25 / 35
【特別編】魔王とカインの紙ひこうき!~少年と物語の始まり~
◇第七章:おいでませニスリ森林(続)
しおりを挟む朝早くから昼過ぎまでずっと続いていた会議を終えて、ようやく休憩に入った頃。
広間の窓から外を見て、魔王は何か胸騒ぎを覚えていた。
窓から見えるのは、城を取り囲むように広がる湖と奥に続く森、ときおり水面が日差しを受け煌めいて、子連れの鳥が周辺を泳ぐ。
なんとも緑豊な光景だ。ここにもし画家がいれば思う存分にその腕を振るっただろう。
しかし、どうにも穏やかな気持ちで見ていられない。
(なんだ……まさか――)
それが杞憂ではないと、珍しく浮かない顔で現れたシュケルを見て確信する。
「どうした」
ここではと、声を潜めてそう言ったシュケルと共に部屋へと移動する。
部屋の中央にあるティーテーブルの上に置かれた水晶。そこに映し出されたカボチャの様子に、やはりそうかと覚悟を決めた。
「何があった」
するとカボチャは顔を上げ、絞り出すようにこう言った。
「申し訳ございません。……カインが、倒れました」
「それで」
「一向に目を覚ます気配がありません」
「そうか」
中々本題に入らない事に焦りを覚えてか、魔王の手はじわりと汗を握る。
と、その様子を見兼ねてシュケルが口を開く。
「魔王さま。どうにもあの人間は結界が効きにくい体質のようです」
――自分の代わりに話し出すシュケルの声を聞きながら、カボチャは自身の不甲斐なさを悔やむ。
もっと早くに気付くべきだったと、自分ならそう出来た筈だと。
あの後カボチャは急に倒れたカインに驚きつつも、冷静になって彼の状態を確かめた。
そして驚いた事に、カインにしっかりと張った筈の結界が弱くなっている事に気付いたのだ。
何故そんなに驚くかというと、こう見えてカボチャはそんじょそこらの魔族ではない。少なくとも北のこの地では魔王の次に強い魔力を持っている。
そのカボチャの結界が効かないなど、普通は有り得ない事なのだ。
それがこうも効いていないとなると。
『まさか、結界が効きにくい体質なのか?』
稀にいるのだ、魔力が効きにくい体質の者が。
ただ何処までそうなのかはその者の体質にもよる。
例えば治癒術が効きにくいとか、防御術が効きにくいとか、呪術が効きにくいとか。
その中で少なくともカインは防御術の一つである結界が効きにくいのだと言える。
けれど、カボチャは自分程の魔力でさえも効かぬ相手に出会ったのは初めてだった。
『よりによって君がか』
カボチャはその時にもう一度結界を張り直した。けれどあくまでそれは一時しのぎでしかない。
(僕は確かに魔力は強くともそもそもが黒の魔族、本来得意なのは攻撃術などの力業です。治癒術や防御術といったものになれば白の魔族であるシュケルの方が得意だ。あれには到底勝てない)
言い訳のように思うが、要はカボチャは強い魔力を持ちながらもその扱いが下手なのだ。
いや強い魔力を持っているから下手なのかもしれない。
一方シュケルは魔力はカボチャほどではないにしろ、その扱いが頗る上手い。だからこそ時にカボチャ以上の実力を発揮出来る。
それもあってカボチャはいつもシュケルにからかわれている。
宝の持ち腐れとは貴方の事ですねと。
ただ今はそう言われても仕方ないとカボチャはうつむき、自身の拳を握ると、まだ眠りから覚めないカインを見る。
(やはり早々に帰すべきだったのか?)
