幸せになっても良いですか? 完

鈴木なお

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少しずつ思い出す

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入院してからさらに数日経った。

頭の中が整理され、私は少しずつ事故を起こした日のことを思い出す。

「(あれは銀行の帰りだった。)」

そう、思い出したのだ。

銀行で記帳した通帳のことを。

そしてカズヤが振り込んでくれた大金のことを。

通帳にいくつも並ぶ0の数字は紛れもなくカズヤの保険金でしかなかった。

カズヤは生前、自分が亡くなったら親族の私に保険金が振り込まれるようにしていたのだ。

彼はとても優しい。

きっと人のことを誰よりも大切にする彼のことだから私に保険金をくれたのだろう。

だけど当時の私にとってその愛はとてつもなく重かった。

そしてカズヤのいない寂しさを抱えながらその愛を受けとめることがどうしても大変だったのだ。

カズヤへの淋しさ、カズヤがくれた愛情、抱えきれない切なさ、それらが私を惑わせた。

そう、私は心がいっぱいになって気づいた時には車で事故を起こしてしまっていたのだ。

「…。」

今、思い出しても車で事故を起こしてしまった自分の未熟さに心がキュッとなる。

気持ちが乱れて事故を起こしてしまうくらい私にとってカズヤは特別な存在だったのだろう。

カズヤのことを思い出す度に胸をしめつけられる。

深いため息とともに私は俯く。

俯いた先に何か向上の兆しがあるとは限らないのにだ。

しかし、また私は飽きもせずにため息をつく。

昼間の日差しは緩やかだが私の心は荒れ模様だった。

思わず両手で自分の頭を抱える。

きっと当時の私はカズヤとの思い出に浸ることが精いっぱいだったのだろう。

そしてそんな私を見つめている人がいた。

「大丈夫ですか?」

そう声をかけてくれたのは中村さんだった。

頭を両手で抱えている私はどう見ても大丈夫そうではない。

だが、気を遣って大丈夫ですかと心配してくれる中村さんは優しい。

わかっている。

中村さんが看護師という仕事柄、そういう対応をしてくれているということくらい。

私だって大人だからわかる。

だけど当時の私はカズヤが空けた隙間をうめたくて仕方なかったのだ。

「大丈夫です。」

それは強がりから出た言葉だった。

本当は大丈夫なんかじゃない。

カズヤのことを思い出せば出すほど涙が頬をつたう。

中村さんはきっとそんな私を見て呆れているかもしれない。

しかし、次の瞬間、中村さんは私を抱き寄せた。

「…中村さん?」

突然のことにかたまる私。

そんな私に中村さんは優しくこう言った。

「なんで泣いているのかはわかりませんが、なんでも僕に頼ってください。」

中村さんがギュッと私をさらに抱く。

温かい中村さんの温度だけが空っぽの私を包んでくれていた。
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