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プロローグ
始まる前に終わったわたしの人生①
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「ルヴィア・オルスタイン。貴様は俺の妃候補から外す。まぁ、今までも外れてたようなものだがな」
ハハハッ、という哄笑に賛同するように周りからも嘲笑が洩れる。
何度も何度も受けてきた悪意あふれる嘲りに身体をすくませて俯いていると、グイッと髪をひっぱられ、無理矢理顔を上に向けさせられる。
痛みで思わず顔をしかめた私に、
「…なんだ、その顔は?なぜ返事をしない!」
忌々しそうに睨み付けるのは、この国の皇太子であるジークフリート・モンタリアーノ。黒い髪に赤い瞳を持ち、なおかつ王族の中でも特殊な力を有する。
「も、申し訳…」
「返事は、と聞いたのだが?お前は聞かれたことに対して、まともな返答もできないのか?
今まで何を学んできた?宰相の娘というだけで、お情けでなんとか三年間通わせてもらったようなものだからな。
落ちこぼれに、求める方が間違っているということか」
私の髪の毛から手を離すことなく上げさせた私の顔を、口の端を吊り上げ冷酷に嗤う殿下が覗き込む。
ジークフリート殿下は誰もが見惚れてやまない美しい顔立ちであるが、常に無表情で鋭い目付きのため『孤高の皇太子』と呼ばれていた。
柔らかい微笑みを絶やさない弟殿下のカイルセン・モンタリアーノ様と異なり、微笑んだところを誰も目にしたことはなかった。
微笑みどころか、表情筋が死滅しているのではないかと思われている殿下が唯一表情を現すのは、私を嘲り罵るときだけだ。
髪を引っ張りあげられている痛みに涙がこぼれる。
「泣けば済むと思っているところが、おちこぼれたる所以だな。こんな人前で感情を露にするなど恥ずかしくないのか?
貴様は俺の妃どころか、貴族としても失格だ」
侮蔑を込めた声で吐き捨てると、ドンッと私を突き飛ばす。
何度も何度も同じことをされてきた。
殴られることはなかったが、こうして突き飛ばされたあと蹴られたり、踏みつけられたりは日常茶飯事だ。
今も、私の背中を踏みつけながら、これ以上ないくらい残虐な顔をしていることだろう。ウサギをいたぶっていたぶって、その様を楽しむ冷酷な獅子のように。
「…貴様は今このときから貴族ではない。
貴様のような臣下は不要だ。穀潰しを養ってやる由縁はない。
身分剥奪の上、生涯修道院で暮らせ。否やはないな?」
それだけ言うと、「連れていけ」と蹴り飛ばされる。身体のあちこちの痛みにうずくまっていると、両腕を捕まれ無理矢理立たされる。
「…おい!」
まだ何か言いたりないのか、それともいたぶり足りなかったのか、また襲い来るであろう恐怖に身をすくませていると、
「そいつは今から修道女だ。いま、このときから!男が触るんじゃない!そのために、女性騎士を控えさせていたんだぞ!オマエたちも、何をボーッとしている!?早く、連れていけ!」
予想もしなかった、しかも私に対する言葉ではないことにしばしぼんやりしていると、慌てたように女性騎士が近づいてきた。腕を両脇から捕られ、「歩きなさい」と言われる。
コクリとうなずき、痛む身体を引きずりながらなんとか歩き出すと、後ろから肩を掴まれた。
「こっちに向けろ」
殿下の言葉に女性騎士たちが慌てて私の体を殿下に正対させ、自分達は膝をついて言葉を待つ。
ノロノロと視線を上げた私の目の前には、今まで見たことのない、熱っぽさをはらんだ殿下の赤い瞳が爛々と輝いていた。鋭い視線で、睨み付けるように私を見ている。
そのまま、私の耳元に顔を近づけてくると、誰にも聞こえないように囁いた。
「…すぐに迎えに行ってやる。おとなしく待っていろ」
その言葉の意味が理解できず、離れた顔を追いかけるようにして見ると、実に愉しそうにニヤリと嗤い…「餞別だ」と言って私の首に何かをかけた。
「今までなんの役にも立たなかったんだ。せいぜい、国が平和であるよう祈りの日々を過ごせ」
そう言って踵を返すと、
「そのゴミを連れていけ。つまらないものを見せたな。さあ、始めようか!」
…今日は、学園の卒業式。
考えもしなかった身分剥奪、修道院送致の決定を受け、私は式に参加することも許されなかった。もう、貴族ではないのだから、と。
身分がないのだから家族など存在しないと断ぜられ、何もかも奪われ失った私は両脇を抱えられたまま馬車に押し込められた。
ハハハッ、という哄笑に賛同するように周りからも嘲笑が洩れる。
何度も何度も受けてきた悪意あふれる嘲りに身体をすくませて俯いていると、グイッと髪をひっぱられ、無理矢理顔を上に向けさせられる。
痛みで思わず顔をしかめた私に、
「…なんだ、その顔は?なぜ返事をしない!」
忌々しそうに睨み付けるのは、この国の皇太子であるジークフリート・モンタリアーノ。黒い髪に赤い瞳を持ち、なおかつ王族の中でも特殊な力を有する。
「も、申し訳…」
「返事は、と聞いたのだが?お前は聞かれたことに対して、まともな返答もできないのか?
