聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
81 / 128
第二章 カリギュラ暗殺

(79)面影

しおりを挟む


アントワーヌが眠ってから、サレは小屋に戻った。扉が開いている。

「マロリー。マロリーかい」

妻の名前を呼んでみた。

「お祖父ちゃん、しいいっ……」

孫のひとりが戸棚の影から顔を出す。唇に人差し指を当てて妖精のように笑っている。いつもの隠れんぼなのだと合点して、サレは笑った。

「ガレが鬼なのだな」

「違うよ。僕がガレだよ」

「お、そうか、済まんな。よく似ているから間違えた」

サレの背後から子供の声がした。

「みんなが間違えるから、リボンをおくれよ。ガレは青が好きで僕が黄色だよ」

「おお、それなら間違えようがないな。町で買ってやろう」

「「お祖父ちゃん、有り難う」」

二人で抱きついてくる。

「ははは、可愛い孫達の為だもの。お前たちはマロリーに似ている。私の父にも似ているぞ。面影がある」

笑った途端、胸に疲れを感じた。


ジグヴァンゼラは裸馬に跨がって別荘に戻った。シアノが戻って来ないのは、何かがあったのだろう。自分の目で確かめなければならない。

夏の別荘と名付けた訳ではないが、そのように呼ばれる別荘が、少し傾いた午後の光の中で白く佇んでいる。

馬から下りる。シアノが乗ってきた屋形付きの馬車の馬を二頭、馬車のくびきから解いて轡を外すと、二頭は近場で草を食んでから座り込む。それを眺めて、ジグヴァンゼラは別荘を振り返った。

「ダレン、不浄に行かせてくれないか」

「シアノ様、逃げ出すのではありませんよね」

「ダレン、旦那様には何と言うつもりだ」

「シアノ様に誘惑されたと……」

ピシリと鞭が飛んだ。ジグヴァンゼラが怒りに燃えて睨み付けている。

ダレンの背中に赤い筋が浮く。

「ああ、旦那様……」

ジグヴァンゼラは音をたてずにベッドに近づいてダレンの言い訳を聞いたのだ。

「私を騙すつもりだったのだな」

「は、はは。聞かれてしまったのなら騙しようがありません。旦那様、私とシアノ様はもう……」

ピシリと再びダレンに鞭が飛んだ。

「あうう……旦那様……」

「違います。私は違う。ダレンに復讐してください、旦那様。私の縄を解いてください」

「旦那様……ダレンは今でも旦那様のものです」

ジグヴァンゼラはシアノの乱れた衣服を掴んで引っ張った。下半身はすっかり脱がされていたが、後ろ手に縛られた手のせいで上着はかろうじて二の腕の辺りからぶら下がっている。

「シアノ様とはほんの出来心です。旦那様……」

  縄をほどくと、シアノはよろけながら感謝を示して衣服を着直す。余程消耗したのか、手間取りながらも何とか見られる執事の形を取り戻した。

「旦那様、よくぞ戻ってこられました。ううっ」

「旦那様、ダレンは旦那様を……」

ダレンは鞭打たれた快感に浸って涙目をジグヴァンゼラに向け、シーツを剥いで尻を突き出す。両手で尻の肉を広げ、ピンク色のひだの奥まで見せた。

「愚か者っ」

ジグヴァンゼラの鞭が三度続けてダレンを打つ。容赦のない厳しい鞭だ。ひとつは尻に、ひとつは腕と背中に、ひとつは後頭部を直撃した。

「あああ……」

ダレンの身体が硬直する。ダレンは片手で自身のものをしごき始めたが、再び二度、三度とジグヴァンゼラの鞭を受けてぶるぶる震え、突っ張って果てた。

ダレンは泡を吹いていた。白目を剥き、舌が長く突き出ている。

「死んだか」

「だ、旦那様……」

「お前は館に戻って綺麗にしろ。それから使用人を何名か寄越せ。お前自身のこととはいえ他言無用だ。ダレンは……この死に様については……」

「わかりました。口の硬い者を選びます。感謝します、旦那様」

ふと、シアノの端正な横顔と仕草にリトワールの面影が重なる。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。 先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...