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第二章 カリギュラ暗殺
(58)日記
しおりを挟むリトワールの部屋は、元はジグヴァンゼラの両親が使っていた部屋だ。
その部屋で疲れ果てたジグヴァンゼラと母親メナリーが裸で絡まって寝ていた処に、当主のザカリー伯爵が帰って来た。ルネは、ザカリー伯爵に斬りつけて怪我を負わせてから犯して殺した。
ジグヴァンゼラは父親の葬儀中に倒れた。父親が亡くなったことも母親が亡くなったことも知らず、死神への恐怖から解かれて何年も経ってからやっと理解した。
リトワールのためにリフォームした部屋は、伯爵夫婦が住んでいた部屋とは思えないほどすっきりしながらも、何処か華やかな印象で、リトワールを失ってからも清潔を保っている。
綺麗に掃除のなされた文机の上に、一冊の製本が置かれていた。リトワールが亡くなる前のそのままにしてある。
「日記か……」
ページを捲る。
「リトの字だ。几帳面な優しい美文字だ……」
文字を追う。
○月○日
朝から機嫌の悪いヘンゼル様に、ジグヴァンゼラ様が「領主とは、自分の感情だけで走らないことだ。どちらか一方の肩を持つのではなく、公正であり、冷静であることが要求される」と仰って感銘を受けました。
ヘンゼル様は使用人の二人に対して同じように接することができず、いつもお気に入りの一人だけを贔屓して、同じ失敗に対しても扱いが違っていたのです。
その事をジグヴァンゼラ様は指摘して、冷たく当たられた使用人にもお気に入りの使用人と同じように憐れみを示せと示唆したのでした。
素晴らしいお方です。ジグヴァンゼラ様……
○月○日
今日はジグヴァンゼラ様のお手紙を代筆することになりました。
それも執事の仕事のひとつとはいえ、私の文字よりもジグヴァンゼラ様ご本人の堂々たる文字の方が通りが良いのではないかと思うのですが……
それでも私の文字を美しいと喜んでくださるので、心が溶けるような気持ちになりました。
私はジグヴァンゼラにお仕えして幸せです。
○月○日
ルネは「お前は馬鹿だ」と言う。
このお部屋は元々はジグヴァンゼラ様のご両親様がお使いになられていたお部屋。
ルネがザカリー伯爵に斬りつけて傷を負わせて乱暴に及んだと……何故、ジグヴァンゼラ様にではなく私に……
いいえ、ジグヴァンゼラ様の前には現れないようにしてほしい。決して、二度と現れないように
○月○日
ザカリー伯爵が夢に出ました。
「ルネにやられた。逆さ十字を身体に刻まれた。ジグヴァンゼラに伝えてくれ」
何故、私に……
このお部屋だからですか……いいえ、あれも悪霊の仕業。
例えザカリー伯爵のお姿でも、ジグヴァンゼラ様を惑わせるような真似はしないでもらいたいものです。
○月○日
ジグヴァンゼラ様はアントローサ公爵からの招待状で王宮に行かれます。
私にも付いて参るようにと仰せですが、私は具合が悪くてお供できません。この頃は特に、ザカリー伯爵に悩まされています。
『私の息子が実子を成すチャンスを、お前は潰した』『悔しければお前が産んでみろ』『この領地がほしいのか』
私は男として生まれ、このような人生を歩むことになりましたが、ひとつだけ後悔していることは、ジグヴァンゼラ様にご家庭を持たせることができなかったこと、私自身が邪魔になっていたこと……その事を後悔して、もう残り少ない人生なのに、それだけが悩みです。
今になって、ルネが笑うのです。
『お前も俺と同じだ。ジギーの人生を歪めた点では同じだ』
私はなんという過ちを犯したのでしょう。愛しているのに……
ジグヴァンゼラは日記を手にとって胸に抱いた。いつの間にか子猫は文机の上を歩いている。
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