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皇太子サイド

カーディナル魔法国へ②

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その後、母上がカーディナルに使いを出した。使いを、と言っても、母上がこちらに嫁いでくる際に一緒に来たというカーディナルの人間で、魔法で移動できるためほんの一時間で戻ってきた。

「女王陛下が、こちらにいらっしゃるそうです」

その言葉が終わらないうちに、もうひとり、女性が現れた。

「姉様、ご無沙汰しておりました。
この度、2番目の皇子様がお生まれになったとのこと。お慶び申し上げます」

美しい、凛とした立ち姿で母上に相対する女性は、俺と同じ黒い髪、赤い瞳だった。

「義兄上も、お久しぶりでございます」

「エカテリーナ女王…ご足労いただいて、」

「ほんの何秒の世界ですからお気になさらず」

そっけなく言ったその人は、俺の方に顔を向けると目を細めてじっと見つめた。

「初めまして。ジークフリートと申します」

「…魔力量が高いわね。
私より、高いかもしれない」

そう言うと、母様に向かって、

「姉様、この子…どうなっても、あとから文句はなしですよ。
その確約さえいただければ責任を持って預かります」

と言った。

「どうなってもって、」

発言する父様をギッと睨み付け、「義兄上には話してませんが?」と吐き捨てる。

「…いいですか、姉様」

「貴女に、預けるしか道はない。
覚悟します」

母様はそう言うと、「ジーク」と俺の手を握った。

「やめてください」

母様の手を振り払う。今まで無視してきたくせに、白々しい。

母様は傷付いたような目をして俺を見る。

「…彼女が、私の妹でカーディナル魔法国の現女王、エカテリーナ・エイベルです」

「よろしく、ジーク」

俺の、母様への態度に何も言わず、彼女は俺に右手を差し出した。

「よろしくお願いいたします」

握り返した俺の手をそのままに、「では行きましょう」と言った。

「カティ、まだ何も準備が、」

「姉様、何もいりません。身体ひとつで。
着替えなどはすべてこちらで準備できます」

「じゃあ、カイルセンに…」

「また来ます。その時に」

かぶせるように母様に言って、「ジーク。私のことは、叔母上と呼びなさい。…行きますよ」

「待って、カティ、ジーク…!」

父様、母様に挨拶することもなく、次の瞬間には俺は叔母上とともにカーディナル魔法国の宮殿の一室に立っていた。




「陛下、お帰りなさいませ」

「ただいま。この子がジークフリートよ。
…団長は?」

「お帰り~、エカたん!」

気配をまったく感じさせず、いきなり叔母上に抱き付いた男性にビクッとする。

「寂しかったよぉ~」

「30分もたってない。寂しいわけがない。
ふざけてないで、それらしくしろ」

ブツブツ「だって寂しかったもん」と言う男性を引き剥がして、叔母上は「ジーク、こいつは、」と言うと、それを遮って、

「ジークフリート君、こんにちは!
オレは、リッツ・ハンフリート。
カーディナル魔法国の宮廷魔術団、団長です!」

ニコニコして、俺の手を握ると「かわいいなぁ~。エカたん、早く俺たちもこども作ろうね!!」と言って、叔母上に頭を叩かれていた。

「結婚しないと言っただろう」

「結婚しなくてもいいから、子作りするんだよぉ~」
と言ってまた叩かれる。

「冗談もいい加減にしろ。ジークを頼んだぞ」

「冗談じゃないってばぁ~。何回言ったら信じてくれるのかなぁ」
プンプン、と言ったあとに、
「ジーク君は、まっかせといて!
オレとエカたんの子どものつもりで育てるからねぇ!頑張るぞぉ~!」

神様ありがとう!と叫ぶ彼を尻目に「では、ジーク。私は執務に戻る。後で会おう。夕飯は一緒にとろう」と言ってサァっと消えた。

「相変わらず冷たいなぁ、エカたん」

だがそこがいい!と叫んで、クルッと俺の方に向きなおった。

「ジーク君は、エカたんと同じ色持ちなんだね」

魔力も高い、と言う彼。…彼のことは、なんて呼べばいいんだろう?

