかしさより嬉しさの方が勝ってきたようだ。


 こんなレベルで満足するな。


 このまま愛されることが普通だと感じるようになって、どんどん欲張りになってしまえ。


 そして、いつだって自分を求めるようになればいい。


 低すぎる幸せの沸点など、打てる手を尽くして上げていってやる。


「今日のフィルは、一段と綺麗だな。」


 フィレオトールの頬をなぞり、ノクスは微笑む。


 水滴を滴らせる髪が肌に貼りつき、その白い肌はほんのりとピンク色。
 瞳も唇もうるおいに富んでいる。


 濡れた姿が扇情的だとはよく語られるが、本当にそうだなと思う。
 恋人フィルターもかかって、魅力度は軽く百パーセント越えである。


「そ、そんな恥ずかしいこと言わないでよ……」


 フィレオトールは、どこか狼狽うろたえぎみ。
 その反応に、ノクスは小首を傾げる。


「何を今さら…。こんなこと、腐るほど言われてきただろうに。」
「あんなの、ただの社交辞令でしょ。それか、精霊の加護のせいだよ。」


(違うんだよなぁ……)


 心の中で、ひっそりと否定。


 フィレオトールの容姿を絶賛する声には、世辞など一切なかった。


 フィレオトールを見た人々から純粋に飛び出す言葉が、〝美しい〟であったり〝綺麗〟だったりなのである。


 華奢きゃしゃな体格も手伝って、一部の間では女性じゃないのがもったいないと言われていたほど。


(女装か…。今度試してみようかな……)


 新たに湧いた興味は、瞬く間に自分の好奇心をそそってくる。
 上手いこと言いくるめてみよう。


 予想外の方向から飛び込んできた楽しみに心を躍らせていると、フィレオトールがまた口を開いた。


「社交辞令は受け流せるんだけどさ…。ノクスに言われると、その……やっぱ嬉しいし、意識もするじゃん……」


 消え入るような声で言うフィレオトールは、次に頬を赤く染める。


「まったく…。そういうことを言うのは、マジでおれの前限定にしろよ?」


「言われなくても、ノクスの前でしか言えないよ。ノクスに言われないと、こんなにドキドキしないんだから。」


「ああもう、お前ってやつは……」


 縮こまるフィレオトールをそっと抱き締める。
 とはいえ、余裕ぶって見せているのは表面上だけ。


(こいつは、襲われるためにでも存在してるのか…っ)


 その内側は、穏やかではなかった。


 天井知らずの可愛さに少しは慣れてきたと思っていたのに、まだ隠し玉があるのか。


 フィレオトールが引くだろうから我慢しているが、今の心境を態度で表現していいなら、胸を押さえて地面に転がっているところだ。


 自分の気持ちに素直じゃないのは要改善だなと日頃から感じていたものの、素直になったらなったで考えもの。


 翻弄ほんろうされるこちらは、常にときめきによる心停止の危機に瀕している。


「さてと、そろそろ上がろう。」


 激情をぐっとこらえ、ノクスはフィレオトールを解放した。


「へ…?」


 フィレオトールは、パチパチとまばたきを繰り返す。


「もう……終わり?」


 水色の双眸が、意外そうに揺れている。


 よしよし。
 これもいい傾向だ。


 まだ足りないという意味じゃないだろうが、中途半端なところで打ち止めとなる違和感を口にすることができるようになったか。


 ここは「期待してたのか?」と訊ねて慌てさせたいところだが、それがきっかけでこういう発言ができなくなっても困るので。


「まあな。十分楽しんだし、このままだとお前がのぼせて倒れちまうかもしれないからな。」


 元から用意していた理由を告げると、フィレオトールが心なしかほっとした様子を見せる。


 おや、何を勝手に安心しているのやら。
 ここでは終わりとは言ったが、今日は終わりだなんて誰も言ってないぞ。
 こういうところは、まだまだ甘いな。


「続きは、ベッドでゆっくりと……な?」


 ちょっと意地悪をしてみたくなって、あえて耳元でそうささやいてやる。


「!」


 緊張で息をつまらせたフィレオトールは、顔をさらに赤くして唇を震わせる。


 期待どおり、百点満点の反応だ。


 ノクスは、満足そうに笑みを深めるのだった。

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