【R18】今度は逃げません?あの決意はどこへ~あまくとろかされてしまうまで~

蜜柑マル

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第一章

お母様と、マーサと②

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食事を終えると、マーサが準備してくれた薔薇の見える木陰のテーブルへ移動する。

「今日は、お嬢様の好きなイチゴの紅茶にしましたよ。朝からたくさん泣いて、身体の中が渇れているでしょうから、飲んで潤してください」

「…ありがとう、マーサ」

ほんとに、思い返すと恥ずかしい。前回の人生で我慢し続けた感情が爆発してしまったようだ。

「…朝から?ヴィーは、起きたときに泣いていたのかい?」

お母様が眉間にシワを寄せてこちらを見る。本当に、心配をかけてしまった。

「お母様、そのことについて、今からお話したいのです。マーサにも、聞いて欲しいのですが…いいですか?」

「もちろんだよ。マーサも、座って」

「…いえ、せっかくですが私はこのままで…立っているほうが楽なので」

ニコリと微笑むマーサにお母様もそれ以上は言わず、視線で私を促す。

私はゆっくりと口を開いた。

「私自身、どう判断していいのかわからないので…うまく伝えられるか自信がないのですが…」

そう言って、私はスゥッと息を吸った。それをゆっくり吐き出す。

「…私は、18歳で一度死にました。今朝、目覚めたら…5歳だったのです」

「…なんだって?」

「よく、わからないで…」

「違う!」

お母様に遮られてビクッとする。

「…あ、ごめんね、ヴィー。怖がらせるつもりはなくて、あまりに驚いてしまって…」

そう言うとお母様は、私の手をとってギュッと握りしめる。

「18歳で死んだ?そんな早く、なぜ?病気?事故?ヴィー、いったい何があったんだ!?」

「お母様…私が言ってること、信じてくださるのですか?」

「信じるというか…いま、目の前にいるヴィーは5歳で、18歳のヴィーが想像もつかないというのが正直な気持ちなんだけど。ただ、夢だったとすると…それだとさっき感じた…ヴィーの話し方や言葉の違和感が拭いきれないんだよ」

「そうですね、私もそう思います」

「マーサ…」

「確かにお嬢様は、大人びた言葉を使うこともありましたが、こんなに流暢にご自分の気持ちや感情を説明することは5歳では難しいのではないかと思うのです」

お母様とマーサは顔を見合わせて頷き合うと、私に視線を戻す。

「ヴィーが18歳で亡くなって、でも、何かがあって、18歳の魂のまま、5歳に戻ったということなんだろう?はっきりしたことはわからない、それこそ神のみぞ知るということなんだろうが…
今のヴィーは、5歳の身体に18歳のヴィーが入っている、という状態なんだね」

「たぶん、そういうことだと思います」

「…つまりは、人生をやり直すことになるんだろうが…何か、思い当たることはあるのかい?そもそも、なぜ18歳で亡くなったんだ!?」

お母様が、真剣な顔で私を見る。どこまで言うべきか迷っていたけれど…ごまかしたり、曖昧にしたりするのはやめる。もう、逃げない。そう決めたのだから。

「お母様。私は、前回の人生で、皇太子殿下の妃候補になったのです」

「妃候補…?婚約者ではなく、候補…?」

お母様が、訝しげに私を見る。

「はい。そもそも、私が選ばれたのは、お父様が宰相だから、だそうです」

「宰相だから?…確かに、ロレックスは宰相を務めているが…」

「お父様と、国王陛下は学園の同窓だそうですね?同窓…というか、親友だと。親友に娘が産まれたと聞いて、国王陛下が是非にも婚約者にしたいと…そう仰ったそうです」

「産まれたと聞いて、ということは、ヴィーが産まれたときに婚約の打診があったということか?ロレックスからはそんなこと一言も言われてない…あいつ…まさか…」

お母様の顔がみるみる険しくなる。

「私も、詳しくはわからなくて…ただ、聞いたのは、お父様が断り続けたものの、国王陛下が譲らず、果ては王命だと言い出しそうなのをなんとか妃候補で留めたと…」

「いや、それがわからない。ヴィーに言っても仕方のないことだが、なぜロレックスは妃候補などと?そんな不安定な状態に娘を置くなんて…」

「お父様とお母様は、恋愛結婚だそうですね?」

私の言葉にお母様の顔が崩れる。

「え?」

「自分達が恋愛結婚だったから、娘にもそうさせたいと…だから、妃候補に留めてくれ、ということだったと聞いています」

「ヴィーを妃殿下にするつもりはなかったということか…。
確かに、王命により婚約者とされてしまえばそれを覆すのは難しいだろう。
候補であれば、外れることもできる。
ただ、外される年齢によっては、ヴィーのその後…皇太子殿下以外との婚姻は難しくなる。
家柄が上になるほど、婚約は早いからな…ヴィーは、いつ外れたんだい?」

「…いえ、外れなかったのです」

「じゃあ、そのまま婚約者になったのかい?」

「…お母様…私が、候補として、皇太子殿下と初めて顔を合わせたときのお話からしても…?」

「ああ、もちろん」

自分でそう言いながら、あの時の光景がよみがえり恐怖に満たされる。知らず俯いてしまった私の頬をお母様が優しく両手で包んでくれる。

「大丈夫だよ、ヴィー。無理して話さなくてもいいんだよ」

お母様の目を見る。

そこには、私への愛情が感じられた。

ひとつずつ、克服していくには、過去から逃げないことだ。

怖くても、いまここに、皇太子殿下はいないのだ。だから、大丈夫。話して、言葉にすることでえもいわれぬ恐怖から抜け出すことができるかもしれない。

「ありがとうございます、お母様…でも、大丈夫です」

私は、安心させるように笑顔をつくる。

「お母様と、マーサがいてくれるから…味方がいてくれるから、大丈夫です」

「ヴィー…」

「お嬢様」

お母様にはギュッと頬を挟まれ、マーサには頭を撫で撫でされる。そう、大丈夫だ。この温もりに守られている。私は、大丈夫。

「…初めてお会いしたときに、私は皇太子殿下の御不興を買ってしまったのです。
原因がなんだったのか、ついぞわかりませんでしたが…。
皇太子殿下は、ご挨拶した私の髪を掴み、『優秀な宰相の娘でなければ貴様のような醜い娘が俺の妃候補になるはずもないのに。貴様のような穀潰しは人に迷惑をかけぬよう死んだように生きていけ。他の人間が迷惑だから俺の妃候補にしておいてやる』と、」

「なんだって…?」

地を這うような低い恐ろしい声がお母様の口から吐き出された。
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