尋ねると、「じゃあね、リッツさんって呼んで!」とニコニコする。

「団長とかさー。自分じゃないみたいでヤなんだよ。
でもさ、リッツさんじゃダメだって言うしぃ~、エカたんが。
ハンフリートさん、でも、ダメだって。
だからもう、団長って呼ばせるしかないもんねぇ」

うーん、と唸った後に、「あ。でもなぁ…」

「…誰かが聞いてたりするとマズイのかなぁ?
いろいろ、どーでもいいことに拘ってるふりして、人を貶めようってヤツがいるからねぇ。
…でも、ジーク君は子どもだし?いいよね!
ジーク君、オレの名前、覚えてくれた?」

「はい。リッツ・ハンフリート様です」

「様はいらないよぉ~。小さいのにすごいねぇ、きみは。」

そして、カチカチすぎるよぉ~、と言うといきなり俺の脇の下をくすぐり始めた。

「ー!?」

「ふふふ、くすぐったいでしょ?
ほらほら」

ひとしきり俺はくすぐられ、グッタリした。

「力抜けたねぇ~。
ジーク君、いつでもカチコチだと魔力もカチコチになっちゃうんだよぉ~」

ジーク君は、今まで魔法を使ったことある?と聞かれ、顔がこわばる。

「あ~、またカチコチになっちゃってるよぉ~」

そう言うとまた俺をくすぐり始めた。

「…も、…やめ、」

「ふふふ、ごめんねぇ」

笑いすぎて喉乾いたでしょ、と言うと、水差しとコップがスッと空間に現れた。

「はい、どおぞぉ~」

水を注いで、コップを俺に渡す。

「…すごい」

「すごくないよぉ~。ジーク君、きみは、もっともっと、オレなんかより、もっと魔法が使えるようになるんだよぉ~」

いいなぁ~、エカたんと一緒でぇ、と拗ねたように言うと、

「で?さっきの話は?」

と聞いてきた。

俺は水を何口か飲んでから、「…あります」と答えた。

「少し前に。…自分の部屋を、燃やしました」

「へぇ~」

リッツさんは、スゥッと目を細めた。同時に、部屋の中の温度が急速に冷えていく。

「ジーク君。その時、何があったのか。
覚えてる範囲でいいから。でも、ウソは、なしね。正直に答えてくれる?」

ウソつこうとすると、こうなるよぉ~と言った途端、俺の周りをグルリと取り囲むように…上から、氷の棒が降ってきて地面に突き刺さった。

「!?」

「これはねぇ、オレの特性の『氷』だよぉ~。
魔術団ではねぇ、わる~いヤツを尋問…う~ん、なんて言ったらいいかなぁ~」

うーんうーんと唸ったあとに、「まぁ、何をしたのか、なんでやったのか、話を聞くことがあるんだけどさぁ~」と言って俺を取り囲む氷の柱を撫でた。

「でも、ウソつくヤツもいるんだよねぇ~、必ず。
これはねぇ、相手の動揺とか、ごまかそうとする変な『間』とか…そういうものに反応するんだよぉ~」

ニッコリするが、リッツさんの目は笑っていなかった。

「3歳相手に大人気ないけどさぁ~。でも、なんで魔法が発動したか、って、重要なんだよぉ~」

なぜなら、それがコントロールの鍵になるからね、と言うと、指をパチンとならす。

俺の周りの氷が一瞬で消えた。

「ジーク君、わかったかなぁ~?」

俺の頭をワシャワシャ撫でるリッツさんは、また優しい顔に戻っていた。

「はい」

「エライ!」

ヒュッと俺を抱き上げると、ジークさんは腕を伸ばして「ご褒美に、高い高いだよぉ~」と言いながらクルクル回る。

「…目が回りそうだよぉ」

そう言ってピタリと止まると、俺を下におろす。

「じゃあ、ジーク君。話してみて~」
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