聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第一章 復讐とカリギュラの恋

(20)焦りと殺意と誘い出し

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死神ルネに、ハビタの復讐をする

 
  その誓いは、ジグヴァンゼラの心を鉄壁の氷山の中に閉じ込めて凍らせた。復讐に目覚めたジグヴァンゼラは、顔つきも変わった。


  ルネは、ジグヴァンゼラが伽の少年を殺した日から、ジグヴァンゼラの部屋に行くことを控えた。幽霊にも怯えた。時にはザカリー伯爵の後ろ姿が見える。見慣れない者が歩いてきて、通りすぎる瞬間に消えたりする。


  少年の死体は片付けられて廊下も磨かれ、事件があったことなど幻のように拭い去られた。


  殺された少年は貧しい農民から買い上げた者で、骸はハビタと同じ森の深い洞穴に投げ落とされた。


  他者に憐れみを感じるまでには自己憐憫が強く、多くの時間を必要とするジグヴァンゼラだったが、人間性とは無関係に身体は強壮に育っていく。


  しかし、いくら待っても死神は現れない。復讐の機会を待つことに飽きて、ジグヴァンゼラは酷く苛ついた。


  冷たくなったハビタを思い出す。生きていた頃の笑顔を思い出す。死神ルネへの憎しみを、暖炉にくべたばかりの薪のようにいつまでも燃やし続ける。


  両親のことは記憶から消し去って、ルネに対する憎しみで肉体改造に向かう。


  ジグヴァンゼラはいつしか魔王カリギュラと恐れられる領主になっていた。


  ローマ皇帝カリギュラの性倒錯とジグヴァンゼラの嗜好が重なったが故の仇名だが、歴史的には善政を行い国民の支持も厚かったとされるカリギュラと違い、ジグヴァンゼラ自身は領主としての仕事に着手してはいない。


  だが、気に入らない者をルネの間者と見なして処罰するその熾烈さと、ルネの非道の行いもジグヴァンゼラに着せる濡れ衣となり、若き領主を魔王カリギュラと呼ばせる。


  噂だけで恐れられた。


  リトワールは誰にも知られずに肩を落とした。


頼みのジグヴァンゼラ様は
身体ばかり立派になって
剣も使えるようにはなったが 
いつまでもルネ討伐を決意しない
ルネの悪魔の力に対抗するには
兵士たちを総動員しなければならない
しかしその兵士たちにしても
ルネを恐れている
フランスが恋しい
死を望むこともここでは許されないのに
フランスへ帰れるものか
ルネを殺害して自決しよう
ルネの隙を窺ってチャンスがあれば
私がこの命を懸けてルネに復讐する
見事に遂げられたら……
それでもフランスには
帰れないだろう
溜め息が癖になりそうだ


  ふと、廊下の端に目をやる。食事のトレーを持った小間使いマロリーが塔への通路に消えた。


あれはマロリー
トレーを持って、塔に行くのか
毎年点検させているものの
今では使うことはないはずだ
昔は罪人を拷問したり
幽閉したと言うから
あそこにルネを誘き出せば
何とかなるかもしれないな
マロリー
塔に誰かがいるのは解っている
何があってもそのお方と
ジグゥァンゼラ様だけは
お守りせねば……
いや、マロリーの後を付けて
塔の中を確かめてみよう


  傾いた日が螺旋階段の緩く円を描く壁を巡って光を落とし、リトワールが階段を登りやすいようにと心を尽くしているかのようだ。

  マロリーは、リトワールが跡をついて来やすいように、わざとゆっくり登った。マロリーのこの行いは秘密にされなければならなかった。


リトワール様だけにお知らせするのよ

バケモノとカリギュラに知られてはならない

上手く誘導して……


「リトワール様、おいでくださいまし」


  塔の最上階が見えた時、マロリーが会釈をした。驚いたリトワールは「こほん」と小さく咳をして、残りの段を一気に駆け上がる。


「お嬢様がお待ちです」 


  小綺麗な小間使いが満面の笑顔になった。


マロリーもルネの被害者だ
ロストバージンの血と涙
シーツでくるんで
早々とルネから遠ざけた
それでも助けてはやれなかったのだから
私を恨んでいるに違いないのに……


  リトワールはばつの悪い思いで伏せ目がちになる。


「お嬢様とは……」

「ヘシャス・ジャンヌ・ロクファーレン・ザカリー様です。此の館のご令嬢でございます。リトワール様。お嬢様があなた様にお会いしたいと」

  マロリーは少し誇らしげに見えたが、畏まって身を折り曲げた。


「ヘシャス・ジャンヌ様……」 


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