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第三章
おばあ様とのお話①
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お昼を食べ終わると、おばあ様が「私の部屋に行きましょう」と言った。
おばあ様の部屋には大きな机があり、入り口以外の壁はすべて本棚になっていた。ものすごい数の本だ。
「ここはね、私の仕事部屋だったの」
3年前に王都を出てからはあまり使わなかったけどね、と言って応接用のソファーに私とお母様を座らせる。同時にケビンさんが3人分のカップをそれぞれの前に置く。
「ありがとうございます」
と言う私にニコリと笑うと「お嬢様は素晴らしいですね」と言った。
「え…?」
「お茶を出してもらうのが当然だと思って、謝意を伝えられない貴族の子どもがたくさんいるからね」
おばあ様はそう言うと一口飲んで「ケビンの淹れてくれるお茶は相変わらず美味しいわ~!香りも最高ね!ありがとう!」とニコニコする。
ただお礼を言っただけで褒められたことに、なんとなく居心地が悪くなった私は、おばあ様に倣ってお茶を飲んだ。
「…美味しい」
ケビンさんはまたニコリとすると、「では奥様、ご用の際はお呼びください」と言ってスッといなくなった。
「…母上」
隣に座るお母様から低い声が漏れる。
「さあ、説明してください!これ以上は待ちません!何がどうなったら団長復帰なんてことになるんですか!?」
「わかってるわよ、きちんと説明するわよ」
おばあ様はそう言って私に視線を向ける。
「ヴィーちゃん」
「はい」
「昨日、シーラからは聞いたのだけれど、ヴィーちゃんが妃候補になったモンタリアーノ国の皇太子殿下について聞いてもいいかしら。
ヴィーちゃんの口から、直接聞きたいの」
皇太子殿下、と言う言葉にサッと自分の顔が青ざめるのがわかる。カタカタと震えだす手を、お母様がギュッと握る。
「母上!なぜそんな話を、」
「大事なことだからよ」
おばあ様から聞こえる声はとても冷たかった。震えながらも顔をあげると、お昼の前のように感情が読み取れないお顔になっていた。
「シーラ。邪魔するならここにはいないで」
「母上!ヴィーは、」
「…わからないようね」
おばあ様がそう言うと、突然水の袋のようなものが現れ、お母様を中に閉じ込めた。
「!?」
お母様が、中から拳でドンドンと叩くたびに水の膜がゆらゆら揺れるが、中で何か叫んでいる様子の声はまったく聞こえてこない。
「ケビン」
「はい、奥様」
「シーラを、客間に隔離しておいて」
「御意」
そう言ってケビンさんとお母様が消えた。
おばあ様はまた私のほうに向き直る。
「ヴィーちゃん」
「…はい」
「先ほど言ったように、これは大事なことなの。だから、当事者であるヴィーちゃんから教えて欲しいのよ」
「…おばあ様」
おばあ様は立ち上がると私の隣に座り、先ほどお母様がしてくれたように私の手を握った。
「ヴィーちゃん、私がさっき言ったこと覚えてる?『未来は変えられる、自分の意志で』と」
「…はい」
「ヴィーちゃんは、以前の人生で私とはまったく関わらなかったそうね?」
「はい…」
「でも、今回は私と会えた。ううん、私が、ヴィーちゃんに会えた」
そう言うと、おばあ様は私をギュッと抱き締めた。
「こうやって、もう現実に以前の人生と変わっているのよ」
私の顔を覗きこむおばあ様の瞳は柔らかかった。
「シーラや、ヴィーちゃんのお父様…私はまだ会ったことがないけれど、ふたりがヴィーちゃんの話を聞いてヴィーちゃんを守るために皇太子殿下と会わせないようにしようとしている、その気持ちはわからなくもない」
でもね、とおばあ様は続ける。
「いつまでヴィーちゃんは守られたままいられるかしら。
これから先、皇太子殿下とまったく関わらずに生きていける保証はどこにもないのよ」
「え、」
「皇太子殿下は、カーディナル魔法国に来ているわ」
「え!?」
おばあ様の言葉にドクドクと早鐘のように胸が鳴る。
「ヴィーちゃん、呼吸をして。さぁ、ゆっくり」
おばあ様が背中を擦ってくれるが、うまく息を吸うことができない。しばらくそうして、ようやく落ち着いてきた。
「ヴィーちゃんは、皇太子殿下がなぜカーディナルに来たのか知ってる?」
「…わかりません」
以前の人生で、皇太子殿下と会ったのは10歳のあの時が初めてで、その後も彼自身のことなんて何も聞いたことがなかった。会話もなく、ただ一方的に貶められていただけだったから。
「…シーラもあなたのお父様も、頭に血が昇りすぎて正常な判断が出来なかったのね」
そのお陰で私はヴィーちゃんに会えたわけだけど、とおばあ様はふんわりと笑った。
「3歳の皇太子殿下をカーディナル魔法国に寄越したのは貴女のお父様とお母様なのよ」
「3歳…?」
「そう。その話をまず私がするわね」
まったくシーラは…とおばあ様は眉をしかめると話し出した。私が知らない、皇太子殿下の話を。
「…というわけでね。皇太子殿下は…まぁ、まだあちらの国では立太子されてはいないようだけど、便宜上、皇太子殿下とお呼びするわね。
皇太子殿下は、あちらで居場所がなくてカーディナルに来た。自分の魔力を制御する、その術を覚えたからとりあえず陛下がお戻しになったそうなの。
でも、まだ魔法を実際に発動させる訓練はしてないし、陛下自らまた来いと仰ったそうだから…これから先も皇太子殿下はカーディナル魔法国に来るでしょう」
おばあ様は、「昨日私が宮廷にいたとき、皇太子殿下が飛んできたのよ」と言った。
「え、」
「私を見て、『お客様がいるのに申し訳ありません』と陛下に謝罪していたわ。すごい魔力だった」
おばあ様の部屋には大きな机があり、入り口以外の壁はすべて本棚になっていた。ものすごい数の本だ。
「ここはね、私の仕事部屋だったの」
3年前に王都を出てからはあまり使わなかったけどね、と言って応接用のソファーに私とお母様を座らせる。同時にケビンさんが3人分のカップをそれぞれの前に置く。
「ありがとうございます」
と言う私にニコリと笑うと「お嬢様は素晴らしいですね」と言った。
「え…?」
「お茶を出してもらうのが当然だと思って、謝意を伝えられない貴族の子どもがたくさんいるからね」
おばあ様はそう言うと一口飲んで「ケビンの淹れてくれるお茶は相変わらず美味しいわ~!香りも最高ね!ありがとう!」とニコニコする。
ただお礼を言っただけで褒められたことに、なんとなく居心地が悪くなった私は、おばあ様に倣ってお茶を飲んだ。
「…美味しい」
ケビンさんはまたニコリとすると、「では奥様、ご用の際はお呼びください」と言ってスッといなくなった。
「…母上」
隣に座るお母様から低い声が漏れる。
「さあ、説明してください!これ以上は待ちません!何がどうなったら団長復帰なんてことになるんですか!?」
「わかってるわよ、きちんと説明するわよ」
おばあ様はそう言って私に視線を向ける。
「ヴィーちゃん」
「はい」
「昨日、シーラからは聞いたのだけれど、ヴィーちゃんが妃候補になったモンタリアーノ国の皇太子殿下について聞いてもいいかしら。
ヴィーちゃんの口から、直接聞きたいの」
皇太子殿下、と言う言葉にサッと自分の顔が青ざめるのがわかる。カタカタと震えだす手を、お母様がギュッと握る。
「母上!なぜそんな話を、」
「大事なことだからよ」
おばあ様から聞こえる声はとても冷たかった。震えながらも顔をあげると、お昼の前のように感情が読み取れないお顔になっていた。
「シーラ。邪魔するならここにはいないで」
「母上!ヴィーは、」
「…わからないようね」
おばあ様がそう言うと、突然水の袋のようなものが現れ、お母様を中に閉じ込めた。
「!?」
お母様が、中から拳でドンドンと叩くたびに水の膜がゆらゆら揺れるが、中で何か叫んでいる様子の声はまったく聞こえてこない。
「ケビン」
「はい、奥様」
「シーラを、客間に隔離しておいて」
「御意」
そう言ってケビンさんとお母様が消えた。
おばあ様はまた私のほうに向き直る。
「ヴィーちゃん」
「…はい」
「先ほど言ったように、これは大事なことなの。だから、当事者であるヴィーちゃんから教えて欲しいのよ」
「…おばあ様」
おばあ様は立ち上がると私の隣に座り、先ほどお母様がしてくれたように私の手を握った。
「ヴィーちゃん、私がさっき言ったこと覚えてる?『未来は変えられる、自分の意志で』と」
「…はい」
「ヴィーちゃんは、以前の人生で私とはまったく関わらなかったそうね?」
「はい…」
「でも、今回は私と会えた。ううん、私が、ヴィーちゃんに会えた」
そう言うと、おばあ様は私をギュッと抱き締めた。
「こうやって、もう現実に以前の人生と変わっているのよ」
私の顔を覗きこむおばあ様の瞳は柔らかかった。
「シーラや、ヴィーちゃんのお父様…私はまだ会ったことがないけれど、ふたりがヴィーちゃんの話を聞いてヴィーちゃんを守るために皇太子殿下と会わせないようにしようとしている、その気持ちはわからなくもない」
でもね、とおばあ様は続ける。
「いつまでヴィーちゃんは守られたままいられるかしら。
これから先、皇太子殿下とまったく関わらずに生きていける保証はどこにもないのよ」
「え、」
「皇太子殿下は、カーディナル魔法国に来ているわ」
「え!?」
おばあ様の言葉にドクドクと早鐘のように胸が鳴る。
「ヴィーちゃん、呼吸をして。さぁ、ゆっくり」
おばあ様が背中を擦ってくれるが、うまく息を吸うことができない。しばらくそうして、ようやく落ち着いてきた。
「ヴィーちゃんは、皇太子殿下がなぜカーディナルに来たのか知ってる?」
「…わかりません」
以前の人生で、皇太子殿下と会ったのは10歳のあの時が初めてで、その後も彼自身のことなんて何も聞いたことがなかった。会話もなく、ただ一方的に貶められていただけだったから。
「…シーラもあなたのお父様も、頭に血が昇りすぎて正常な判断が出来なかったのね」
そのお陰で私はヴィーちゃんに会えたわけだけど、とおばあ様はふんわりと笑った。
「3歳の皇太子殿下をカーディナル魔法国に寄越したのは貴女のお父様とお母様なのよ」
「3歳…?」
「そう。その話をまず私がするわね」
まったくシーラは…とおばあ様は眉をしかめると話し出した。私が知らない、皇太子殿下の話を。
「…というわけでね。皇太子殿下は…まぁ、まだあちらの国では立太子されてはいないようだけど、便宜上、皇太子殿下とお呼びするわね。
皇太子殿下は、あちらで居場所がなくてカーディナルに来た。自分の魔力を制御する、その術を覚えたからとりあえず陛下がお戻しになったそうなの。
でも、まだ魔法を実際に発動させる訓練はしてないし、陛下自らまた来いと仰ったそうだから…これから先も皇太子殿下はカーディナル魔法国に来るでしょう」
おばあ様は、「昨日私が宮廷にいたとき、皇太子殿下が飛んできたのよ」と言った。
「え、」
「私を見て、『お客様がいるのに申し訳ありません』と陛下に謝罪していたわ。すごい魔力だった」
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