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拗らせすぎる知事予定の夫妻たち(三男除く)

ジャポン皇国皇室事情1

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駅からまた馬車に揺られて着いた先は、やはり姫路城の外観だった。美しい…。高校生の時とか、まったく興味なかったし、就職してからはまだしも結婚後は仕事以外引きこもってたし…ほんとにもったいないことしてたのね、私。もっとたくさん、外に出ていくべきだったなぁ…。転生したこの世界で3年後に無事に離縁できたら、世界中を旅してみたい。そのために言語も文化も勉強したい。ソフィアには、なんにも積み重なったものがないし。3年なんて、あっと言う間に過ぎちゃうなぁ。がんばろ。まずはあの腐れ皇太子と離縁!

中に入ると普通にエレベーターとかエスカレーターとかが付いてて呆気にとられる。外観だけなんだ。中身は超近代的なんだ。

「今からまず、私の父に挨拶に行きます。そのあと長男のところに参りますので。ソフィアさんにはこの建物内の、長男夫婦の領域にあるゲストルームを準備してあります。食事は皆一緒にとります。父、母、わたくし、妻の早苗、そして子どもたち夫婦です。その時にソフィアさんを紹介させてくださいね。今日来ることは全員に知らせてありますので」

「わかりました」

テクテク英樹さんに付いて行く。天井、壁、床、すべてが真っ白で目がチカチカする。金色のドアの前で止まった英樹さんはノックをし、「陛下、ソフィアさんをお連れしました」と中に進んだ。

二十畳くらいの部屋には、ドアのある壁の対面に天井まで届く本棚があり、びっしりと本が揃えられている。その前に大きな机があり、一人の男性が座っていた。

「よく来たね、ソフィアさん。私が、この国の皇帝、拝田啓一郎です」

皇帝陛下は、焦げ茶色に近い髪の毛で、瞳は黒。65歳で譲位すると聞いたが、実際65歳よりも若く見える。

「初めまして。ソフィア・エヴァンスです。ジャポン皇国に来る機会を与えていただき、ありがとうございます」

陛下は立ち上がると、机の前にある応接セットにやってきて、「座って」とソファを勧めてくれた。

「失礼します」

私の隣に英樹さんも座る。

「さっそくだけどソフィアさん、英樹から話は聞いたよね?蘇芳と撫子について、どうにか離縁を回避させてやってほしいんだ。よろしく頼む」

ニコニコしながら言われるが…。

「あの、一昨日離縁したいと仰ったそうですが、ご長男夫婦をどうして離縁させたくないのですか?」

そう言いながら、『離縁は認めない』と言ったチンピラの顔がふと浮かぶ。あっちはあっちで、なんで皇太子とソフィアの離縁を阻止しようとしているのだろう…。

「孫たちの嫁を決めたのは私だからねぇ。離縁したいなんて言われたら、嫁に申し訳ないじゃない?まだ一年しか経ってないんだし」

「ご結婚されて一年なのですか?」

「うん。4人とも全員、一年前に結婚させたの。合同結婚式だね。各人の年齢は聞いたかな?」

私が首を横に振ったのを見て、皇帝陛下が説明してくれた。

長男は蘇芳さん、24歳。妻の撫子さんも24歳。

次男は羅刹さん、23歳。妻の芙蓉さんは21歳。

三男は上総さん、21歳。妻の紫陽さんは20歳。

四男は朝霧さん、20歳。妻の伽藍さんは24歳。

みんなソフィアより年上だ。

「さっきも言ったようにまだ一年しか経ってないし、蘇芳と撫子はすごく仲良しなのに、なんで離縁したいなんて言い出したかのか…撫子は絶対に離縁しないと言ってくれてるんだけど、一方では、蘇芳に離縁したいなんて言われて落ち込んでるみたいでね。ソフィアさんに入ってもらって、なんとかふたりに話し合いをさせて欲しいの。蘇芳も、まったくの他人になら話してもいいって言ったし、ソフィアさんのことは了承したから。是非にもお願い」

ね?と手を合わせられても困るのだが…。

「とりあえず、お話を聞きます」

「うん。まず、今から部屋に案内するから、その時に蘇芳と撫子も紹介させるね。明日からふたりには休みを取らせたから、一週間くらい3人で話し合ってみてくれるかな?」

「休み、ですか?」

「うん。ふたりとも、私の仕事の補佐官みたいなことをしてくれていてね。熱心なんだけど、無理しすぎちゃうこともあって、なかなか休みを取ろうとしなかったから…いい機会だから、休ませることにしたの」

知事の子どもは、将来自分が知事になることを見越して自分の親の手伝いをしているとばかり思っていたけど、一足飛びに皇帝陛下のお仕事の補佐をしているとは…。

「蘇芳は、何も私に媚を売るためとかじゃなくて、私の仕事量を心配して幼い時から何かと手伝ってくれるんだよ。撫子と結婚してからは撫子の実家がある玄武州の温泉に旅行に行かせてくれたりね。口さがない者たちはそれこそ『皇帝陛下のゴマすり男』なんて言っているらしいが、見ればわかるんだよね。ゴマすりなのか、そうでないか。蘇芳は祖父思いの優しい孫なんだよ」

「おかげでわたくしの仕事は朝霧しか手伝ってくれませんけどね」

英樹さんが拗ねたように言うと、

「だって、羅刹には頼めないって自分が言ったんでしょう」

と陛下が返した。羅刹さん、は、次男だよね。

「だってじゃあ父上は羅刹に仕事を頼みたいですか?」

「…イヤ、かなぁ」

お互いに苦笑いするおふたりに「あの…?」と声をかけると、英樹さんが、

「羅刹はねぇ、その…剣にすべての才能が特化しているいわゆる『脳筋』って感じで…悪い子ではないんだけど、一生懸命だし。優しいし。でもいかんせん、実務はまだまだかなぁ、ってところなんですよ」

「でも、半年後には知事になられるのですよね…?」

大丈夫なんだろうか?

「今、青龍州の知事を務めている私の兄が、羅刹を大層気に入っているのでしばらく面倒を見てやると言ってくれまして。ありがたいことに。なので、心配はしていません。実務に関しては」

なんだか含みのある言い方が気になる。




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