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第二章 カリギュラ暗殺
(54)悪霊の目論見
しおりを挟むリトワールの声は小さな囁きになってジグヴァンゼラの脳の奥で時折起き上がった。細やかな誘いだったが、ジグヴァンゼラは死を望むようになった。
王宮の会議に出向いて活躍している跡取りは、田舎のヘシャス・ジャンヌを訪ねて母と慕い、皇族の長男とも親交を深めたと手紙に書いて寄越す。
ジグヴァンゼラが窓から飛び出すことのないように柵で塞がれた部屋に見張りが置かれ、塔の入り口は封鎖された。
サレの目には、ジグヴァンゼラはぼんやりとしてリトワールの幻を見ているように思えた。悪霊の悪賢さはルネに化けずにリトワールの姿を借りる処だ。
サレはマロリーに言った。
「マロリー、もし私が死んで、幻が現れたらどうする」
「あなたが現れてくれるのですか」
「いやいや、違うよ。私は死んだら灰になって塵に帰る。そのまま土と同化して、この世には何も残らないよ」
「じゃあ何故そんなことを聞くのですか。私のことはほったらかすのですか」
マロリーもサレも相当な年齢になって、白髪頭になっていたが、仲睦まじく暮らしてきた。
「仕方ないよ。死とは家族を引き裂く憎いものだ。しかし、旦那様はその死を望んでいらっしゃる」
「どうしてなのでしょうね。私たちもいるのに」
「リトワール様に代わる者がいないのだから仕方ない。誰にもお慰めできない」
「ねぇ、猫はどうかしら。アネットの処で子猫が生まれたみたいだから」
フランス人小間使いのアネットは、兵士のひとりと結ばれて館を出て、近くの村で暮らしている。フランスの料理や文化を広めて、アネットの村はレースと刺繍で近隣の富豪も買い求めに来る。
ネズミ退治のために飼い始めた猫が多産で貰い手を探していると聞いていた。
「猫か……良いかもしれない。旦那様は人間に関心を示さないから」
「ね。じゃあ早速行ってくる」
マロリーは明るく微笑んでサレの首に腕を回してからドアを飛び出して行く。アネットの子猫がジグヴァンゼラの生活を変えるかもしれない。
サレは年を取ってからは希になったが、近隣の村や町に出掛けて真理を伝えていた。これが他の領地であったら、教会組織の者ではないサレは捕縛されて宗教裁判を受けていたかもしれない。
悪霊は十字架に弱いとされて、どんな悪霊でも十字架を用いて戦う者からは逃げる、という教えを教会は広めていた。
サレは十字架を使わない。教会にも滅多に行かない。キリスト・イエスに信仰を抱いているが、サレは幼い頃から悪霊が見えた。どうすれば悪霊が逃げるのか、サレは自分なりに体験してわかっていた。
十字架では
逃げているように
見せかけているだけなのだ
サレは十字架で逃げたはずの悪霊はただ姿を変えて人の目を欺いていだけだったことを知っていたからだ。
死霊ではないのだ
死んだら人は塵に帰る
死んだ人の霊魂が
悪い霊になる訳ではない
元からの悪い霊が
死んだ人に化けるのだ
悪霊はサレに手を出せずにいた。サレの廻りには天使の目があった。
悪霊はサレを攻撃するために、他の人間を惑わしてサレを苦しめることにした。
「マロリーが良いか。それとも、無関係の人間からの迫害が良いか……サレ、お前は目の上のたんこぶだからな」
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