聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
79 / 128
第二章 カリギュラ暗殺

(77)誰が何と言っても

しおりを挟む


サレの小屋では息子たちも独立して嫁を貰い、長男も次男もジグヴァンゼラの厨房で働いている。サレの能力は息子たちに受け継がれて多様なメニューを生み出していたし、孫たちも既に玉ねぎやじゃがいもの皮を剥くくらいはする。

ふたりだけになって広々と暮らすのも、何処か落ち着かない。

サレは特に、昨日の告げ口を後悔して、身の置き所の無いような気分でカサカサと動き回った。


マロリーを守る為だったのだ
無論、マロリーは無実だ

根も葉もない噂をたてて陥れたって
無実は無実だ

信じる者が私ひとりになっても
無実は無実だ

世界中が噂を鵜呑みにしても
噂は噂

噂を本当にしようとしたって 
噂は噂なのだ

神様も
同じ攻撃に遇っていらっしゃる

悪いことをすれば処罰を下すという 
噂を振り撒かれて
大勢の人間が信じている

神からの処罰だと嘯いて
人間を苦しめるのは
悪霊側の仕業だ

神様は人間の一生をご覧になる

最後まで忍耐してご覧になる

転じて悪霊は
いない者のように自分を隠し
或いは死んだ者に化けてでも
人間を攻撃して
神様に濡れ衣を着せる卑怯な奴だ

私が見たリトワール様も 
悪霊が化けた姿だ

昔、死んだはずのルネ様が現れた
セネラ様を見たと言う兵士も大勢いた

あれは悪霊が死人に化けて 
人間に死後の魂を
信じさせようとしているのだ

死んだ人間を……
生前に立派だった人間を
崇拝させようとして
化けることもある
或いは幽霊を供養させようと

ジグヴァンゼラ様は
リトワール様に招かれて
飛び降りる処だった

悪霊が旦那様を
飛び降りさせようとした魂胆は
領地の民に
ご領主様ジグヴァンゼラ様を
崇めさせるつもりだったのだろう

それに失敗して悪霊は
リトワール様の祭りを
行うようにさせた
領地の民は祭りを疑わず
喜んでいる

悪霊は
リトワール様の祭りでも失敗した

リトワール様を
崇めさせる祭りにはならなかったからだ

ただ、ジグヴァンゼラ様は
リトワール様を記念して行ったのだが……

そして、魔性のアントワーヌが
ジグヴァンゼラ様を虜にして
領地の民はアントワーヌを崇めている

私は、女房マロリーを
ふしだら女のような
噂を流されるのを恐れて
ダレンを売った

確証もなしに
マロリーを助けたい一心で
噂をでっち上げて讒言を弄した

ああ、マロリー
私の愛する妻

守りたかったのだ

誰が何と言っても
お前は無実だから

しかし
ダレンとアントワーヌのことは
どうなったのか

一睡もできなかった

もう、夜が明ける

朝食を持って
別荘に行こうか


サレは隣で寝ているマロリーのナイトキャップのずれを直そうとして驚いた。

金髪の長い髪のルネが、覆い被さって嗤う。


「サレ、お前も、私と関係しなかった人間だ。ヘシャス・ジャンヌとお前のふたりは、私の心残りだ」

「心残り……何を企んでいるのだ」

「サレ、あなた……どうしたの」


マロリーがサレの頬に手を添えて凝視している。


「マ、マロリー」

「魘されていたわよ」

「マロリー。君は私には過ぎた女房だ。何処へも行かないでくれ。誰に何を言われても、私と添い遂げるんだ」


サレはマロリーの頭を胸に抱いた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...