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第一章 復讐とカリギュラの恋
(15)ハビタ
しおりを挟む「それでね、弟がバッタを捕まえてアヒルの子にあげたの。そしたらパクパク食べ始めたの。アヒルの子は、バッタは美味しいものだと気がついて、元気になって、自分でもバッタを捕まえられるようになったのよ」
「それは素晴らしいね。人間が教えてやらなければ親のないアヒルの子にはわからなかったんだね」
ジグヴァンゼラは笑った。
少女も笑った。
「さあ、今からジグヴァンゼラ様はアヒルの子よ。バッタより美味しいものを少し、あげる。ほんの少しだけね」
はい、あーんして、と少女がジグヴァンゼラに口を開けさせる。そして、本当にほんの少しのパンをミルクに浸けて含ませるのだ。
ジグヴァンゼラがそれを飲み込むまで、少女はジグヴァンゼラの唇に自分の唇を重ねた。
ジグヴァンゼラは少女の身体を優しく抱き締めながら、パンを飲み込む。いくらか同じように食べて、そして眠りに落ちた。
葬儀の夢を見たが誰の葬儀かわからない。
ジグヴァンゼラは何度も少量のパンを食べて、眠った。少しづつパンとミルクを受け付けるようになった。
ジグヴァンゼラのお気に入りの少女はハビタと言うまだ12才の子供だ。
パンを吐き出させないように唇を合わせるも少しも嫌らしさはなく、細くか弱く、明るい笑顔で村の話をする。
話は、笑い話が主だったが、伝説じみた恐ろしい話もあった。
ジグヴァンゼラの父親が生まれるずっと何代も前からザカリー家はこの辺境の土地に自領地を持つ領主だったが、国が形成されて戴いた爵位は男爵だった。
領主の長男が十八才になると、十才を過ぎた次男三男は奉公に出される。それがこの国の貴族社会の決め事だった。
ところがある時代の領主は、長男ではなく、妾腹の三男を跡継ぎにした。
怒ったのは奉公に出された次男だった。次男は長男に次ぐ正当な跡継ぎの権利を有していたし、兄を尊敬していたからだ。
次男は、その時代には未だ伯爵だったアントローサ家に仕えていたから、病床の父親にアントローサ伯爵の使用人を文の遣いにやった。
しかし、遣いは悉く殺されて、骸は森に囲まれた岩場の洞穴に投げ捨てられた。
不振に思った次男は遣いの行方をこっそり調べて激怒した。
次男はアントローサ伯爵の後ろ楯を得て国王の承認を掲げ、実家に軍隊を派遣、三男を殺し、三男の母親と三男に仕えていた執事も殺した。
そして次男は、助け出した長男の姿に衝撃を受けた。
長男は手足を切られ女物の衣服を着せられて執事の慰みものとして飼われていたからだ。
表に出せない事件を覆い隠す為、次男は長男に関わった大勢の使用人を皆殺しにして焼き、森の奥の洞穴に捨てた。
正当な領主になるはずの者を守らずに敵対者に与したのだから、使用人たちは処罰を受けるべくして受けたのだ。
手足の不自由な者は貴族の爵位を継げないこの国独自の法律で、次男が領主に収まる形で、長男に実権を与えた。
長男は頭が良く、次男は行動力がある。仲の良い兄弟が助け合って地域の平和と豊かな暮らしを築き上げた。
この話はザカリー家の伝説になって、ジグヴァンゼラも幼い頃から『正義の次男によって、分を越えた望みは身を滅ぼす』という家訓を学ばされた。
兵士は貴族に忠誠を誓い、貴族は国王に忠誠を誓う。正しきをわきまえればそれで国が成り立つと。
その裏で、殺されて焼き捨てられた者たちの怨念だと噂される不思議な現象が起きた。
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