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第二章 カリギュラ暗殺
(59)祭る
しおりを挟む日々の出来事を短く綴った日記にはジグヴァンゼラとこの館への想いが籠められていた。熱くなる胸を抑えられない。
ジグヴァンゼラは暫く日記を抱き締めてから、元の文机に置いた。
此処にはリトワールの思い出がある。此処でリトワールは独り、悪霊に苛まれていたのか……
何故、話してくれなかった。私を悩ませまいとしたのだな。年上の女房とはそういうものなのだろうか……それとも、リトワールだからか……
ジグヴァンゼラは大量の花を刈り取って来させた。
リトワールの部屋を飾るのだ。リトワールに相応しく、優しく華麗に。何も煩うことはない。リトワール、何処にいる。出てこい。喜ばせてやろう、リトワール。
ジグヴァンゼラが使用人に大量の花を刈り取らせた話は、離れに住んでいるサレの耳にも入った。
サレ夫婦は嵐で土台だけになっていた納屋を改造して台所をつくり、そこで息子たちを産み育てた。ジグヴァンゼラの館の厨房はサレの後釜になる息子たちが仕切り、サレは専らソース作りに励んで、マロリーも館の使用人として働いている。
「あなた、急におかしいでしょう。旦那様がリトワール様のお部屋を飾り始めたの。館中の花瓶を集めて花だらけよ。1日中、リトワール様のことを懐かしんでおられるみたい」
「どうしたんだろう。もしかしたら祭壇みたいなものがあるか」
「祭壇はないけれど、机ならあるわよ。夕方からキャンドルを立てているわ」
「キャンドルを。それは暗いからだろう」
「幾つものキャンドルを立てて聖堂みたいにしているわよ」
「祭りが近いからではないのか。討伐祭りが」
ルネ討伐の日を祭りにして、ジグヴァンゼラの領地では祝日祭典「討伐祭り」が行われる。まだ十代だったジグヴァンゼラの身に及んだあの悲しい事件だ。
悪霊の目論見通りに、リトワールを用いてジグヴァンゼラを偶像崇拝に傾けるための準備は整った。
後は、悪霊がリトワールの姿を借りて光輝く天使のように現れれば、ジグヴァンゼラは泣いて喜び、リトワールを守護神と崇め、真の神から遠ざかる。
人間を神から遠ざける。それが悪霊の目的だ。
悪霊は花で飾られた美しい部屋を両手を広げ歩き廻った。
私を崇めろ、ジグヴァンゼラ。リトワールの祭りを行え。ルネの討伐祭りは失敗したが、リトワールでは成功させよう。ルネ討伐が神に感謝する祭りになったのは心外だからな。今度こそはリトワールを崇めさせ、私を崇拝させようではないか。わははは……リトワールは天使だ。ジグヴァンゼラ、お前の擁護神だ。お前はリトワールを懐かしみ愛でて天の神に弓を引く。わははは……領主のお前が天の神に弓を引くのだ。
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