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第二章 カリギュラ暗殺
(67)裏切るつもりはないのに
しおりを挟むジグヴァンゼラのベッドでたっぷり眠って、起きたら朝になっていた。
アントワーヌはジグヴァンゼラの白いものの混じった灰色の髪の毛を撫でた。皺を刻んだ皮膚に囲まれたオニキスの強い目は、瞼を開けているときはアントワーヌに柔らかい眼差しを向ける。
なぜ、こんなに好きなんだろう
ううん、はっきりしている
領主の権力と贅沢な暮らし
ジギーの情人は私一人だから
愛情を傾けられて
私も助けられた感謝の気持ちから
ジギーを好きだと思っている
ダレンが領主ならダレンに従う
そんなもの
もしも私よりも
リトワール様に良く似た者が現れて
ジギーに近づいたら……
考えないでいよう
ジギーには誰も近づけるなと
みんなに言っておこう
この生活を守る為だもの
ジグヴァンゼラの眉毛が動く。堀の深い眼窩を覆う青い瞼がすっと開いた。瞬いて、黒い瞳の焦点がアントワーヌを捉える。
「起きた。おはよう、ジギー」
「おはよう、リト」
ジグヴァンゼラの口からウイスキーに似た酔わせるような花の香りがする。
ねえ……
どうしてアントワーヌと
呼んでくれないの……
聞くのが怖い……
アントワーヌは切ない気持ちになった。
本気でこの年寄りを好きだと思う。
ううん、本気じゃない
贅沢な暮らしが好き
自由にさせてくれるから好き
汗水垂らして働いても
虐待される暮らしは真っ平
ジギーは助けてくれた恩人だから
大好き
キスも好き
その目も、鼻も口も……
ジギー……
いつか、リトワールじゃなくて
アントワーヌって呼んで……
アントワーヌは微笑みながらジグヴァンゼラに絡み付く。泣きたいような気分だった。
その日の午後、ダレンを伴って散歩に出掛けた。今日はダレンと肌を合わせるつもりはない。ジグヴァンゼラと濃厚な夜の営みに溺れるように過ごして深い眠りに落ちた。
目覚めても、ジグヴァンゼラは元気だった。長いこと立たなかったものが復活して、アントワーヌはすっかり満足しきってダレンに身を任せる気にはなれない。
馬車の中で唇を求めてくるダレンに顔を反らして「今日は駄目。その気になれない」と断る。
「どうしたのですか、アントワーヌ様。私は何かへまをやらかしましたか」
ダレンは慎ましく尋ねる。
「ううん。ダレンのせいじゃないの。今日はちょっと疲れて」
ダレンの眉が眉間に寄る。
嘘だ
疲れているなんて
美しく輝く肌に
疲れの色など微塵もない
何かあったのだろうか
ご領主様に気づかれたか……
「ダレン、いつもの道ではないね」
「夏の別荘に行ってみましょう。素敵な処のようですから、きっと気に入りますよ」
「ふふ、楽しみ」
「旦那様が昔お使いになっていた別荘で、今は蜘蛛だらけで大変だろうと執事長に言って、管理のために鍵を預かったのです。あなたと過ごしたくて……」
「ダレン……」
ついダレンに肩を抱かれて唇を許してしまう。
ダレンはアントワーヌの手を自分の一物の上に当てた。固くなって雄叫びをあげそうになっている。
「ふふ、悪い子……」
「あなたのせいです、アントワーヌ様」
アントワーヌ様って
呼んでくれるのよね
ダレンは
リトじゃなくて
アントワーヌって……
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