聖書サスペンス・領主殺害

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

文字の大きさ
82 / 128
第二章 カリギュラ暗殺

(80)悪霊のくびき

しおりを挟む


館に戻ってアントワーヌの様子を確認した。ぐっすり眠っている。醒めた目で見ると、アントワーヌは年端もいかない少年だった。その少年にリトワールの少年時代を重ねて慈しんでいるつもりだった。それが、ルネの粉薬を使ってから悪霊のくびきを嵌められた者のように、残忍な行為に走ってしまった。

哀れに思う
アントワーヌが何をしたと言っても
まだ子供だったのだ
私の少年時代は
ルネによって黒く塗り潰された
何も知らない
田舎暮らしの無学な少年だった私は
あの苦しみの中で
出口のない復讐心に燃えて
剣を取った
アントワーヌも
心を持っているひとりの人間だ
少年だった私と
少年リトワールと
少年アントワーヌ……
みんな、ひとりの人間だ
私はリトワールを愛して
手に入れて失った
アントワーヌではない
リトワールを愛して
アントワーヌを身代わりにした
私はリトワールを愛している
アントワーヌではない
リトワールを求めている
アントワーヌ……
済まない
お前ではない




「可愛いお孫さんだ」

ルネの形で現れた悪霊がサレに笑いかけた。

「まだいたか。悪霊め」

「これはこれは、愛想のない」

「出ていけ」

「まあ、そう言わずに。お前さんの目論見は潰れたのでね。マロリーを守ることにはならなかったのだよ、サレ。ふっふっふ」

初めから予測していたかのように嗤う。

「何故だ。ダレンはどうなったのだ」

「お前の愛するご領主様は大層激怒して、ふふふ。私も止めることは出来なかった。ダレンはご領主様の愛情を求めて殺されたのだ」

「こ、殺されたっ」

「ふふ、ダレンは死んだ。ジグヴァンゼラは気に入らない者に愛欲を向けられると憎悪するらしい。いとも簡単に殺してしまった。執事長が誰かを連れて死体を片付けに行くところだよ」

「まさか……ああ、神のみ名において……天の」

「サレ。お前の孫は可愛い。今日はお前の息子たちと会った」

「む、息子たちと何を話した」

「何も」

「嘘だ。お前が何もせずに済ませるとは」

「ふふふ、サレ。神のくびきは軽いらしいな。しかし、私の軛は価値の高い、魅力的なものだとわかるだろう」

サレは絶句した。言葉が出ない。サレは神の名前を叫ぶべきだった。悪霊は嗤う。

「サレ。今更、私の軍門に下れとは言わないが、お前も観念したらどうだ。守りたい相手が多すぎる。減らすか、サレ。過ぎるのは問題だろう」

「余計な。何も過ぎることなどない。神の祝福を損なおうとするな」

「神の祝福……ふわははは。サレ、私はお前がほしくなった。どんな手を使ってでも落としてみせる。お前は大きな傷を愛する者に負わせることになるぞ。それでも良いのだな」

「良い訳がない。私は神に頼る。お前と対抗し続ける為に、私の愛する者たちを守ってもらう」

「信仰のない者たちを神が守るとでも……ふわははは。サレ、お前の敗けだ」

「違う。たばかるな。神の憐れみは今だけを見るのではない。神は人の一生を通して見られる。裁くのは最後だ。お前のような悪辣非道な仕方は、神に濡れ衣を着せるものだ。悪霊、退散しろっ。お前と話すことは何もない」

「果たしてそうかな。いずれお前の方から私を呼び求めるだろう。覚えておくが良い。私のくびきは価値の高い魅力的なものだと。そして、ただで手に入る。お前なら分かるな、サレ。私に身を屈めるだけで良いのだ。ふわははは」

「嘘をつけ。悪魔の軛は全身全霊を損なうものだ。そんな犠牲を払うのは愚か者だけだ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...