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第三章
王都へ
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「ヴィーちゃん、ただいま~!!」
「お帰りなさいませ、おばあ様」
おばあ様は、まぁ~!と言うとニコニコして、
「可愛いヴィーちゃんに出迎えてもらえるなんて、最高だわ!」
と私を抱き締めた。
「お土産は何もないのよ、急いで帰って来ちゃったから。ごめんなさいね!」
「母上、陛下はなんと?」
お母様が尋ねると、おばあ様は満面の笑みで言った。
「私、魔術団長に復帰することになったの」
「えええっ!?」
お母様が叫んで、「いや、違う!くそじじいはどうしたんですか!」とおばあ様に聞くと、
「あ、そうだわ。シーラ、とりあえずヴィーちゃんと一緒に王都の邸に飛んでちょうだい。私も、マーサと行くわ」
「母上、ですから、」
「行くわよぉ~」
おばあ様は、「え?え?」と言っているマーサと手を繋いで消えてしまった。
「まったく…!ヴィー、とりあえず行くしかない、行こう!」
「は、はい」
私もお母様と手を繋ぎ、慌ただしく飛んだ。
「ヴィーちゃん、ここが王都にあるサムソン伯爵家の邸よ。
急で申し訳ないんだけど、私が魔術団長に復帰することになったから、今日からこちらに住んでもらいたいの。邪魔男を、あっちにやることにしたからね」
ウインクするおばあ様に、お母様が「とりあえず、なんで魔術団長に復帰することになったのか説明を求めます!」と噛みつく。
「ヴィーちゃん、今朝、我が家にきた男を見たかしら?」
「はい、確か、リッツさんとおばあ様が呼んでいらした、」
「そう!あいつが、今の団長なんだけど…あまりにひどくてねぇ。
魔力の鋭さがあんなに落ちるなんて一体なにしてたのかしら」
おばあ様の体から、少しずつ冷気が漏れ出してきたところで、「奥様」と声がかかる。
「あら、ケビン!」
スッと現れた男性は非のうちどころがない美しい姿勢でおばあ様にお辞儀をした。
「ヴィーちゃん、彼はケビン。ジョージの弟で、王都の邸を任せているのよ」
「ご無沙汰しております、シーラ様。初めまして、可愛らしいお嬢様」
ニコリとするケビンさんの顔は、確かにジョージさんに似ている。
「ルヴィア・オルスタインと申します。初めまして、ケビンさん」
私もできる限り丁寧にお辞儀をする。
ケビンさんは、「奥様、可愛らしいお嬢様がいらしてくれて良かったですね」とおばあ様を見る。
「ホントにね!ケビンもそう言ってくれて嬉しいわ!
ケビン、突然で申し訳ないけど、今日からこちらで生活したいの」
「いつでも大丈夫です、奥様。
サムソン家の皆様が恙無く生活できるようお手伝いさせていただくのが我々の使命です」
「ありがとう」
おばあ様はニコッとすると、「じゃあ、ヴィーちゃん、ヴィーちゃんの部屋に案内するわね!」と言って私の手を繋ぎ歩きだす。
「母上!まだ話を聞いてません!」
と叫ぶお母様に、「シーラ。今日から、ここに住むのよ。聞こえたわよね?」と歩みを止めないおばあ様。
「シーラ様、ひとまずそれは、ご昼食のあとに」
ケビンさんはそう言ってお母様を私たちと反対方向へグイグイと引っ張って行った。
「ヴィーちゃん、今日からこのお部屋を使ってちょうだい」
「わあ…!」
子どもみたいな歓声をあげてしまう。
夜も早い時間に眠くなるし、昼間も眠くなるし、体が5歳だから引っ張られてしまうのだろうか。
おばあ様が案内してくれたお部屋は、とても可愛らしかった。壁紙は薄いピンク色で、天井からはモンタリアーノ国の私の部屋のように月や星、それに鳥などのモチーフが下げられている。カーテンと窓は開けられ、風通しをしてくれていたようだ。清潔感あふれる、気持ち良さそうなフカフカしたベッド。
「どう?ヴィーちゃん」
「とても素敵です!」
私の言葉を聞いておばあ様はふわっと笑った。
「気に入ってくれて良かったわぁ!ここはね、まだ見ぬ孫のために用意してた部屋なのよ。
つまり、ヴィーちゃんね」
「私、ですか?」
「ええ。あの邪魔男のせいで、シーラは帰って来なくなっちゃったけど手紙を定期的に送ってくれていたの。
ヴィーちゃんが産まれて、どんなふうに育っているか書いてくれて。嬉しいけど、自分の目で見ることができないのが悔しくてねぇ…」
おばあ様の顔がだんだん険しくなり「まったくあの腐れ野郎が…」とお上品とは言えない言葉が出始めたので、私は慌てて質問した。
「おばあ様、おばあ様は魔法が使えるのに、モンタリアーノ国に来なかったのですか?」
おばあ様は一瞬きょとんとした顔になって、「あ、モンタリアーノ国に飛ばなかったのはどうしてか、ってこと?」と言った。
私が頷くと、「うーん、その辺りはねぇ。…あちらには、魔力を感知できる方がいらっしゃるでしょ?」
おばあ様の言葉に胸がドクンッと大きな音をたてる。
「…王妃陛下のことですか?」
「そう!アンジェリーナ様よ。
アンジェリーナ様も今はモンタリアーノ国の方だけど、カーディナルの王族であることに変わりはないから。私くらいの魔力の人間が行ったら、絶対にバレちゃうからね~」
でも、わざわざ挨拶に行くのも、ねぇ?とおばあ様はペロッと舌を出していたずらっ子のように笑った。
「だから、半ば諦めてたんだけど。
でも、シーラがヴィーちゃんを連れて帰ってきてくれることになって、とても嬉しかったのよ!」
「おばあ様、あの…」
帰ってきた理由を言うべきなのではないかと思い口を開こうとする私に、おばあ様は言った。
「じゃ、ヴィーちゃん、お昼ご飯を食べましょう!
