幸せになっても良いですか? 完

鈴木なお

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保険金を抱えて

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中村さんに抱かれて数分が経った。

じんわりと温かくて、中村さんの温度が私の淋しさをうめてくれるような気がする。

カズヤはたまに私のことを抱っこしてくれたけど、中村さんのソレとはまた違う温かさがあった。

中村さんもカズヤも喋り方がよく似ているのに持っているものは違うのだろう。

その事実が分かる度に私はきっとカズヤを恋しく思うに違いなかった。

「もう大丈夫です。」

私はそう言うと、中村さんの胸板にソッと両手をそえた。

中村さんが離れると香水の匂いがふんわりと香る。

安心するような癒されるような素敵な香りだった。

私が中村さんの匂いにうっとりしていると、中村さんは私に眼差しを向ける。

「急に抱きしめてすみません。」

中村さんは申し訳なさそうにそう言った。

その申し訳なさげな表情が子犬みたいで可愛く感じられる。

中村さんのことを可愛いと思ったのはその時がはじめてだった。

男の人に可愛いと思うなんて、男の人からしたらあまり嬉しくない事だろう。

だから私は中村さんに可愛いと言うのはやめようと思った。

「いいえ。抱きしめてもらえたおかげで気持ちが楽になりました。」

私がそう言うと中村さんは驚いた表情を浮かべている。

きっと私がそんなことを言うなんて思いもしなかったのだろう。

中村さんはこんな感じで思ったことが表情にでやすいタイプなのだ。

カズヤも「中村さんはわかりやすいタイプだ。」と言っていたっけ。

私はいつの日かのことを思い出していた。

そう、あの日の私はカズヤのお見舞いに来ていたのだ。

私とカズヤが会話をしていると昼食を持ってきた中村さんが病室に来た。

昼食を急いで食べようとするカズヤに中村さんが微笑みながらスプーンを渡していたっけ。

まるで昨日のことのように思い出されるその記憶。

だけどもう、カズヤはいない。

その事実に直面する度に私は現実の儚さを思い知った。

きっと中村さんは職業柄、より、この世界の儚さを知っているに違いない。

中村さんは私に静かにこう言った。

「この仕事をしているとわかるようになるんです。目の前の人が寂しさを抱えているかどうかが。」

やっぱり中村さんには全てお見通しだったのだ。

私はなんだかこっぱずかしくなり、頬が少し暖かくなった。

きっとカズヤがこんな私を見たら笑ってくれるだろう。

ここ最近、私は俯いてばかりだった。

正直、カズヤが最後にくれたプレゼントの保険金だってどうしたらいいかわからなかったぐらいだ。

だけど、なんだかいろいろと馬鹿らしくなり、私はカズヤがくれたプレゼントを前向きにとらえようと思った。

きっとカズヤは俯いている私よりも前向きな私の方が好きだろうから。

私はニッコリと笑顔で中村さんに言った。

「だから中村さんは優しいんですね。中村さんが優しい人で良かった。」

私がそう言うと中村さんはなぜか頬を少し桃色に染める。
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