今まで何を学んできた?宰相の娘というだけで、お情けでなんとか三年間通わせてもらったようなものだからな。
落ちこぼれに、求める方が間違っているということか」
私の髪の毛から手を離すことなく上げさせた私の顔を、口の端を吊り上げ冷酷に嗤う殿下が覗き込む。
ジークフリート殿下は誰もが見惚れてやまない美しい顔立ちであるが、常に無表情で鋭い目付きのため『孤高の皇太子』と呼ばれていた。
柔らかい微笑みを絶やさない弟殿下のカイルセン・モンタリアーノ様と異なり、微笑んだところを誰も目にしたことはなかった。
微笑みどころか、表情筋が死滅しているのではないかと思われている殿下が唯一表情を現すのは、私を嘲り罵るときだけだ。
髪を引っ張りあげられている痛みに涙がこぼれる。
「泣けば済むと思っているところが、おちこぼれたる所以だな。こんな人前で感情を露にするなど恥ずかしくないのか?
貴様は俺の妃どころか、貴族としても失格だ」
侮蔑を込めた声で吐き捨てると、ドンッと私を突き飛ばす。
何度も何度も同じことをされてきた。
殴られることはなかったが、こうして突き飛ばされたあと蹴られたり、踏みつけられたりは日常茶飯事だ。
今も、私の背中を踏みつけながら、これ以上ないくらい残虐な顔をしていることだろう。ウサギをいたぶっていたぶって、その様を楽しむ冷酷な獅子のように。
「…貴様は今このときから貴族ではない。
貴様のような臣下は不要だ。穀潰しを養ってやる由縁はない。
身分剥奪の上、生涯修道院で暮らせ。否やはないな?」
それだけ言うと、「連れていけ」と蹴り飛ばされる。身体のあちこちの痛みにうずくまっていると、両腕を捕まれ無理矢理立たされる。
「…おい!」
まだ何か言いたりないのか、それともいたぶり足りなかったのか、また襲い来るであろう恐怖に身をすくませていると、
「そいつは今から修道女だ。いま、このときから!男が触るんじゃない!そのために、女性騎士を控えさせていたんだぞ!オマエたちも、何をボーッとしている!?早く、連れていけ!」
予想もしなかった、しかも私に対する言葉ではないことにしばしぼんやりしていると、慌てたように女性騎士が近づいてきた。腕を両脇から捕られ、「歩きなさい」と言われる。
コクリとうなずき、痛む身体を引きずりながらなんとか歩き出すと、後ろから肩を掴まれた。
「こっちに向けろ」
殿下の言葉に女性騎士たちが慌てて私の体を殿下に正対させ、自分達は膝をついて言葉を待つ。
ノロノロと視線を上げた私の目の前には、今まで見たことのない、熱っぽさをはらんだ殿下の赤い瞳が爛々と輝いていた。鋭い視線で、睨み付けるように私を見ている。
そのまま、私の耳元に顔を近づけてくると、誰にも聞こえないように囁いた。
「…すぐに迎えに行ってやる。おとなしく待っていろ」
その言葉の意味が理解できず、離れた顔を追いかけるようにして見ると、実に愉しそうにニヤリと嗤い…「餞別だ」と言って私の首に何かをかけた。
「今までなんの役にも立たなかったんだ。せいぜい、国が平和であるよう祈りの日々を過ごせ」
そう言って踵を返すと、
「そのゴミを連れていけ。つまらないものを見せたな。さあ、始めようか!」
…今日は、学園の卒業式。
考えもしなかった身分剥奪、修道院送致の決定を受け、私は式に参加することも許されなかった。もう、貴族ではないのだから、と。
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