こっちの食事もとっても美味しいわよ!」
気に入ってくれるといいんだけど、と言ってまた私の手を繋ぐと歩きだした。
部屋の前に立っているマーサに、「マーサ、ケビンに案内させるから一緒に来て」と言う。
歩きながらおばあ様は、「ヴィーちゃん」と私を呼んだ。
「はい、おばあ様」
「昨日、ヴィーちゃんが寝た後に、シーラから話を聞いたわ」
「話を…」
「ええ。ヴィーちゃん、さっき私に何か話そうとしたでしょ?
ヴィーちゃんが、5歳に戻ってきたという話でしょ?」
「お母様は、もうお話したんですね」
「そうよ。我が家はみんなせっかちだからね!」
そう言った後にふと立ち止まるとおばあ様はしゃがみこんで、私と目を合わせた。そこには、今まで私を見ていた柔らかさはなく、感情が読み取れないおばあ様の顔があった。
突然のことに戸惑いながらも「おばあ様?」と呼び掛けると、「ヴィーちゃん」と返される。
「はい」
「ヴィーちゃん。未来は変えられるのよ。自分の意志で」
突然の言葉に一瞬時が止まったようになる。
黙っておばあ様を見る私に、フフフ、とまたいつもの優しい笑顔に戻ったおばあ様は「続きはご飯の後でね!」と言って、また歩きだした。
「お帰りなさいませ、おばあ様」
おばあ様は、まぁ~!と言うとニコニコして、
「可愛いヴィーちゃんに出迎えてもらえるなんて、最高だわ!」
と私を抱き締めた。
「お土産は何もないのよ、急いで帰って来ちゃったから。ごめんなさいね!」
「母上、陛下はなんと?」
お母様が尋ねると、おばあ様は満面の笑みで言った。
「私、魔術団長に復帰することになったの」
「えええっ!?」
お母様が叫んで、「いや、違う!くそじじいはどうしたんですか!」とおばあ様に聞くと、
「あ、そうだわ。シーラ、とりあえずヴィーちゃんと一緒に王都の邸に飛んでちょうだい。私も、マーサと行くわ」
「母上、ですから、」
「行くわよぉ~」
おばあ様は、「え?え?」と言っているマーサと手を繋いで消えてしまった。
「まったく…!ヴィー、とりあえず行くしかない、行こう!」
「は、はい」
私もお母様と手を繋ぎ、慌ただしく飛んだ。
「ヴィーちゃん、ここが王都にあるサムソン伯爵家の邸よ。
急で申し訳ないんだけど、私が魔術団長に復帰することになったから、今日からこちらに住んでもらいたいの。邪魔男を、あっちにやることにしたからね」
ウインクするおばあ様に、お母様が「とりあえず、なんで魔術団長に復帰することになったのか説明を求めます!」と噛みつく。
「ヴィーちゃん、今朝、我が家にきた男を見たかしら?」
「はい、確か、リッツさんとおばあ様が呼んでいらした、」
「そう!あいつが、今の団長なんだけど…あまりにひどくてねぇ。
魔力の鋭さがあんなに落ちるなんて一体なにしてたのかしら」
おばあ様の体から、少しずつ冷気が漏れ出してきたところで、「奥様」と声がかかる。
「あら、ケビン!」
スッと現れた男性は非のうちどころがない美しい姿勢でおばあ様にお辞儀をした。
「ヴィーちゃん、彼はケビン。ジョージの弟で、王都の邸を任せているのよ」
「ご無沙汰しております、シーラ様。初めまして、可愛らしいお嬢様」
ニコリとするケビンさんの顔は、確かにジョージさんに似ている。
「ルヴィア・オルスタインと申します。初めまして、ケビンさん」
私もできる限り丁寧にお辞儀をする。
ケビンさんは、「奥様、可愛らしいお嬢様がいらしてくれて良かったですね」とおばあ様を見る。
「ホントにね!ケビンもそう言ってくれて嬉しいわ!
