聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第二章 カリギュラ暗殺

(78)時計草の花言葉

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執事長シアノは悪霊の言葉を思い出した。

『領主は法律だ。ジグヴァンゼラが望めば……』

領地の裁き主ジグヴァンゼラ様
裁判所の上に立ち
民にとっては神とも崇める領主
強く正しい領主である
あなたがいてこその平和
私はそのご領主様にお仕えする
光栄にあずかっている
それなのに、この有り様は……
縛られてダレンの慰み者にされた
私のやりきれない感情は……

『ふふふ……わはははは。……既にジグヴァンゼラは自ら網に掛かっておるわ。過去にジグヴァンゼラ自身が据えた罠だ。お前はジグヴァンゼラに付くか、それとも正義の為に私に付くか、良く考えろ』

正義……
正義とは、誰の正義ですか……
何処の領地でもこの国では領主が正義
領主の採決を曲げることは許されません

ダレンの寝顔が近い。息ができないほどのキスの猛襲を受けても、身体中を愛撫されても、何度犯されても、例え少しの快感を開発されても、人としての尊厳を踏みにじられたことに対する怒りと悲しみは消えない。

『ジグヴァンゼラはカリギュラと呼ばれているのだが……』

カリギュラ……
皇帝カリギュラ……
残忍な性倒錯の皇帝……
カリギュラ……
カリギュラは
私の為の復讐を
行ってくれるだろうか……
このダレンという
忌まわしい若者に


サレの長男メンデの息子と次男モーナスの息子は、双子と間違われるほど似ている。

頭の毛はサレと同じで、目鼻立ちが特殊な作りで、猫のように鼻の付け根が広く目が離れている。目の回りを濃く長い睫毛がびっしり囲んで、目の光彩は薄いが左右の色が異なり、妖精の顔とよばれていた。

メンデとモーナスには悩みがあった。ふたりで相談してサレに打ち明けようと決めた。

朝早くから厨房に出て、館の住人と兵士の分の料理を作る。昼食後の空いた時間に昼寝をするのだが、その時間にふたりでサレの小屋を訪ねた。

戸口が開いている。

「親父……いるかい」

開け放した窓から射し込む光の向こうの暗がりに、見慣れない若い男がいた。

体格はモーナスに似て背が高く緩く曲がる長い金髪も同じだが、何処か領主ジグヴァンゼラを思わせる顔つき。ジグヴァンゼラの銀灰色の髪の毛を金髪に変えて顔から年輪を消せば、この顔になると思えた。

「失礼ですが、どちら様ですか」

メンデが尋ねる。

「先ほど、街から到着したばかりの者だが、訳があって今は名乗れないのだ。ここは二十数年ぶりだが、マロリーは元気にしているかな」

モーナスは震えた。手も唇も震えている。

「あ、あなた様は母とどんな関係ですか」

あなたが俺の父親かと、モーナスは歯噛みした。メンデとモーナスの悩みは、ふたりが全く似ていない兄弟なのに、其々の息子が双子のように瓜二つに育っていることだ。左右違うオッドアイも同じ色なのだ。

メンデとモーナスは「俺は決してお前の女房とは関係していない」と身の潔白を主張しあった。ふたりの女房も身の潔白を主張している。

しかし、兄弟でも全く似ていないのに、ふたりに生まれた子供は、従兄弟同士で双子と見間違うほどにそっくりの妖精顔なのだ。

「返答に困るな……君は、背が高いね。私と同じ髪の色……マロリーは何も話していないのか」

「何を、何を聞けばいいと」

金髪の男は光の中に進み出てモーナスの横をすっと通り過ぎ、戸口を出た。背の高さといい髪の色といい、後ろ姿だけなら双子のようによく似ている。メンデは驚きを隠せない。モーナスは俯いてぶるぶる震えた。

「あ、兄貴……兄貴。兄さん……あいつは、あいつは母さんとどんな知り合いだと言うのだろうか……俺は、俺は」

「待て、確かめてくる。聞いてくるから」

メンデは戸口に駆け寄ったが、辺りに黒いマントの男は見当たらなかった。

「兄さん、俺は……」

「モーナス、慌てるな。親父がよく言うではないか。悪霊に騙されるなと」

「あれが、あれが悪霊に見えたか」

「いや、わからない。あの方は……きっとご領主様のお血筋だ。顔はお前よりも旦那様に似ていた。背格好だって……」

影に潜む悪霊は、ルネは確かにジグヴァンゼラの血筋だが、次はもう少しモーナスの顔に似せて出る算段があるのさとほくそえむ。

サレはジグヴァンゼラの寝室にいた。

アントワーヌの具合が悪い。身体の消耗も激しい。鞭の痕が顔を二目と見られないほどに変えて、泣き濡れていた。

サレは丘まで行って白薔薇と時計草を摘んで来た。ジグヴァンゼラの寝室で時計草を摺り潰し、柔らかい布で湿布を作ってアントワーヌに包帯を巻く。

時計草は花びらが大きな目玉を囲んでいるような形をして、鎮痛剤や神経を鎮める薬として効く。

サレは教会には通わないが「信仰」とか「聖なる愛」などの神に纏わる花言葉が気に入っている。

アントワーヌは草臥れ果てて深く眠っていたが、時折、痙攣を起こした。意味不明の叫びを上げるのだが体力の限界に達していたのか非力な暴れかたで、長くは続かずに、思い出したように抗う。

清涼感漂う白薔薇の香りも、役には立たなかった。

サレはアントワーヌに掛かりきりで、薬を塗ったり包帯を巻いたりする為に午前中を費やした。

ジグヴァンゼラはサレに「後は任せた」と言って部屋を出た。

「ジ、ジ、シギー……や、や、めて……あ、あ」

アントワーヌはうなされて夢精して目覚め、ぐったりと泥のように意識を失った。






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