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第一章
お母様と、マーサと①
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「おはよう、ヴィー」
「…お母様」
ん?と不思議そうな顔をして椅子から立ち上がると、私のほうへ歩いてくる。そのお腹は少しふっくらとしている。
「どうしたんだい。何かあったのかい。…マーサ?」
私の後ろに立っているであろうマーサに視線を向けるお母様。
その動きすべてが、ゆっくりに見える。
10歳のとき、私のために家を追い出され、それから会うことは叶わなかった。…いや、私自身がお母様に会うことを望まなかったのだ。お母様に嫌われていたら?ひどい言葉をぶつけられたら?そう思うと、怖くて…私は、会わないという選択肢を選んでしまったのだ。
「ふぅ…っ」
歯を食いしばり、なんとか堪えようとするもののその想いもむなしく嗚咽が漏れる。あんなに、会いたくて…でも、会う勇気がなくて…結局8年間疎遠でいたお母様が目の前にいる。
「ヴィー!?マーサ、いったい…!」
お母様は、私を抱き締めると背中をさする。マーサと同じ…そう思うと、嬉しくて…泣きながら笑うという訳のわからない顔になってしまった。
「奥様。お嬢様は今朝…」
マーサがお母様に話そうとするのを遮って私はお母様に告げる。
「お母様、会いたかった…とても、会いたかったです。私のせいで、ごめんなさい。ほんとにごめんなさい…!!」
「ヴィー…?何を、言っているのか、お母様にはわからないんだが…でも、ひとつだけ…
『私のせいで』なんて、そんな言葉は使わないでくれないか?ヴィーのせいで、なんて、お母様は思ったことは一度もないよ。ヴィーのおかげで、楽しいこと、嬉しいこと、知らなかったことを知ることができて、お母様は本当に毎日が楽しいんだよ」
ヘニャッと眉を八の字にすると、お母様は私の顔を見る。
「だから、何だかわからないけれど…謝らないでおくれ。ね?ヴィー」
「…おかあ、さ、ま」
私はお母様に抱きついたままワンワン泣いた。
頭の片隅で、恥ずかしいと思いながらも…8年ぶりに触れるお母様の温もりに、涙を止めることが出来なかった。
「ヴィー、今日は、お母様の隣においで。泣き虫さんに、お母様がご飯を食べさせてあげよう」
ようやく泣き止んだ私の手を繋いで、お母様は自分の隣の椅子に私を座らせてウインクする。
「だ、大丈夫です、お母様…ごめんなさい、泣いたりして…」
「いいんだよ。ヴィーは、そうやって我慢してしまうところがあるから、お母様はもっと甘えて欲しいと思っていたんだよ」
そういうと、自分のほうに私を向かせて手を握る。
「お母様のお腹に赤ちゃんがいる、と知ってから、ことのほかヴィーは遠慮するようになってしまったよね。お母様は、寂しかったよ」
口を尖らせて拗ねたように言うお母様。
「でも…赤ちゃんがいるのに、お母様に抱きついたりするのはダメでしょう?赤ちゃんがビックリしてしまうから」
「そりゃあ、いきなり後ろからドーンっとやられたら危ないだろうけど、優しく抱きついてくれれば問題ないよ。ヴィーが抱きついてくれないほうがむしろ寂しいよ。…お母様こそ、ごめんね、ヴィー」
「え…?」
「思ってるだけではなく、きちんと言葉にしてヴィーに伝えれば良かったね。
赤ちゃんができたからと、ヴィーはお姉さんになろうとしてお母様から離れようとしてるのかな、って…せっかく、ヴィーが頑張ろうとしてるのに邪魔しちゃいけないかな、って。
でもそれは、お母様の勝手な思い込みだったんだなぁって。いま、気づいたんだよ」
大人なのに恥ずかしいね、と言ってお母様は少し寂しそうに笑った。
「…だからね、ヴィー。これから、いま、ここから約束しよう」
「約束…ですか?」
「そう。お母様も、ヴィーも、言いたいと思ったことや、疑問に思ってることはきちんと伝えあっていこう。
もし、直接言いづらいようなら、書いて伝えてくれてもいい。ヴィーはいま文字を習っているよね?文章とか、そんなことは気にしなくていいから。単語…わかる言葉だけでもいいから、書いてみてくれないかい?文字の練習にもなるし…どうかな?」
じっと私を見つめるお母様を、私も負けずに見つめる。
そうか…私は、変な風に大人ぶった子どもだったんだ。
皇太子殿下に吐かれた暴言がすべての始まりのように思っていたけれど、私の性格にも起因するところがあったのかもしれない。
我慢することも必要だけれど…解り合いたい人と伝え合うことはもっと必要なことなのだと思う。
「わかりました、お母様。わたし、これからはきちんと言葉にします。
お母様に、伝えたいことや思ったこと…どんなふうに受け取られてしまうか怖くて言わずに済ませてきたことも…」
「…ヴィー…」
「はい」
「なんか…話してることが大人びてる、気がするんだが…?」
すると、パンパンと音がした。
「奥様も、お嬢様も、まずはお食事です。準備万端で待っている厨房の方々にお仕事をさせてあげてください」
「マーサ」
「そうだね、そうだったね。まずは、ご飯を食べよう、ヴィー。話はこれからいくらでもできるのだから」