けれど、どんなに止めようが無理があると分かっていようが、諦めず前進しようとするカインを見ていて、いつの間にか願いを叶えてやりたいと思っていた。
ついで言うと正直悪役をやるのもかなり楽しみにしていた。
だが、こうなれば……。
「魔王さま。やはり直ぐにでもこの者をあちらに還して」
「待ちなさいカボチャ」
そう言ったのはシュケルだった。
「今あちらに連れて行ったところで回復出来るかは未知数ですよ。それにちょっと深く考え過ぎです」
「は?」
何を言うかとカチンときた。
「弱くなっていたとはいえ、あなたの作った結界に守られていたんですよ? 邪気を体内に取り込んでしまったとは到底思えませんね。せいぜい多少あてられたくらいでしょう」
だったらなんだというのか。
「安心なさいと言ってるんです。なんの為に私と魔王さまに助けを求めて来たのですか」
別に求めてないと言いたかったが、正直そうだ。
「顔を上げろ、カボチャ」
そう言われておずおずと顔を上げると、いつものように雄々しく自分を見詰める魔王の姿があった。
「シュケルから聞いているぞ。だいぶ手を焼いていると、本当にすまんな。お前にはいつも苦労をかける」
「いえ、そんな!」
「あれは相当しつこいからな。この程度の事でくたばりはせんよ。なぁシュケル」
シュケルがいつもの不敵な笑みを浮かべたかと思うと、カボチャの前にある物が現れた。
「うわっと!」
宙に浮いて表れたそれが、力を失い落ちるのをすんでのところで受け止める。
「これは……っ」
◇◇◇
『――どうかしましたか?』
その声と姿を見て、あぁこれはどうやら夢だと気付いた。
いや、 この〝映像を観ている〟と言った方が正しいのかもしれない。
『魔王さま?』
嫌と言うほど見慣れている橙色のそいつがそう言って、何やら悩んでいる様子の男に声をかけた。
『カボチャ……お前はこれがなんだか分かるか?』
言われると、そいつは魔王さまが手にしている紙を横から覗き込んでいる。
『あぁもしかして、例の紙飛行機ですか……って、なんですかこれ?』
『多分絵だな』
『いやそれは分かります』
『あぁそうだな余もそれは分かる。ただな』
『黒いぐちゃぐちゃ?』
二人で頭を悩ませ紙に描かれたその落書きを眺めていると、そこにこれまた嫌と言うほど見覚えのある司祭服のような出で立ちの男が現れた。
『何やら楽しそうなご様子で』
男は胡散臭い笑みでそう言う。
自分に声がかかった訳でも、ましてやただの夢であるはずなのにこの男を見るだけで、こうも嫌な気分になるのはどうしてか。
『シュケル、お前はこれをどう思う?』
親切な魔王さまがそいつにわざわざ見せるようにして紙を持ち直した。
『なるほど。あの人間の赤子からですね』
『もう赤子ではないがな。最近は絵を描くようになったらしい』
シュケルはまじまじとその絵を見詰め、目を細める。
『余は熊のつもりではないかと思うのだが』
『僕は草か、毛玉に見えますね』
二人の言葉に、フフフと笑う。
『草に毛玉に熊ですか、赤子が知ったら泣くか怒るでしょうね』
そして魔王さまが持つそれを受け取り、折り目が残る紙を丁寧に広げて、二人に見せる。
『これは〝魔王さま〟ですよ』
私にはそう見えますと、シュケルはその絵を丁寧な仕草で返す。貴重なものでも扱うように。
『余、だと?』
驚いた顔で二人はその絵を見詰めなおす。
確かに魔王さまは全身真っ黒な出で立ちでいらっしゃる。
だからそうと言われるとそうなのかもしれない。
『この絵を描いた者は、魔王さまを好いていますからね』
フフフとまた笑う。この時ばかりはこの笑い方もあまり嫌ではなかった。
『んーなんだか僕もそんな気がしてきましたよ。変装した時によく似てはいませんか? ほら、全身真っ黒なローブ姿じゃないですか、顔も口元近くまで隠してしまわれますし』
ぐちゃぐちゃの黒い塊の絵を見て、そんな事を言う。
『そう見えるか? いや、そうなのかも知れんな』
と、三人で顔を見合わせ思わず笑った。
『そう言えば、なんて名でしたっけ?』
笑いながら橙色は魔王さまに聞く。
『なんだ忘れたのか〝カイン〟だ』
『あぁ、そうでした。……カイン、いつか会ってみたいですね』
あぁそうだ。
そう言えば、そんな事、確かに言ったなぁ。
ゆるりと夢が光に照らされるように真っ白に変わっていく。
「――シュケルの奴、さては覚えていましたね」
うっすらと瞳を開け、そうこぼす。
どうやら自分は、ほんの少しの間だけ眠っていたらしい。
「だから僕をわざわざこれの子守りに……ホント、嫌な奴です」
隣には未だ目覚めないカインの姿。
しかし、もうすぐ目覚めるだろう。
カボチャは少し弱くなった焚き火に薪をくべ、その時をただ静かに待つ。
だんだんと夜の気配が近付き、焚き火の灯りが彼の真っ黒な服を橙色に染めた。
ただ願う。早く目覚めて、またあの無邪気な笑顔で、笑って欲しいと――。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~
夕凪ゆな
BL
「来週の木曜日、少しだけ僕に時間をくれないか」
学園の太陽と慕われるセオドリックは、副会長レイモンドに告げた。
というのも、来たる木曜日はレイモンドの誕生日。セオドリックは、密かに、彼を祝うサプライズを画策していたのだ。
しかし、レイモンドはあっさりと断る。
「……木曜は、予定がある」
レイモンドをどうしても祝いたいセオドリックと、独りで過ごしたいレイモンド。
果たして、セオドリックのサプライズは成功するのか――?
【オムニバス形式の作品です】
※小説家になろう、エブリスタでも連載中
※全28話完結済み
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる