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第2章 イスパノスイザ アルフォンソ13世に乗って
(5)カラーパープルから見たら白人全員アルビノ
しおりを挟む軽い握手を交わしてラナンタータは話題を変えた。
「アンナベラはハウンゼントを探している。何処にいるかわかりますか」
「ハウンゼントならお母様を館に連れて行ったわよ。お疲れになったみたいで。そうそう、アンナベラ。今夜の黎明祭の四人の旅人役は、もうくじ引きを済ませたのかしら。さっきこの村の結婚式の風習を聞いたばかりだけど、面白そうね。私でもできるかしら、旅人役……」
意外な情報だった。
「余所者も参加できるの、アンナベラ」
ラナンタータも聞いた。
「よくわからないわ。ただ、くじ引きと言ってもダンスを踊って曲が終わると順番に紐を引くのだって。印のついた紐を引いたら旅人よ。朝までかかりそうだわ」
アンナベラの返事はこの他方の訛りを使ってみたものの、内容は芳しくない。
村人と思われる華やかな民族衣装の女性陣が数名、アンナベラに近づいてヨルデラとラナンタータも賑やかに腕を引っ張られた。強制的にフォークダンスの輪に入れられる。
ラナンタータはマントを奪われて初めてのフォークダンスに戸惑い、アンナベラとヨルデラは大笑いしながら何度も間違えては笑いこけた。ラナンタータも笑った。
広場の脇には白い布を掛けたテーブルが出て、ざっと50席はあろうか、奥さんたちの持ち寄った料理がずらりと並べられている。
椅子に座った老人たちは既に酔っていた。皿を持ってテーブルを巡る人々の中には、カラーパープルもいた。フランス留学の流れ者は多い。中には第一次世界大戦が始まって移動してきた者もいた。
あれは、こんな黄昏時だった……
ピグ川の畔でキスして
『君の肌を僕の母国語では白皙と言うんだ。とても、美しいという意味だよ。その……いや、今は西日の色合いが乗って、ペールピンクに見えるね』
『嬉しい。ペールピンク……好きな色だわ。憧れの肌色』
『憧れる必要なんてないよ。僕はカラーパープルだから白人に憧れて国を出たけれど、憧れる必要なんてなかった。みんな同じ人間だ』
『あなたの国ではあなたの肌色が普通なのね』
『君だって、僕の国に来たらただの普通の外国人さ。ほとんどの日本人はアルビノを知らないから、白人って色が白いから白人って言うんだなぁって思うだけさ。日本人から見たら、白人は皆アルビノだからね』
『あはは……あなたの国に行ってみたい』
そう言って喜んでくれたのに……
直ぐに出るべきだった
この村であんなこと……
異変が起きたのは西の空が夕焼け色に染まり始めた時だ。ふっと空が暗くなり、地獄の釜の色と呼ばれる夕焼けが遠くで燃えた。いきなりザザザザと大きな雨粒が落ちた。
「「「きゃああああ」」」
ラナンタータは走った。脱がされたマントは奥さんたちの手を渡ってテーブルの椅子に置かれている。奪い取るようにして頭から被ったが、時、既に遅し。ラナンタータの髪からポタポタ流れ始めた黒い水が、繊細な硝子のドレスに黒い染みを作って広がる。
「ラナンタータ、こっち」
ラナンタータの手を引いたのは花嫁のアンナベラだ。雨に打たれながら一番近い家の軒先に走る。其処には数人の村人と共にヨルデラもいた。黒いドレスの夫人がエプロンをラナンタータに手渡した。
「ビアヘニュ。頭を拭くといいわ」
「アダンサンテ。マイアッテン未亡人」
答えたのはアンナベラだ。遅れてラナンタータも礼を述べた。
アンナベラがラナンタータの頭をエプロンで拭く。ラナンタータは、アンナベラのウエディングドレスが汚れるからと身を捩ったが、アンナベラは「ノーティニャーン」と笑う。
雨の中を遅れて走って来た家の住人がドアを開いて、雨宿りしていた花嫁と友人ふたり、黒いドレスの夫人、若い男性ふたりを中に入れた。
ラナンタータは黒い染みのついたエプロンをターバンのように巻いた。
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