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第五章
殿下との再会③
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次の日、朝食をとり、お父様、おばあ様と共に登城した。
お母様もついてきたがったが、アレックスとカーティスを連れていけないため諦めた。
「ヴィー、大丈夫かい?」
お父様が心配そうに私を見る。
「大丈夫です」
私はお父様を見てニコリとした。
城に着くと、すぐに陛下がやってきた。
「ルヴィア嬢、よく来てくれた。礼を言う」
「陛下」
陛下はことのほか嬉しそうだった。おばあ様も嬉しそうだ。ジークフリート殿下の成長ぶりが予想以上だったという。
陛下は涙ぐみ、「…兄上に預けて良かった」と言った。
「ルヴィア嬢」
「はい」
「ジークがもし前回のようにキミに暴力を振るおうとしても、我々が責任を持って止める。…あの様子ならたぶん大丈夫だと思うが」
「よろしくお願いいたします」
陛下の執務室には、王妃陛下とカイルセン皇子、そして前回の人生でお会いしたことのなかった男性が陛下の兄であるサヴィオン様であろう、既にお揃いになっていた。
「ルヴィア・サムソンでございます」
挨拶をすると、「キミが…ジークの想い人か」とサヴィオン様が言った。
サヴィオン様は殿下と同じ黒髪、赤い瞳だが、筋肉質で大柄な、野性味あふれる男性だった。声も大きい。
「ジークが、毎日のようにキミに会いたいとうるさくてね。なのに、いざ会えるとなったら雲隠れだ」
まったく意気地無しめ、とカラカラ笑うと、「ジーク!ルヴィア嬢におまえより先に触れるぞ!」と叫び、私に握手を求めるように手を伸ばした。
「叔父上!!」
サヴィオン様の手を遮るように私の前に人影が現れる。黒い髪、だけどその後ろ姿は前回の顔合わせとまったく違っていた。前回は後ろでひとつにまとめる長髪だったが、目の前の髪は短く整えられている。背も、私より頭ひとつ分ほど高い。サヴィオン様まではいかないが、ほどよく筋肉がついた背中。
つい見とれてしまった私を赤い瞳が振り返る。
「…殿下」
殿下はハッとしたように私と距離をあけた。そのまま正対して私を見る…その瞳から、ボタボタと涙がこぼれ落ちた。
瞬きもせず、こぼれる涙を拭いもせず、ただ私をじっと見る殿下の腕が、…ゆっくりと私に伸びてきた。
思わずビクリとする私の手を取った殿下は、「温かい…」と呟き、くしゃりと顔を歪めた。
「ルヴィ」
私の手を大事そうに両手で包み、ボタボタ涙を流しながら「生きてる…」と呟き、
「ルヴィ!!」
そう叫ぶと、私を抱き締めた。
「ルヴィ、ごめん、俺が…俺が、勝手なことをして、ルヴィを死なせてしまって、謝って、済むことじゃ…っ」
そして堰を切ったように泣き出した。
私は、殿下を振り払うことができなくて…
殿下の背中を、ただ擦り続けることしかできなかった。
「ジーク、落ち着いたか~」
サヴィオン様の声にハッとする。一緒になって泣いてしまっていたようだ。
殿下は私を抱き締めたまま離さない。
すると陛下が、「ジーク、とりあえず離れろ」と言って殿下を引き剥がした。
殿下は、目の周りを赤くして私をじっと見つめた。そして、蕩けるような笑顔を見せる。
その笑顔を見て胸がドキドキと脈打つ。違う、私は、前回の仕打ちに対して文句を言ってやるんだ!
