【R18】今度は逃げません?あの決意はどこへ~あまくとろかされてしまうまで~

蜜柑マル

文字の大きさ
28 / 110
皇太子サイド

リッツ・ハンフリート②

しおりを挟む
「どうしたの、ジーク君」

「…リッツさん」

「なぁに?よく聞こえないから、顔を上げて話してごらんよぉ」

「俺は、」

「うん」

「俺は、モンタリアーノ国にいてもいいんでしょうか」

「どういうこと?」

「部屋を燃やした後、俺には誰も近づかなくなりました。
父様、母様も、なかなか会ってくれなくなりました。
俺が役に立たない魔法だから、仕方ないんだって、モンタリアーノ国では魔法なんて何にもならないって思われてるのに、」

俺はギュッと自分の手を握り締めた。

「戻っても、居場所がない」

リッツさんは、また俯いた俺の顔を両手でソッと挟むと、優しく自分の方に向けさせた。

「ジーク君は、モンタリアーノ国でどんな勉強をしてた?」

「…まだ、ほとんどしてません」

「そうかぁ。モンタリアーノもカーディナルも同じ『ノースサイド』だから、言葉も共通だしねぇ。
モンタリアーノ国の突っ込んだ歴史とかはムリだけど、ジーク君自体がまだ3歳だから、そんな難しい勉強はしなくていいと思うんだよねぇ。
ジーク君。まずは、いろんなことを勉強しよう。魔力のコントロールのためにも、自分を育てていくことが重要だからねぇ」

エカたんに相談してからだけどぉ、と言いながら、リッツさんは

「まず、字を書ける、読めるようにしよう。
識字率、ってわかるかい?」

「…わかりません」

「エライ!」

「え…」

「わからないことを、わからないって言えるのはすごく大事なことなんだよぉ。
大きくなってからも、それは大事だからねぇ。
わからないのに、わかるふりをすると、他の人にも迷惑かけるようになるからねぇ」

「…そうなんですか」

「そうだよぉ。
さて、識字率とは、だけどぉ。その国に住んでいる人が、その国で使用している文字を読んだり書けたりできるかどうか。どのくらいいるか、ってことかなぁ。
たとえばさぁ」

するとリッツさんは目の前に板のようなものを出した。

「これはねぇ、黒板って言うんだって。
オレの部下にちょっと変わったヤツがいてねぇ」

白い小さな棒を持つと、それで板に何かを書き始めた。

「これは、チョークって言うらしいよぉ」

面白いよねぇ、と言いながらどんどん書いていく。

「いい?ジーク君。…数は数えられる?」

「10までなら…」

「ちょうど10だよぉ」

そこには、人の形が10書かれていた。

「この中で、」

と言うと、黄色のチョークで2つ塗りつぶす。

「このふたりしか字を読んだり書いたりできない。
残りは?」

俺は、1、2、…と数えて「8です」と言った。

「そうだねぇ。10人のうち、8人、字を読んだり書いたりできない。
何が困るかわかるかい?」

「…わかりません」

「たとえばさぁ。
ジーク君、これ、読める?」

リッツさんはスラスラと何かを書いていくが、ほとんどわからない字ばかりだ。

首を横に振る俺に、「これがさぁ。たとえば、契約書だったとするでしょ。『おまえは、朝5時から夜10時まで働くこと。食事は一日一回だけ。給料は、なしとする』って書いてある。けど、説明をされずに、読んでサインしろ、って言われたら、働きたい人はサインしちゃうかもしれないでしょ。内容が理解できなくても」

「はい…」

「お金が必要だから働くのに、働いてもお金もらえなくて、しかも、長時間働かされるなんて、奴隷と同じだよ」

「奴隷…」

「うん。だからねぇ。文字を読んだり書いたりできないって、人間が生活していく上ですごく大変なことなんだよぉ」

あ、さっきので言えばサインもできないかぁ、とリッツさんはヘヘッと笑った。

「自分の身を守るために、字を読む、書くは必須項目だろう、特に平民は。
これは、さっきの俺の部下が言ったことでね。
貴族は当たり前、平民も魔力が強ければ学校に入るが、もっと小さいときに皆が通える学校を作ったらどうかって。
読み書きを習ったり、算術を習ったりする学校。そのあと、個人の希望や適性で将来に繋がる学校に分化させたら、もっとたくさんの優秀な人材を育てることができる。
産業も発達させることができる。国を発展させることができる、って。
戦後復興した日本のように!とか、ちょっとわかんねーこと言ってたけど。」

カーディナルの識字率は残念ながらまだまだ低いんだよねぇ、とリッツさんは言った。

「10人のうち、何人を目指すのですか?」

「目指すのは9人…できるなら、10人全員だねぇ。
人間に生まれて、字が読めない、書けないということは自分の可能性をどんどん狭めていくことになると思うんだよねぇ」

「可能性を、狭める」

「うん。さっき言ったみたいに、仕事に就こうとしても、騙されてひどい境遇で働かされることもあるだろう?
読み書きができないと、職業の選択肢も狭まる」

「なるほど…」

「それから、字が読めれば本を読むことができるよね」

俺は、図書館でただ表紙を眺め時間を潰していたときを思い出す。

「本を読むと、違う人の意見を知ることができるよねぇ。
たとえば、ジーク君は炎の特性が一番強いみたいだけどぉ。
炎について、攻撃魔法としてしか使いようがない、と書いてある本もあれば防御に優れる特性って書いている人もいる」

「まったく逆なんですね」

「そう。それを読んで、自分なりに考えたり実践したりする…それを繰り返すことによって、魔法が洗練されていくんだよ」

今のジーク君はね、魔力は膨大なんだけど、とリッツさんは言った。

「ただ、あるだけなんだよね。
…そうだなぁ」

そう言うと、リッツさんは俺を抱き上げた。

「移動するよ」

返事をする間もなく場所が変わった。勢いよく流れる水の音がする。

「ここは、川の源流だよ。見たことあるかい?」

首を横に振ると、「水の量がすごいだろう?」

と言う。

「ジーク君の中にある魔力はね、いま、こんな感じなんだ。あふれていて、たくさんの生命に恩恵を与える水だけど。
でも、大雨に襲われると、下流を襲う災害になる」

だから、そうならないように手を加えることが必要なんだ。

リッツさんはそう言うと、また宮廷に移動した。

「なんとなくわかったかい?」

「はい…。字を、読めるようにして、本を読んで…自分の中の魔力をうまく調節できるようにするために、まずは自分の知識を増やすということですね」

3歳なのにすごいなぁ、これが王族かぁ、と言った後、リッツさんはいきなり真剣な顔になった。

「ジーク君。今から、オレが言うことはキミをとてつもなく嫌な思いにさせるかもしれない。でも、言うねぇ」

そう言うと、俺とリッツさんを囲うように半分の球体が現れた。天井近くまである。

「これは、外に聞こえないようにするドームだよ。
あのねぇ。オレは、…ジーク君、キミのお父さんとお母さんが大っ嫌いなんだよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...