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第二章 カリギュラ暗殺
(79)面影
しおりを挟むアントワーヌが眠ってから、サレは小屋に戻った。扉が開いている。
「マロリー。マロリーかい」
妻の名前を呼んでみた。
「お祖父ちゃん、しいいっ……」
孫のひとりが戸棚の影から顔を出す。唇に人差し指を当てて妖精のように笑っている。いつもの隠れんぼなのだと合点して、サレは笑った。
「ガレが鬼なのだな」
「違うよ。僕がガレだよ」
「お、そうか、済まんな。よく似ているから間違えた」
サレの背後から子供の声がした。
「みんなが間違えるから、リボンをおくれよ。ガレは青が好きで僕が黄色だよ」
「おお、それなら間違えようがないな。町で買ってやろう」
「「お祖父ちゃん、有り難う」」
二人で抱きついてくる。
「ははは、可愛い孫達の為だもの。お前たちはマロリーに似ている。私の父にも似ているぞ。面影がある」
笑った途端、胸に疲れを感じた。
ジグヴァンゼラは裸馬に跨がって別荘に戻った。シアノが戻って来ないのは、何かがあったのだろう。自分の目で確かめなければならない。
夏の別荘と名付けた訳ではないが、そのように呼ばれる別荘が、少し傾いた午後の光の中で白く佇んでいる。
馬から下りる。シアノが乗ってきた屋形付きの馬車の馬を二頭、馬車の軛から解いて轡を外すと、二頭は近場で草を食んでから座り込む。それを眺めて、ジグヴァンゼラは別荘を振り返った。
「ダレン、不浄に行かせてくれないか」
「シアノ様、逃げ出すのではありませんよね」
「ダレン、旦那様には何と言うつもりだ」
「シアノ様に誘惑されたと……」
ピシリと鞭が飛んだ。ジグヴァンゼラが怒りに燃えて睨み付けている。
ダレンの背中に赤い筋が浮く。
「ああ、旦那様……」
ジグヴァンゼラは音をたてずにベッドに近づいてダレンの言い訳を聞いたのだ。
「私を騙すつもりだったのだな」
「は、はは。聞かれてしまったのなら騙しようがありません。旦那様、私とシアノ様はもう……」
ピシリと再びダレンに鞭が飛んだ。
「あうう……旦那様……」
「違います。私は違う。ダレンに復讐してください、旦那様。私の縄を解いてください」
「旦那様……ダレンは今でも旦那様のものです」
ジグヴァンゼラはシアノの乱れた衣服を掴んで引っ張った。下半身はすっかり脱がされていたが、後ろ手に縛られた手のせいで上着はかろうじて二の腕の辺りからぶら下がっている。
「シアノ様とはほんの出来心です。旦那様……」
縄をほどくと、シアノはよろけながら感謝を示して衣服を着直す。余程消耗したのか、手間取りながらも何とか見られる執事の形を取り戻した。
「旦那様、よくぞ戻ってこられました。ううっ」
「旦那様、ダレンは旦那様を……」
ダレンは鞭打たれた快感に浸って涙目をジグヴァンゼラに向け、シーツを剥いで尻を突き出す。両手で尻の肉を広げ、ピンク色の襞の奥まで見せた。
「愚か者っ」
ジグヴァンゼラの鞭が三度続けてダレンを打つ。容赦のない厳しい鞭だ。ひとつは尻に、ひとつは腕と背中に、ひとつは後頭部を直撃した。
「あああ……」
ダレンの身体が硬直する。ダレンは片手で自身のものをしごき始めたが、再び二度、三度とジグヴァンゼラの鞭を受けてぶるぶる震え、突っ張って果てた。
ダレンは泡を吹いていた。白目を剥き、舌が長く突き出ている。
「死んだか」
「だ、旦那様……」
「お前は館に戻って綺麗にしろ。それから使用人を何名か寄越せ。お前自身のこととはいえ他言無用だ。ダレンは……この死に様については……」
「わかりました。口の硬い者を選びます。感謝します、旦那様」
ふと、シアノの端正な横顔と仕草にリトワールの面影が重なる。
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