59 / 165
第4章 一緒に世界を変えよう
(6)シャンタンとは
しおりを挟むシャンタンの手下は、カナンデラの忘れたボルドーのカシミヤをわざわざ届けてくれたのだった。
おまけのつもりか、カナンデラがシャンタン詣での口実にしているアポステルホーフェを、カシミヤでくるんでリボンに結えてある。
「洒落たプレゼントだな。お宅のゴッドファーザーはセンスが良い」
「会長はザカリー様からの情報を楽しみにしております」
そのことから気を良くして、カナンデラは新聞読むふりをしながら一日中、あんなこともこんなことも「ああ、どスケベ過ぎる」とシャンタン妄想に心ウキウキ溺れていたが、ついにラナンタータの冷たい視線に気づいてしまった。
「お、ラナンタータ。何か言いたそうだね」
「聞きたいことがあるんだ、カナン。最近とっても金回りがいいんだね。銀行強盗でもやったの。ね、ね。教えろ。サイレンサー付きの拳銃は何処で手に入れたのかな。何の目的かなぁ。ボナペティの撃ち合いの時、ジェイコバに見抜かれたよね。あれ、あのサイレンサーつきのやつ、私も欲しいなぁ。ね」
「駄目よぉ、悪魔ちゃん。お嬢様の持ち物ではないわよぉ。サイレンサーなら男は生まれながらにもっているのよぉ。おほほほ」
両手で自分の頬を挟んで嫌々と身を捩るカナンデラを、ラルポアが失笑する。
「あの日だよ、ラナンタータ。ほら、イサドラ・ナリスが来た時に、多分、シャンタン会長の処で」
「勘が良いね、ラルポア。ただのショーファーにしておくのは惜しい。君は大学に行ってアントローサ総監の後釜になれば良かったのにさ。総監もそれを望んでいただろうに。ああん、僕ちゃんラルポアのお嫁さんになりそこねちゃったわぁ」
「勘違いしないで、ラルポア。カナンはシャンタンと相当怪しいんだから。ね、カナン」
「お、悪魔ちゃん。お前は何で俺様とシャンタンが怪しいって思うんだ」
「だってこの前、ボナペティで言ってたじゃない。この世に男2人と女1人が生き残ったとして、お友達二人が必ずしも女を取り合うわけではない。男を選ぶ男もいると。あれって、私よりもラルポアを選ぶってことだよね、恋愛の相手に」
「おお、神が人類に与えた選択権についてだな。人間は自己選択の自由権を与えられたが、それは人類の滅びを選択できるほどの究極のモノだ、選択には責任が伴う、という話になったのだったな。それが何でシャンタン、いや、まて」
ラナンタータの脳ミソの何処でカナンデラとシャンタンが繋がったのか、カナンデラには理解できない。
「お前な、俺たちは従兄妹だろ。そんな恋愛なんていけないことはできんだろ。な」
「だからぁ、従兄妹の私とはご法度でぇ、ラルポアにも物凄ぉぉく冷たぁぁく思いっっっきりフラれたからぁ、可哀想にシャンタンに切り替えたのかなぁぁって……」
「え。あれ、僕ちゃんってそうな……の」
カナンデラは真っ白になった。
ラルポアが笑いながらそっぽを向く。
「ええぇぇ、僕ちゃん、そんな物凄ぉく冷たぁく思いっきりフラれましたっけ。身に覚えがありませんけどぉ」
「ラルポアがカマを掘られちゃうって心配したぁ」
「ほんのジョークだよ、悪魔ちゃん。悪魔ちゃんの場合はね、相手が悪魔ちゃんに掘られちゃうって心配するからさ」
ラルポアが吹き出した。
「話を逸らさないで、カナン。ね、怪しいよね、ラルポア。だって朝まで飲んでさ、この素敵なボルドーのカシミヤをお洒落命のカナンデラが忘れるなんて普通じゃあり得んよね、ね。何か良いことがあってさ、ポーッとしてさぁ。ね、わかるよね」
「ううむ、成る程、成る程お。そう考えた訳ね、白悪魔ラナンタータは。今の時代にこの国はまだソドミー法案があるんだし、男同士は死刑相当の刑罰を受けるんだから、陥れようとしてるのかって恐ろしくってぇ、僕ちゃんラナンタータには何も言えない。それにね、シャンタンはこの街のゴッドファーザーとは言うもののまだ18才のお子ちゃまだよ。俺様、仮にソドミーだったとして、お子ちゃまとは遊べない。犯罪だものぉ」
「惜しいね、シャンタンは金髪碧眼だけどイットガールのクララ・ボウに似てて可愛いのにね」
「ね。お前もそう思う……あっ」
カナンデラの「しまった」という表情をラナンタータは見逃さなかった。
この時の会話は、後日、シャンタンの耳に入る。
ラナンタータがシャンタンに『あんたのこと、可愛いと思ってるって。しかも、遊びじゃないんだって、カナンデラは』と皆の前で伝えるからだ。
その時のシャンタンの顔は、ラナンタータに対する親睦の笑みが貼りついたまますっかり青ざめ、古株の側近ツェルシュも泡を吹いて卒倒する。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる