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第3章 ブガッティの女、猛烈に愛しているぜ
(6)ガキの使いじゃない
しおりを挟む帰って来るなり「みんなでボナペティに行こう」とカナンデラは言った。
出掛ける時にはしていなかったボルドーのマフラーを首から垂らしている。
ラナンタータとラルポアの非難バリバリの視線に刺された。
「ああ、そうそう。頼まれた給料から先に」
カナンデラは異様に膨らんだチョッキの懐から、大判の封筒を出した。シャンタンが札束を鷲掴みにして無造作に入れたものだが、どう見ても普通のダンサーの週給以上の金額だ。其れを出してもカナンデラの懐はまだ膨らんでいる。
「有り難うございます。会長は何か仰っていましたか」
「高給取りだったんだな、あんた。本来なら劇場の評判が傷つけられたのだから慰謝料請求したいところだが、会長のお慈悲で給料の他にも当面の暮らし向きに困らない額をくれるとさ。俺様に頼んで良かっただろ」
「ええ、ガキの使いじゃありませんね。私でしたらそうはいかなかったでしょうね」
イサドラはシャンタン・ガラシュリッヒを殺してでもオフィスの金庫から金塊や現金を全て掻っ払う予定だった。銃もほしい。
シャンタンはカナンデラに激しいセクハラを受けて悔し涙に咽んだが、神の奥深さは計り知れない。大局を見るとシャンタンは命拾いしたのだ。
カナンデラの記憶によると、ドアに鍵を掛けて直ぐにシャンタンを抱き締めた。
『今日はゼニを貰いに来ただけなのにやっぱりお前が可愛いくて、ああ、もうたまんね』
とシャンタンの抵抗力を奪いつつ舌を噛まれないように頬を掴みつつのセクハラのあれこれ。
『俺様も反省してるよ、シャンタン。お前まだ18才だからウブなんだもんな。しかもお前は闇社会の帝王なんだから、俺様にセクハラされても裁判所に泣きを入れるなんて面子丸潰れ劇場出演なんかできないもんなぁ……同情するよ』
此の時代の此の国に18才未満の性行を明確に禁止する法律はない。1927年の日本にもなかった。シャンタンは叫ぶに叫べずソファーに押し倒された格好で舌を絡ませられて首を噛まれぼろぼろにされた。キスマークが胸の辺りまで幾つもついた。
おまけにカナンデラは衣服の上から勃起したものを押し付けてグリグリ擦り上げ、シャンタン坊やの其れを見事に勃起させたのだ。
『止めろおおお』
両手首を掴まれて抵抗できず、上擦って掠れた声がソファーの上で漏れたが、その声は主にシャンタンの喉辺りで消えた。
シャンタンは涙ぐみながら『あっ、あっ』と嗚咽とも喘ぎとも取れる声を発し続けて衣服の中で果てた。
『可愛い。此れね、シャンタン専用電気アンマって言うの。いつでもやってあげる。今、お代わりするか』
『止めろ、止めろおおお』
『わかったよ。そんなに照れなくてもいいじゃないか。俺だって急がないよ。機会はまたあるし。
処でさぁ、シャンタン。イサドラ・ダンカンの偽物が今、うちに来ているんだけどね。シャンタン、お前、やっぱり可愛い……此のカシミヤ、良いなぁ。ボルドー好きなんだ、お前の次にさ。なぁ、シャンタン、此れね、俺にくれない』
シャンタンは紅潮して涙を浮かべた顔を背けて頷いた。その姿を思い出してカナンデラは浮き浮きと気分が乗ってきた。
可愛いシャンタンの勃起した銃が結構な代物で『俺様のイチモツも、デリンジャーじゃなくて良かったぜ』と胸を撫で下ろして黒い笑いを止められない。結局、カナンデラはシャンタンを二度仰け反らせてから放免した。巻き上げたカシミヤをフリフリする。
「な、みんなで行こう。ボナペティ。旨いって評判聞いたことない、あ、そ。マドモアゼル・ナリスから、ほら、こんなに謝礼を頂いたのに。ね、ラナンタータ、ラルポア。あ、マドモアゼル・ナリス、一緒にどう、ボナペティ」
「私は遠慮しておきます。ほとんど寝てないし、薄着で寒気がするの。ボナペティはムール貝が美味しかったわ。トリュフを練り込んだ数種類のデザートは迷うわよ」
イサドラ・ナリスは立ち上がった。ラナンタータはイサドラに近づいて片方の頬を痙攣させた。微笑んだつもりだ。
「私はスイーツを食べに行く。あなたは、此れから何処に」
「友人の具合が悪いので、食料品を買いに。お世話になりました。」
歩き出すイサドラにラルポアが挨拶した。
「オールボワール、マドモアゼル・ナリス」
ラルポアはイサドラに敬意を表してフランス語でさよならと言う。イサドラは軽く振り向いて複雑な笑みを見せた。
「オールボワール……あなたはとても優しい素敵な方ね。オールボワール……そうね、マドモアゼル・アントローサ。あなたにはまた会いそうな気がするわ。だからアデューは言わない。オールボワール」
アデューとはフランス語で永遠の別れを示す。オールボワールは日常的なさよならの意味で使う。
歌うようにオールボワールと口遊むと、イサドラ・ナリスは頭から巻いたストールの胸元を押さえてドアに向かった。カナンデラから受け取った封筒で膨らんだハンドバッグをしっかり抱えて。
「階下までお送りしますよ、マドモアゼル」
お調子者のカナンデラ・ザカリーが真面目な顔でドアを出る。
「私、その言い方は嫌いなの」
「レディ、お送りします」
カナンデラはにっこり笑った。階段を先に降りる。
「出来ればあなたにはアデューと言いたいものです、レディ」
「正直ね。あなた、シャンタン会長のマフラーが良く似合うわ」
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