ケビン、突然で申し訳ないけど、今日からこちらで生活したいの」
「いつでも大丈夫です、奥様。
サムソン家の皆様が恙無く生活できるようお手伝いさせていただくのが我々の使命です」
「ありがとう」
おばあ様はニコッとすると、「じゃあ、ヴィーちゃん、ヴィーちゃんの部屋に案内するわね!」と言って私の手を繋ぎ歩きだす。
「母上!まだ話を聞いてません!」
と叫ぶお母様に、「シーラ。今日から、ここに住むのよ。聞こえたわよね?」と歩みを止めないおばあ様。
「シーラ様、ひとまずそれは、ご昼食のあとに」
ケビンさんはそう言ってお母様を私たちと反対方向へグイグイと引っ張って行った。
「ヴィーちゃん、今日からこのお部屋を使ってちょうだい」
「わあ…!」
子どもみたいな歓声をあげてしまう。
夜も早い時間に眠くなるし、昼間も眠くなるし、体が5歳だから引っ張られてしまうのだろうか。
おばあ様が案内してくれたお部屋は、とても可愛らしかった。壁紙は薄いピンク色で、天井からはモンタリアーノ国の私の部屋のように月や星、それに鳥などのモチーフが下げられている。カーテンと窓は開けられ、風通しをしてくれていたようだ。清潔感あふれる、気持ち良さそうなフカフカしたベッド。
「どう?ヴィーちゃん」
「とても素敵です!」
私の言葉を聞いておばあ様はふわっと笑った。
「気に入ってくれて良かったわぁ!ここはね、まだ見ぬ孫のために用意してた部屋なのよ。
つまり、ヴィーちゃんね」
「私、ですか?」
「ええ。あの邪魔男のせいで、シーラは帰って来なくなっちゃったけど手紙を定期的に送ってくれていたの。
ヴィーちゃんが産まれて、どんなふうに育っているか書いてくれて。嬉しいけど、自分の目で見ることができないのが悔しくてねぇ…」
おばあ様の顔がだんだん険しくなり「まったくあの腐れ野郎が…」とお上品とは言えない言葉が出始めたので、私は慌てて質問した。
「おばあ様、おばあ様は魔法が使えるのに、モンタリアーノ国に来なかったのですか?」
おばあ様は一瞬きょとんとした顔になって、「あ、モンタリアーノ国に飛ばなかったのはどうしてか、ってこと?」と言った。
私が頷くと、「うーん、その辺りはねぇ。…あちらには、魔力を感知できる方がいらっしゃるでしょ?」
おばあ様の言葉に胸がドクンッと大きな音をたてる。
「…王妃陛下のことですか?」
「そう!アンジェリーナ様よ。
アンジェリーナ様も今はモンタリアーノ国の方だけど、カーディナルの王族であることに変わりはないから。私くらいの魔力の人間が行ったら、絶対にバレちゃうからね~」
でも、わざわざ挨拶に行くのも、ねぇ?とおばあ様はペロッと舌を出していたずらっ子のように笑った。
「だから、半ば諦めてたんだけど。
でも、シーラがヴィーちゃんを連れて帰ってきてくれることになって、とても嬉しかったのよ!」
「おばあ様、あの…」
帰ってきた理由を言うべきなのではないかと思い口を開こうとする私に、おばあ様は言った。
「じゃ、ヴィーちゃん、お昼ご飯を食べましょう!
こっちの食事もとっても美味しいわよ!」
気に入ってくれるといいんだけど、と言ってまた私の手を繋ぐと歩きだした。
部屋の前に立っているマーサに、「マーサ、ケビンに案内させるから一緒に来て」と言う。
歩きながらおばあ様は、「ヴィーちゃん」と私を呼んだ。
「はい、おばあ様」
「昨日、ヴィーちゃんが寝た後に、シーラから話を聞いたわ」
「話を…」
「ええ。ヴィーちゃん、さっき私に何か話そうとしたでしょ?
ヴィーちゃんが、5歳に戻ってきたという話でしょ?」
「お母様は、もうお話したんですね」
「そうよ。我が家はみんなせっかちだからね!」
そう言った後にふと立ち止まるとおばあ様はしゃがみこんで、私と目を合わせた。そこには、今まで私を見ていた柔らかさはなく、感情が読み取れないおばあ様の顔があった。
突然のことに戸惑いながらも「おばあ様?」と呼び掛けると、「ヴィーちゃん」と返される。
「はい」
「ヴィーちゃん。未来は変えられるのよ。自分の意志で」
突然の言葉に一瞬時が止まったようになる。
黙っておばあ様を見る私に、フフフ、とまたいつもの優しい笑顔に戻ったおばあ様は「続きはご飯の後でね!」と言って、また歩きだした。
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