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第三章 純愛と天使と悪霊
(97)悪霊の支配
しおりを挟むモーナスは上着を脱いで震えるレネッティを膝に乗せた。レネッティが持参したシーツを二人で被る。互いの体温の相乗効果でレネッティの震えはおさまってきた。寝息も聞こえた。
あの悪霊は『マロリーは元気か』と訊いた
まるで私の母親が
不貞を働いたかのような印象を
私に与えようとしたのだ
親父から聞いた話では
悪霊は人間を支配したがっている
ということだ
人間を落胆させれば
人間は神よりも
闇の力を頼るようになるからだと
悪霊は私を落胆させて
闇の力を頼るようにさせたかったのか
私を支配する為に
私を支配してどうするのだ
私は一介の料理人で他の何者でもない
私は料理人サレの息子
何をさせるつもりだったのか……
館の蝋燭の灯りに迎えられたダネイロ一行は、ヴェルナールの部屋に案内された。シーツでくるんだヴェルナールをベッドに横たえる。
「では、私はこれで」
シーツから腕が伸びてズボンからはみ出たダネイロの上着を掴む。手が震えている。
「レネ……」
ダネイロの顔色が変わる。
レネとはレネッティのことか……
ヴェルナールは目を閉じたまま「友達だよね、僕たち」と言う。唇は紫色になっている。
「私は友達ではありません。あなたにお仕えする一兵士です」
ヴェルナールは「兵士……」と復唱して目を開いた。ぼんやり黒髪の若い男が見える。
シアノがワイングラスにほんの少しのワインを注ぐ。それをヴェルナールに飲ませるようにとダネイロに手渡した。
ダネイロはヴェルナールの上半身を起こし、ワイングラスを口に近づける。ザカリアン・ローゼの芳醇な香りがする。ひとくち含んで香りに酔い、生きている実感が臓腑に染みるのを感じた。
シアノは「少しずつお願いいたします」と言ってワインボトルをサイドテーブルに置き、キッチンへ向かう。夕べのスープでもあれば良いが、何もなくてもミルクを温めようと思ったのだった。
シアノの蝋燭がキッチンの竈を照らした時だった。竈を覗き込むような男の姿が見えた。見覚えのない背中。
「誰だ」
男の白いシャツに赤い線が浮かぶ。そのシャツと肉が切り裂かれ血が広がった。だらだらと流れ落ちてシアノの戦慄を他所に真っ赤に染まってゆく。
「だ、大丈夫か。誰か、誰か居らぬか」
男は竈から頭を出すと立ち上がって、シアノの目の前で消えた。
「は……」
危うく燭台を落とすところだ。シアノはキョロキョロと辺りを見た。心臓が早鐘を打つ。燭台を調理台に置いた。背後で、黒いマントの金髪頭が翼を広げるようにシアノに両手を広げる。ルネの形を取った悪霊だ。
「シアノ……」
振り向いて「あっ」と驚くシアノだが、子供を抱くように金髪のルネはにっこり笑った。
「ヴェルナールは死ぬ。ワインでも温かなスープでも無理だ。私が憑殺す。ふふふ」
シアノを掻き抱くように迫った悪霊はそのまま消えた。と、殆ど同時に、灰色銀髪の白いシーツを巻いた年寄りが見えた。眼光の鋭い有りし日の領主ジグヴァンゼラだ。
「だ、旦那様……ジ、ジグヴァンゼラ様……」
生前は名前を口に出すことすら憚られたほどの高貴な主だった。シアノは駆け寄って片膝を付く。
「旦那様……ううう……」
涙でジグヴァンゼラの顔が滲む。シアノは項垂れた。
「シアノ、久しぶりだな。お前が良くやってくれているお陰で、ザカリー領は安泰だ」
「旦那様、ヴェルナール様が……」
臍を噛むような悔しさで震える。
「心配には及ばぬ。ヴェルナールは心の臓まで冷えきってしまったが、お前の肌で温めてやれば明日の朝には回復する。ダネイロではなく、お前ならではの役目だ」
「旦那様……」
「孫を助けてやってくれるな」
「み心に添って……」
「では、直ぐに行け」
ジグヴァンゼラの指が指し示す方向に、シアノの身体はバネ仕掛けのように飛んで行く。
旦那様……ご領主様……
ジグヴァンゼラ様……
私を助けてくださる
見守っていてくださる
なんと心強く、嬉しいことか
シアノはヴェルナールの部屋に急いだ。竈の横で灰色銀髪の悪霊が高笑いを上げる。わはははと笑ううちにその姿は金髪のルネに変貌して、それから笑い声がおさまるとリトワールに変わり、アントワーヌへと変貌した。
「シアノは可愛い。リトワールのように忍耐できるだろうか……ふふふ」
悪霊はアントワーヌの姿でキッチンを出た。
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