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第三章 純愛と天使と悪霊
(115)陰謀と波乱
しおりを挟む甦らされた俺の心を読んだかのように
あの医者は言葉を投げた
『ザカリー家は
武公アントローサ大公の
親戚筋だ』
俺は自分の顔色が変わるのがわかった
そうだった
国を二分するほどの力を持つ大公が
ザカリー家と繋がっていることは
知っていたのに
ザカリー家は女王のご実家で
標的ヴェルナールは
王位継承権第四位
父親は王位継承権第三位の
ヘンゼル・ザカリー公爵だ
小さくとも国を動かす力を持っている
ザカリー家に敵対することは
国に敵対することだ
俺は何を相手に剣を抜いたのだ
何の考えも無しに
刺客として送り込まれた
『主は自分で選べ』
医者の言う通りだ
俺は主を自分で選ぶ
そう誓って荷馬車に揺られ……
アントローサ小公爵ジグマスタは弁論の最終段階で論檀を下りて、女王に膝を付く。
「先の黒魔術事件の際の女王陛下の明晰なるご判断に敬服致しますと共に、また更なるご英断を仰ぎたく、ここに、証人喚問のお許しを願うものです」
「許す。私は先に申しおいたはず。誰であれ、王位継承者の命を狙う者は直ちに処すと」
「ははっ。女王陛下の御言葉、御代の続く限りの勅命として承ります」
アントローサ小公爵ジグマスタは論檀に戻り「証人を此処へ」と片手を上げた。
重々しい扉が開いて四人の刺客が入って来た。四人ともネイトに癒されて既に痛みはなく、ザカリー領に対する畏怖の念にも似た敬虔な思いに充たされていた。
「お前たちは誰の手先だ」
「メンプラオ・ボリオ伯爵でございます」
議会にどよめきが起きた。武公と謳われた先代アントローサ大公時代からの、臣属随一の切れ者で、数年前の黒魔術事件のヘンゼル呪詛を暴いてメンドゥーラ侯爵を葬った立役者だ。
メンプラオ・ボリオ伯爵が
何故に私の息子を……
ヘンゼルは目の前が暗くなった。ジグマスタが落ち着いた堂々とした声で訊く。
「それは、メンプラオ・ボリオ伯爵から直接に言葉を掛けられたと言うのか」
「いいえ。私自身はオーボレ伯爵の部隊に所属しております」
会場がどよめく。オーボレ伯爵は黒魔術事件で処刑されたメンドゥーラの傘下から抜け出た者だ。
「部隊長からメンプラオ・ボリオ伯爵の指示だと言われました。しかし、それはメンドゥーラの復讐だとカルマンザー……」
いきなり戦場で聞くような銃音が鳴った。証人が胸を押さえて屈む。短筒を両手で持った男が右局席後列から立ち上がった。銃口から煙が出ている。会場全体に悲鳴が渦巻く。男は何かを口にした。
兵士がドカドカと動く。ジグマスタは倒れそうな証人を抱えた。
「う、うう……」
四人の証人とジグマスタが塊になった処に、兵士が数名走って来る。
短筒は、兵士と周りの貴族たちに取り押さえられる前にもう一度火を吹いた。撃たれたのは片目を癒された男だ。肩を撃たれて仰け反り倒れた。片手のない二人が慌てて怪我人に屈み込むのを「医局に運びますから」と兵士が制する。
ドカドカと軍靴を荒立てて怪我人が運び出されるのと入れ替えに、兵士に縛り上げられた犯人が女王の前に引き出された。
犯人は口から血を流して意識を失った。
「毒か……処置を急げ」
ジグマスタが犯人の手から短筒を「証拠として預かる」と奪い取って論檀に置く。
「女王陛下、オーボレ伯爵を召喚致しましょう。彼はメンプラオ・ボリオ伯爵に濡れ衣を着せて、我々の敬愛する第三王子であるヘンゼル・ザカリー公爵を狙い、その息子のヴェルナール・ザカリー公爵に刺客を差し向けたのです」
片手の証人が叫んだ。
「カッ、カルマンザーレ卿です。裏で糸を引いているのはカルマンザーレ卿です。ジルベールエリキュア公爵を王位継承者としてこの国をっ」
何処からか、二度目の発砲音がして証人の頬を鋭く掠り、左局席のローズウッドの飾り台の脚に当たった。
証人はジグマスタの論檀に身を寄せて屈み、議会は荒れた。
「「「誰だっ」」」
「「私ではない」」
「「「私でもないっ」」」
「「後ろからだ、後ろだ」」
「「「傍聴席だっ」」」
怪我人を運び出すために開けた扉から、我先にと流れ出す傍聴席の人々を尻目に、ジグマスタが大きな声で言った。
「証人、先ほどカルマンザーレ卿と申したか」
流れ出た人々の足が止まる。次の瞬間、悲鳴と怒涛が沸き上がった。犯人の近くにいた兵士の剣が男の短筒を弾き上げて、ジグマスタを狙った銃弾が天井角にめり込む。ジグマスタは剣の兵士に微笑んだ。
「私の命を狙った犯人は極刑に、助けた君には褒賞を与えよう」
二人目の犯人も兵士に縛られて引き出された。男は口元に持っていった小瓶を奪われた。
「カルマンザーレ卿の手の者だな。言い逃れはできぬ。素直に吐くか、拷問か」
「俺は喋らん」
女王ヘシャス・ジャンヌが笏を差し出す。貴族院評議会の全ての目が女王に注がれた。
「皆の者、カルマンザーレは先王の兄。この王統の者である。しかし、王位継承者を狙ったとなればその真否を明らかにしなければならぬ。即座に連れて参れ。息子のジルベールエリキュアは自ら命を絶たぬように幽閉せよ」
女王が立ち上がった。全ての貴族がズザザザと衣擦れの音をたてて立ち上がり、肘を上げて胸に手を当てる。全ての目が注がれる中で女王が宣言する。
「これより」
女王の声に一同は固唾を飲む。
「この国の王太子はヘンゼル・ザカリーとする」
おおお……と驚愕と歓喜の声が漏れた。
「なお、王太子ヘンゼルは先王の実子なれば、先王籍に戻し、これよりヘンゼル・ヨハネセンとする。皆の者、王太子即位を祝うために反対派の者から爵位を剥奪し、磔並びに火炙りにし、一族郎党を奴隷とする故に、異見のある者は申し述べよ。でなければ生涯口を慎め。直ぐに、王太子即位の儀を用意せよ」
王都に到着した死体を積んだ荷馬車の、死体の中から、一人の男が這い出した。
やっと着いたか
長い道のりだった
死体の山のなかに隠れて
死んだふりをして
荷馬車に揺られて来たのだ
ちゃんと証言しよう
ザカリーの黒騎兵の後ろに乗せられてしがみつく。馬は猛然と地を蹴って王宮を目指した。
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