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第一章 復讐とカリギュラの恋

(13)逆さ十字

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  ザカリー伯爵はまず、メナリーの髪の毛を掴んでベッドから引きずり出した。


「お前はなんという恥さらしだ。汚らわしい女め。もしや自分の姉のセネラを殺したという噂は本当か」


  伯爵はメナリーの身体を蹴り、剣を抜いた。首を跳ねるつもりだったが、その時、ルネが伯爵を止めた。


「伯爵、あなたにこのような恥辱を与えた女をただ殺してしまうのは……」


  止めるふりをしてルネは伯爵の手から剣を奪い取り、直ぐ様その場で伯爵の腹を撫で斬りにした。


  服が真横にすっぱりと裂け、血が滲む。


「な、何をする……っ」


  ルネは伯爵のブーツのくるぶしを斬った。


「ろ、狼藉者……」


  膝をついた伯爵の背中から衣服を切り払う。呻く伯爵の髪の毛を掴んで人間離れの怪力でベッドに投げ飛ばした。


  伯爵は呻きながらジグヴァンゼラの青白くやつれた顔を見た。


「ジギー、起きろ」


  呼び掛けたが、ジグヴァンゼラは死んだような眠りに落ちている。


「今度はあなたを解放して差し上げよう。この世の全てのものから……」

「何をするっ」


  ザカリー伯爵は死相が現れたか蒼白になり、撫で切りにされて抵抗力を奪われた血塗れの身体をルネに押し広げられて犯された。


「や、止めろ……ぉ」


  伯爵はいつしかしごかれ勃起した。いきそうになった途端にジグヴァンゼラの中に挿入させられた。伯爵は感電したように身体が跳ねて拒絶したが、ルネの悪魔的な力の前では赤子のようにただじたばた喘ぐだけでとうとうジグヴァンゼラの中で果てた。


  ザカリー伯爵の口から血反吐が溢れた。血走った目付きが呪う相手は拍手大喝采で喜んでいる。


「素晴らしい出し物だ。死を前にしてもこのような事はあるのか。私より高い身分を持つ高貴なあなたが、私を喜ばせる見せ物を演じてくださるとは。これは滅多に味わえない報奨」


  伯爵の横で気の触れた妻メナリーが笑う。失血の青い顔の伯爵は、白い目でメナリーを一瞥して直ぐに、憐れみの眼差しになった。


「ううう、メナリー。お前は何もわからなくなってしまったのか。済まぬ。お前もこのような目に遭わされたのだな。ルネ……お前に復讐してやろうぞ。ぉ、おぼ、覚えていろ……っ」


  伯爵はルネに憎しみの呪いをかけて息を引き取った。先妻セネラに似た女の姿を見た気がしたが、確かめる時間はなく、蒼く瞼を閉じた。


  堕天使ベルエーロが嗤う。
お主の恨みは美味なる食卓。悦んで頂こう。


  ルネは、伯爵の死体に逆さ十字の紋章を刻んだ。この土地の迷信を知っていたのだ。逆さ十字紋章は悪魔崇拝を意味しており、天国の門を潜れないという迷信を。




  葬式は、伯爵の遺体を石棺に入れて冷え冷えとする地下堂に寝かせ、ジグヴァンゼラとメナリーは誰の葬儀かもわからずに自我失ったまま突っ立って、声も涙も出せない。


  神父が弔いの言葉を唱えている最中に、二人とも気を失って倒れた。


  屈強な兵士が呼ばれ、地下堂から伯爵夫人と後継者を部屋に運ぶ。ルネは、主のように伯爵家の使用人たちに命令した。


「二人を閉じ込めておけ」




  気がつくと、夢を見ているのかリトワールの顔が近い。額に手を置く優しい眼差し。ジグヴァンゼラはリトワールの首に腕を回して唇を求めた。


  固まるリトワールの頭を後ろからルネが押す。


  ジグヴァンゼラはルネにされたようにリトワールの唇の中に舌を絡ませようとして、再び意識を失った。


「こやつにも逆さ十字を刻んでおくか」


  傍らの堕天使ベルエーロが嘲笑う。


好きにしろ。お前の意思だ。
私が唆したのではない。ヒヒヒ……
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