それなのに、言葉が出てこない。
前回と比べようもないくらいに精悍になった顔を緩ませ、「ルヴィ、生きててくれてありがとう」と言う。
ドキドキしすぎて胸が痛い。
「ジーク、…とりあえず座れ」
「はい、叔母上」
殿下は私から目を離さず、椅子に座ると「ルヴィ、ここに来て」と自分の隣の椅子を引いてポンポンとした。
固まって動けずにいると、殿下は立ち上がって…私をお姫様抱っこした。
そのまま顔を私の髪に埋もれさせ「いい匂い…」とうっとりしたように言う。
そのまま、自分の椅子に腰かけた。私を抱いたまま。
「ジーク!」
「叔母上、何もしません。しませんから、ルヴィを感じさせてください」
そう言うと今度は私の首筋に顔を近づけ、…チュッと、口づけた。
「ジークフリート皇子!」
お父様が叫び、私を取り返そうと腕を伸ばすが、殿下は私を抱いたままスッと移動した。
「ルヴィを離すつもりはないので…このままでダメだというなら、ルヴィを連れて消えます」
許容範囲を越えた出来事に、意識を失わないようにするのが精一杯の私は、自分で何もすることができなかった。
「カティ」
サヴィオン様が陛下を呼ぶ。
「とりあえず、始めよう。ジークの好きにさせてやってくれ、無体なことはさせないし、しないから。
ルヴィア嬢の父上も、…ケイトリンも…頼む」
サヴィオン様が頭を下げるのを見て、おばあ様が「サヴィオン様、おやめください!」と叫ぶ。その間も殿下は、私の首もとに顔を埋め離れなかった。クンクン匂いをかがれ、ペロッと舐められる。
ビクッとカラダが震える私を蕩けるような瞳で見て、「可愛い…」と呟く殿下。
「コラ!ジーク!俺がなんとかしようとしているのに、油を注ぎ続けるのはやめろ!!」
サヴィオン様の叫びを聞いて「チッ…」と舌打ちをすると、「…始めましょう」と短く言って、また私を見つめる。
「殿下、あの、」
「なぁに、ルヴィ」
甘い瞳を向けられて、現実逃避しそうになったがなんとか堪えた。
「殿下は、」
「うん?」
「殿下は、なぜ、私を『ルヴィ』と呼ぶのですか?」
「ルヴィはルヴィでしょ?」
違う?と言ってコテンと首を傾げる殿下。なんなの、なんなのいったい!
「私を、ルヴィと呼ぶ人はいません」
「だからだよ」
「え?」
「俺だけが呼ぶ愛称だよ、ルヴィ」
ニッコリと微笑む殿下にザァッと血の気が引く。そうだ、この人は、危ない人だった…!
必死に逃げようとする私をギュウッとすると、「逃げたら…キスするよ、みんなの前で」とボソッと言う。その瞳に嘘を見つけられなかった私は、大人しく殿下の膝の上にお邪魔することを選んだ。…私、文句を言ってやるつもりだったのに…。
そんな私を見て「ん?」と笑顔を見せる殿下の手は、一向に緩む気配がなかった。
お母様もついてきたがったが、アレックスとカーティスを連れていけないため諦めた。
「ヴィー、大丈夫かい?」
お父様が心配そうに私を見る。
「大丈夫です」
私はお父様を見てニコリとした。
城に着くと、すぐに陛下がやってきた。
「ルヴィア嬢、よく来てくれた。礼を言う」
「陛下」
陛下はことのほか嬉しそうだった。おばあ様も嬉しそうだ。ジークフリート殿下の成長ぶりが予想以上だったという。
陛下は涙ぐみ、「…兄上に預けて良かった」と言った。
「ルヴィア嬢」
「はい」
「ジークがもし前回のようにキミに暴力を振るおうとしても、我々が責任を持って止める。…あの様子ならたぶん大丈夫だと思うが」
「よろしくお願いいたします」
陛下の執務室には、王妃陛下とカイルセン皇子、そして前回の人生でお会いしたことのなかった男性が陛下の兄であるサヴィオン様であろう、既にお揃いになっていた。
「ルヴィア・サムソンでございます」
挨拶をすると、「キミが…ジークの想い人か」とサヴィオン様が言った。
サヴィオン様は殿下と同じ黒髪、赤い瞳だが、筋肉質で大柄な、野性味あふれる男性だった。声も大きい。
「ジークが、毎日のようにキミに会いたいとうるさくてね。なのに、いざ会えるとなったら雲隠れだ」
まったく意気地無しめ、とカラカラ笑うと、「ジーク!ルヴィア嬢におまえより先に触れるぞ!」と叫び、私に握手を求めるように手を伸ばした。
「叔父上!!」
サヴィオン様の手を遮るように私の前に人影が現れる。黒い髪、だけどその後ろ姿は前回の顔合わせとまったく違っていた。前回は後ろでひとつにまとめる長髪だったが、目の前の髪は短く整えられている。背も、私より頭ひとつ分ほど高い。サヴィオン様まではいかないが、ほどよく筋肉がついた背中。
つい見とれてしまった私を赤い瞳が振り返る。
「…殿下」
殿下はハッとしたように私と距離をあけた。そのまま正対して私を見る…その瞳から、ボタボタと涙がこぼれ落ちた。
瞬きもせず、こぼれる涙を拭いもせず、ただ私をじっと見る殿下の腕が、…ゆっくりと私に伸びてきた。
思わずビクリとする私の手を取った殿下は、「温かい…」と呟き、くしゃりと顔を歪めた。
「ルヴィ」
私の手を大事そうに両手で包み、ボタボタ涙を流しながら「生きてる…」と呟き、
「ルヴィ!!」
そう叫ぶと、私を抱き締めた。
「ルヴィ、ごめん、俺が…俺が、勝手なことをして、ルヴィを死なせてしまって、謝って、済むことじゃ…っ」
そして堰を切ったように泣き出した。
私は、殿下を振り払うことができなくて…
殿下の背中を、ただ擦り続けることしかできなかった。
「ジーク、落ち着いたか~」
サヴィオン様の声にハッとする。一緒になって泣いてしまっていたようだ。
殿下は私を抱き締めたまま離さない。
すると陛下が、「ジーク、とりあえず離れろ」と言って殿下を引き剥がした。
殿下は、目の周りを赤くして私をじっと見つめた。そして、蕩けるような笑顔を見せる。
その笑顔を見て胸がドキドキと脈打つ。違う、私は、前回の仕打ちに対して文句を言ってやるんだ!
