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第三章 純愛と天使と悪霊
(96)悪霊の笑い
しおりを挟む月が斜めに上がって、シアノの五十絡みの白い皮膚から皺を消す。月明かりに青く照らされた世界は幻想的で、ダネイロは騎士のように片膝を地に付けた。
若くして国境警備兵になったダネイロは、あのアントワーヌに似た見目麗しさが兵士たちの気を惹いて、煩わしい関心の中にいた。
ザカリー領は、一時期とはいえ衆道の噂が広まって、他所の貴族が手を伸ばしてくることもあり、男妾として引かされた兵士も幾人かはいたと聞く。
『ダネイロ、お前もお手付きになれるぞ』などとからかわれた。
ダネイロは、兵舎の中にあってみなと同じようにエロ話に笑いながら、いつしかシアノに目を奪われるようになった。
誰でも誰かと何らかの繋がりがあるものだ。シアノにはそれが一切無い。
遠ざかる馬上の領主よりも、ダネイロはシアノに対し服する精神を示した。
兵舎に戻ってからも、ダネイロはシアノの横顔を思い浮かべた。
俺は、あの人をどう思っているのか。抱きたいのか、抱かれたいのか、一体どっちなのかわからない。どっちでもなく、気になるだけだ。きっと、性的なことではない。多分……
可笑しな話だが、女などいらない。俺は健康的な男なのに、町に出ても女に興味が持てない
だからと言って、男にも関心はない。性的な冗談なら笑って済ませる。
ただ、あの人は……シアノさんだけは何と言えば良いのか……
ダネイロについて来た悪霊ベルエーロは、ダネイロの傍らに寝そべって片手で頬杖を付いてダネイロを眺めた。
シアノは性的不能者だぞ、ダネイロ。お前は、性的不能者が好きなのか。
憧れか……この兵舎にはいないタイプのシアノが珍しいだけなのではないのか。
思えばお前は誰ともまだ……ああ、童貞だったな。珍しい。
レネッティと同じか。レネッティはやがて十七才だが、お前は既に二十歳を過ぎた。その顔で、衆道に染まらずに、お前はやはり向こう側か。早めに潰しておくべきだったか。
悪霊は寝そべってつまらなそうな顔をした。ごろんと寝返って足を組む。
いや、これからが使い時だ。お前が自分自身に気づかないうちに
シアノと関係を持たせてやろう。それこそあのイヤミな天使どもの嫌がる道だ。ふふふ……
悪霊ベルエーロは再び腹を地面に寝返りをうち、ダネイロの足に両手を伸ばす。ダネイロは何の影響も感じずに立ち上がった。
楽しみに待っておれ、ダネイロ。お前が服したあの男の化けの皮を剥がさせてやろう。お前たち二人を闇のなかに突き落としてやろう。それは甘美な闇だ。お前はまだそれを知らない。お前たちはそれぞれ奪いあい、いつか、殺し合う……
悪霊ベルエーロは足をばたつかせながら笑った。
わははははは……
あははははは……
ごろごろと転がるうちに身体が宙に浮く。
わはははは
あはははは
宙に浮かんで、立ち去るダネイロを眺めた。悪霊の片腕が夜空に伸びる。
天の父神よ、楽しみにご覧あれ。あなたの造り賜いしアイドの愚かな様を。悲しい性を。
ふふふ……シアノとダネイロも
あなたに縛られている訳ではない。
アイドとは己がどうあるべきか、自由に選択して表現する生き物。
果たしてあなたの正しさを写し出すことができましょうか。
この私でさえ、あなたから離れた処の自由をこのように楽しんでいるのに。ふわはははは
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