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第三章 純愛と天使と悪霊
(92)水車小屋のレネッティ
しおりを挟む水車小屋の中は麦を挽く為の容器が外されて、古い布袋が何枚も散らばっていた。見ると、壁際に麦粉を並べる為の台がある。
レネッティは台の上にリネンのシーツを広げて横になった。少しばかり仮眠を取るつもりでシーツを抱えて早めに来たのだ。
小屋の中は暗くてひんやり涼しい。水車の回るガッタンゴットンという音に和して水の弾ぜ流れ落ちる音が聞こえる。レネッティは、近くの森に伝わる昔話を思い出した。
町から逃げてきた犯罪者Aが森の中で弱っている若い貴族に出会った。Aは貴族を襲って手込めにした後、木に縛り付けて、貴族の衣服を着て食料を調達した。
貴族はその食料をひとくちも食べなかった。Aは、貧しい身分だったから貴族を手放す気持ちにはなれず、何とかして食べさせようと努力した。脅してもみた。
しかし、貴族は飢えて死んでしまった。Aは貴族の屍を洞穴に投げ捨てて国境を越えようとした。
ところが、どうしたわけか行く先々で死んだはずの貴族の姿を垣間見るようになり、不安に押し潰されそうになった頃、貴族の声を聞いた。
「あなたが私にしたことをあなたもされるのだ」
Aは恐ろしさのあまり裁き人を訪ねた。罪状を伝えて牢屋で保護してもらうつもりだったが、裁き人の姿も死んだ貴族に見えた。
Aは裁き人に掴みかかり取り押さえられた。Aは大声で「あの時はどうにかしていた。あんたが綺麗だったものだから、女の代わりにしたのだ。あんただって望んでいたんだろう」と叫んだ。
Aは処刑された。
相手が望んでもいないことを望んでいるかのように思い込むからそうなるのだと、レネッティは溜め息を吐く。
僕だって、勘違いとか無理矢理なんて嫌だ。いくらモーナスさんでもね……
悪霊には人間の心は読めない。優れた洞察力とアイドの歴史に関わってきたデータを合わせてパターンから判断する。その的中率は高い。
悪霊ベルエーロは、今日の訪問客にある思いを抱いていた。
訪問客は二人。そのうちのひとりは前国王ヨハネセンの先妻側に付いて、ジグヴァンゼラの手先に毒殺された官僚貴族の息子ノエビアだった。そしてもうひとりは若い高級娼婦。
駄目元で挑むつもりの、企みとも言えないようなふしだらなことをヴェルナールに試みるつもりの二人だ。
「水車小屋で水遊びをするのが好きなのだそうだ。相手は裸なのだから、迫れば面白いことになるかもしれないぞ。お前は水車小屋で、裸になって待つのだ。私は川に入る。川でヴェルナールに迫って、もしヴェルナールが私に靡いたら、お前の出番はない」
官僚貴族の息子ノエビアは、二十歳を少し過ぎたばかりの若さで父親を亡くし、官僚になれずに生活は父親の残した財産を食い潰して困窮していた。
「ふふ、私、下着を履いていませんの。あなたは後ろから私は前から」
「それは良い考えだ。それならヴェルナールを虜にできるぞ。そうすれば私たちは共に愛人としてここで暮らせる」
この二人の杜撰な試みを成功させる為には、レネッティが邪魔になる。
それでも、悪霊ベルエーロは人間が自主的に行う悪巧みを、いつものように楽しむことにした。悪霊としては、レネッテイでなくても良いのだ。
すっかり日が暮れて、レネッティは目を覚ました。ガッタンゴットンと水を弾く音が大きく聞こえる。
レネッティは着ているものを急いで脱いだ。裸になって外に出る。川に入ると、腰までの嵩があった。流れに逆らって泳ぐ。一糸纏わぬ姿でぷかりと浮いて身体を冷やし、夜空を見上げる。星雲が横たわり、幾つもの星が瞬いていた。
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