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新たな火種
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「シア、義父上はまだ王宮に残らなくてはならないから、俺が送っていくよ。帰ろう」
「わかりました、あの、」
「馬車で話す。行こう」
ハロルド様に手を繋がれ、先ほど来た廊下を戻るように進む。
「ハル様のお部屋、本がたくさんでしたね」
「うん…以前読んだものはなるべく揃えないようにしたんだけど、内容を理解できるのが早すぎて幼い時から、」
そこまで言ってハロルド様はハッとしたように口をつぐんだ。
「小さい時から、ご優秀だったのですね」
私がそう言うと、曖昧に微笑み、
「何か面白いのは見つかったかな」
「ハル様がどんな本を読んでいるのか知りたくて背表紙を見ていたので…中身は見ていないのです」
「思ったより早く話も済んだからね…陛下も、もう決めていたみたいだよ、エイサンについての処遇を」
馬車に乗せられ、話が続く。
「俺の下の下…陛下から見ると三男だね。クリストファーっていうんだけど…クリスが2年後、学園に入る。俺が三年、エイサンが二年、クリスが一年…俺の卒業までにエイサンが態度や考えを改めない限り、王太子をおろすことが決まった」
「考えを、改めない、…ですか?」
「うん。一番はアデルとの婚姻に拘っていること。これについてはシアの父上が切り込んでたよ。叔父上なんかニヤニヤしてたから、たぶんお願いしたんだろう、言ってもらうように」
お父様が、切り込んでた?
「え、と、」
「『犯罪者の娘とわかっている血筋の令嬢を未来の王妃にするなどもっての他。もし変わらず進めるならば我々は職を辞します』って。私も、私も、って、かなりの数が叫んでた。エイサンはブルブル震えてたよ、真っ赤な顔で。現在の重鎮が揃いも揃って辞めるとなれば、陛下にとってもかなりの痛手だし…何より効いたのは、『イーストウェル侯爵は元々王族の方で、しかしそれを笠にきることなく誠実に慎ましやかに生きておられる。その彼の方に、疑いの目を向けさせたいのですか?…養女を王太子妃にすることで権勢を誇るつもりなのだと』」
「…お父様、なんてことを…!」
「シア、だから、叔父上が頼んだんだよ。ニヤニヤしてたんだから。むしろ悪者にされて義父上が気の毒だよ。周りの方々にも根回し済みだろうから、変なことは起こらないだろうけど」
あまりの言葉に怒りが沸いてきた私を、ハロルド様はのんびりした口調で宥めた。
「俺とイーサンも、正直に言わせてもらったよ。エイサンが国王になったら、ウッドベル侯爵家、ジルコニア侯爵家は共同で独立すると」
「え!?」
「もちろん両家の当主が了承済みだから…シアに内緒にしてたのは、ごめんね?…そしたら、当然のように叔父上が乗っかってきてさ…イーストウェル侯爵家も入る、って。これについては根回ししてなかったから重鎮方も焦ってた。面白かったよ」
クックッ、と笑っているが、笑い事ではない。そんな、国の今後に関わることを、
「…シア、キミはまだそういう実感がないのだろうが、ウッドベル侯爵家は抜けられたら大変な…影響力を持つ家なんだ。ジルコニアも同様、もちろんイーストウェルも。脅迫と取られても仕方ないが、これが真実だ。特にジルコニア家の当主はエイサンを次期国王に望んでいない」
王家の盾であるジルコニア侯爵に、突きつけられてしまったエイサン殿下は、…たとえ考えを改めたところで先は明るくないだろう。国の重鎮方の前で、「能無し」だと宣言されたも同然なのだから。
「わかりました、あの、」
「馬車で話す。行こう」
ハロルド様に手を繋がれ、先ほど来た廊下を戻るように進む。
「ハル様のお部屋、本がたくさんでしたね」
「うん…以前読んだものはなるべく揃えないようにしたんだけど、内容を理解できるのが早すぎて幼い時から、」
そこまで言ってハロルド様はハッとしたように口をつぐんだ。
「小さい時から、ご優秀だったのですね」
私がそう言うと、曖昧に微笑み、
「何か面白いのは見つかったかな」
「ハル様がどんな本を読んでいるのか知りたくて背表紙を見ていたので…中身は見ていないのです」
「思ったより早く話も済んだからね…陛下も、もう決めていたみたいだよ、エイサンについての処遇を」
馬車に乗せられ、話が続く。
「俺の下の下…陛下から見ると三男だね。クリストファーっていうんだけど…クリスが2年後、学園に入る。俺が三年、エイサンが二年、クリスが一年…俺の卒業までにエイサンが態度や考えを改めない限り、王太子をおろすことが決まった」
「考えを、改めない、…ですか?」
「うん。一番はアデルとの婚姻に拘っていること。これについてはシアの父上が切り込んでたよ。叔父上なんかニヤニヤしてたから、たぶんお願いしたんだろう、言ってもらうように」
お父様が、切り込んでた?
「え、と、」
「『犯罪者の娘とわかっている血筋の令嬢を未来の王妃にするなどもっての他。もし変わらず進めるならば我々は職を辞します』って。私も、私も、って、かなりの数が叫んでた。エイサンはブルブル震えてたよ、真っ赤な顔で。現在の重鎮が揃いも揃って辞めるとなれば、陛下にとってもかなりの痛手だし…何より効いたのは、『イーストウェル侯爵は元々王族の方で、しかしそれを笠にきることなく誠実に慎ましやかに生きておられる。その彼の方に、疑いの目を向けさせたいのですか?…養女を王太子妃にすることで権勢を誇るつもりなのだと』」
「…お父様、なんてことを…!」
「シア、だから、叔父上が頼んだんだよ。ニヤニヤしてたんだから。むしろ悪者にされて義父上が気の毒だよ。周りの方々にも根回し済みだろうから、変なことは起こらないだろうけど」
あまりの言葉に怒りが沸いてきた私を、ハロルド様はのんびりした口調で宥めた。
「俺とイーサンも、正直に言わせてもらったよ。エイサンが国王になったら、ウッドベル侯爵家、ジルコニア侯爵家は共同で独立すると」
「え!?」
「もちろん両家の当主が了承済みだから…シアに内緒にしてたのは、ごめんね?…そしたら、当然のように叔父上が乗っかってきてさ…イーストウェル侯爵家も入る、って。これについては根回ししてなかったから重鎮方も焦ってた。面白かったよ」
クックッ、と笑っているが、笑い事ではない。そんな、国の今後に関わることを、
「…シア、キミはまだそういう実感がないのだろうが、ウッドベル侯爵家は抜けられたら大変な…影響力を持つ家なんだ。ジルコニアも同様、もちろんイーストウェルも。脅迫と取られても仕方ないが、これが真実だ。特にジルコニア家の当主はエイサンを次期国王に望んでいない」
王家の盾であるジルコニア侯爵に、突きつけられてしまったエイサン殿下は、…たとえ考えを改めたところで先は明るくないだろう。国の重鎮方の前で、「能無し」だと宣言されたも同然なのだから。
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