それなのに、言葉が出てこない。
前回と比べようもないくらいに精悍になった顔を緩ませ、「ルヴィ、生きててくれてありがとう」と言う。
ドキドキしすぎて胸が痛い。
「ジーク、…とりあえず座れ」
「はい、叔母上」
殿下は私から目を離さず、椅子に座ると「ルヴィ、ここに来て」と自分の隣の椅子を引いてポンポンとした。
固まって動けずにいると、殿下は立ち上がって…私をお姫様抱っこした。
そのまま顔を私の髪に埋もれさせ「いい匂い…」とうっとりしたように言う。
そのまま、自分の椅子に腰かけた。私を抱いたまま。
「ジーク!」
「叔母上、何もしません。しませんから、ルヴィを感じさせてください」
そう言うと今度は私の首筋に顔を近づけ、…チュッと、口づけた。
「ジークフリート皇子!」
お父様が叫び、私を取り返そうと腕を伸ばすが、殿下は私を抱いたままスッと移動した。
「ルヴィを離すつもりはないので…このままでダメだというなら、ルヴィを連れて消えます」
許容範囲を越えた出来事に、意識を失わないようにするのが精一杯の私は、自分で何もすることができなかった。
「カティ」
サヴィオン様が陛下を呼ぶ。
「とりあえず、始めよう。ジークの好きにさせてやってくれ、無体なことはさせないし、しないから。
ルヴィア嬢の父上も、…ケイトリンも…頼む」
サヴィオン様が頭を下げるのを見て、おばあ様が「サヴィオン様、おやめください!」と叫ぶ。その間も殿下は、私の首もとに顔を埋め離れなかった。クンクン匂いをかがれ、ペロッと舐められる。
ビクッとカラダが震える私を蕩けるような瞳で見て、「可愛い…」と呟く殿下。
「コラ!ジーク!俺がなんとかしようとしているのに、油を注ぎ続けるのはやめろ!!」
サヴィオン様の叫びを聞いて「チッ…」と舌打ちをすると、「…始めましょう」と短く言って、また私を見つめる。
「殿下、あの、」
「なぁに、ルヴィ」
甘い瞳を向けられて、現実逃避しそうになったがなんとか堪えた。
「殿下は、」
「うん?」
「殿下は、なぜ、私を『ルヴィ』と呼ぶのですか?」
「ルヴィはルヴィでしょ?」
違う?と言ってコテンと首を傾げる殿下。なんなの、なんなのいったい!
「私を、ルヴィと呼ぶ人はいません」
「だからだよ」
「え?」
「俺だけが呼ぶ愛称だよ、ルヴィ」
ニッコリと微笑む殿下にザァッと血の気が引く。そうだ、この人は、危ない人だった…!
必死に逃げようとする私をギュウッとすると、「逃げたら…キスするよ、みんなの前で」とボソッと言う。その瞳に嘘を見つけられなかった私は、大人しく殿下の膝の上にお邪魔することを選んだ。…私、文句を言ってやるつもりだったのに…。
そんな私を見て「ん?」と笑顔を見せる殿下の手は、一向に緩む気配がなかった。
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