「…はい!」
ふたりでニッコリと笑い合う。マーサも、嬉しそうに笑っていた。
「…お母様」
ん?と不思議そうな顔をして椅子から立ち上がると、私のほうへ歩いてくる。そのお腹は少しふっくらとしている。
「どうしたんだい。何かあったのかい。…マーサ?」
私の後ろに立っているであろうマーサに視線を向けるお母様。
その動きすべてが、ゆっくりに見える。
10歳のとき、私のために家を追い出され、それから会うことは叶わなかった。…いや、私自身がお母様に会うことを望まなかったのだ。お母様に嫌われていたら?ひどい言葉をぶつけられたら?そう思うと、怖くて…私は、会わないという選択肢を選んでしまったのだ。
「ふぅ…っ」
歯を食いしばり、なんとか堪えようとするもののその想いもむなしく嗚咽が漏れる。あんなに、会いたくて…でも、会う勇気がなくて…結局8年間疎遠でいたお母様が目の前にいる。
「ヴィー!?マーサ、いったい…!」
お母様は、私を抱き締めると背中をさする。マーサと同じ…そう思うと、嬉しくて…泣きながら笑うという訳のわからない顔になってしまった。
「奥様。お嬢様は今朝…」
マーサがお母様に話そうとするのを遮って私はお母様に告げる。
「お母様、会いたかった…とても、会いたかったです。私のせいで、ごめんなさい。ほんとにごめんなさい…!!」
「ヴィー…?何を、言っているのか、お母様にはわからないんだが…でも、ひとつだけ…
『私のせいで』なんて、そんな言葉は使わないでくれないか?ヴィーのせいで、なんて、お母様は思ったことは一度もないよ。ヴィーのおかげで、楽しいこと、嬉しいこと、知らなかったことを知ることができて、お母様は本当に毎日が楽しいんだよ」
ヘニャッと眉を八の字にすると、お母様は私の顔を見る。
「だから、何だかわからないけれど…謝らないでおくれ。ね?ヴィー」
「…おかあ、さ、ま」
私はお母様に抱きついたままワンワン泣いた。
頭の片隅で、恥ずかしいと思いながらも…8年ぶりに触れるお母様の温もりに、涙を止めることが出来なかった。
「ヴィー、今日は、お母様の隣においで。泣き虫さんに、お母様がご飯を食べさせてあげよう」
ようやく泣き止んだ私の手を繋いで、お母様は自分の隣の椅子に私を座らせてウインクする。
「だ、大丈夫です、お母様…ごめんなさい、泣いたりして…」
「いいんだよ。ヴィーは、そうやって我慢してしまうところがあるから、お母様はもっと甘えて欲しいと思っていたんだよ」
そういうと、自分のほうに私を向かせて手を握る。
「お母様のお腹に赤ちゃんがいる、と知ってから、ことのほかヴィーは遠慮するようになってしまったよね。お母様は、寂しかったよ」
口を尖らせて拗ねたように言うお母様。
「でも…赤ちゃんがいるのに、お母様に抱きついたりするのはダメでしょう?赤ちゃんがビックリしてしまうから」
「そりゃあ、いきなり後ろからドーンっとやられたら危ないだろうけど、優しく抱きついてくれれば問題ないよ。ヴィーが抱きついてくれないほうがむしろ寂しいよ。…お母様こそ、ごめんね、ヴィー」
「え…?」
「思ってるだけではなく、きちんと言葉にしてヴィーに伝えれば良かったね。
赤ちゃんができたからと、ヴィーはお姉さんになろうとしてお母様から離れようとしてるのかな、って…せっかく、ヴィーが頑張ろうとしてるのに邪魔しちゃいけないかな、って。
でもそれは、お母様の勝手な思い込みだったんだなぁって。いま、気づいたんだよ」
大人なのに恥ずかしいね、と言ってお母様は少し寂しそうに笑った。
「…だからね、ヴィー。これから、いま、ここから約束しよう」
「約束…ですか?」
「そう。お母様も、ヴィーも、言いたいと思ったことや、疑問に思ってることはきちんと伝えあっていこう。
もし、直接言いづらいようなら、書いて伝えてくれてもいい。ヴィーはいま文字を習っているよね?文章とか、そんなことは気にしなくていいから。単語…わかる言葉だけでもいいから、書いてみてくれないかい?文字の練習にもなるし…どうかな?」
じっと私を見つめるお母様を、私も負けずに見つめる。
そうか…私は、変な風に大人ぶった子どもだったんだ。
皇太子殿下に吐かれた暴言がすべての始まりのように思っていたけれど、私の性格にも起因するところがあったのかもしれない。
我慢することも必要だけれど…解り合いたい人と伝え合うことはもっと必要なことなのだと思う。
「わかりました、お母様。わたし、これからはきちんと言葉にします。
お母様に、伝えたいことや思ったこと…どんなふうに受け取られてしまうか怖くて言わずに済ませてきたことも…」
「…ヴィー…」
「はい」
「なんか…話してることが大人びてる、気がするんだが…?」
すると、パンパンと音がした。
「奥様も、お嬢様も、まずはお食事です。準備万端で待っている厨房の方々にお仕事をさせてあげてください」
「マーサ」
「そうだね、そうだったね。まずは、ご飯を食べよう、ヴィー。話はこれからいくらでもできるのだから」
「…はい!」
ふたりでニッコリと笑い合う。マーサも、嬉しそうに笑っていた。
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