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第4章 一緒に世界を変えよう
(10)美麗的白花茶の香り
しおりを挟むキーツの勘は当たった。龍花を訪ねてきた女アンドレア・チャブロワと被害者家族の面通しで、女は赤の他人だと判明した。
「本名はいつか本人の口が語るだろう。彼女が誰かは大事だが、事件の真相を探れ。何故、オイラワ・チャブロワが古美術品を持っているとわかったのか、その古美術品は何処から入手したのか。事情聴取のプロを舐めるんじゃないとわからせてやれ」
ゴヅィーレ警部はブルンチャスとキーツに言った。
午後の取り調べで、早速ブルンチャスはボヤの起きた理由と毒殺の関係について女に訊いた。
「私は頼まれただけよ。誰とは言いたくないけれど、殺人事件なんて知らないわ」
「誰に頼まれた。それを吐かなきゃお前さんが首謀者ってことになるぜ。殺人事件の首謀者だから、罪は重い」
女はブルンチャスを睨んだ。
シャンタンの赤い顔を見ないように目を伏せて、側近がお茶を淹れる。カナンデラは入り口のガードマンにお茶缶の袋を手渡して、立ち去ったという。
「ザカリー探偵はいつも忙しそうですね、会長」
「そうなのか。今はどんな事件を手掛けているんだろうね」
「表の者に、セラ・カポネに気をつけろと言ったそうです」
「セラ・カポネか……」
「常識やぶりの困った者ですが、上納金は随一です。しかし、タワンセブ組とロイチャス組といった古株のドンたちはパパキノシタ組の跡目を選び直す必要があると申し立てています。何事も起こらなければ良いのですが」
「何か起きそうなのか」
「セラ・カポネは会長の座も狙ってくるかも知れません。ザカリー探偵がそのことを示唆しているような気がするのは、私の考え過ぎですかね」
俯いたシャンタンの顔が赤らむ。側近は狼狽した。
か、会長……あの夜は何をしていたのですか
ザカリー探偵とは……い、いかん
この秘密は墓場まで持っていくのだ
私は忠実な側近であることを
前会長に約束したのだ
命に代えても
お坊っちゃんをお守りすると……
か、会長ぉぉ……顔が赤い
素直過ぎます
ザカリー探偵のことで
顔が赤らむなどと
これから先が思いやられる
いや、大丈夫、私がお守りします
見たのは私だけだから隠しとうせる
ゴッドファーザーの裏の顔を……
「こほん、こほ……」
「だ、大丈夫ですか、会長」
ストーブで部屋は暖かい。ケトルの湯気で乾燥も防げているはずだ。
「ん、大丈夫だ。このお茶は何処で手に入れたのだろうね」
横喉ですね、会長
ザカリー探偵からの差し入れだからって
そんなに慌てて飲まなくても……
側近は微笑ましく思う。
「ロンホァチャイナでしょう。この街でこんな読めない文字のお茶を扱っている店はあそこしかないですから」
赤いお茶の缶には金色の文字で『美麗的白花茶』と刷られている。
ふわりとオフホワイトの花の咲く、美しいお茶で手を温めながら、シャンタンは、こんな綺麗なお茶を客人に出せば、きっと疑われてしまう。疑われるどころか、女顔に生まれついた俺様が、カナンデラ・ザカリーに良いように弄ばれているとバレてしまうかもしれないと真剣に危惧した。
「お前も飲んでみろ。しかし、誰が来てもこれは出すな」
真顔で言う。
か、会長ぉぉぉ……
カナンデラ所長のお茶
一緒に飲んで良いのは
私だけですかぁ
光栄ですぅ
嬉しそうな側近には目もくれずに、シャンタンは一口お茶を含む。喉に効くような気がする。
「このお茶、もっと欲しいな……」
「畏まりました。早速、手配します」
「ん……いや、お前が行ってくれ」
「御意。では早速」
側近が部屋を出た後、シャンタンはソファーに横になった。寒気がする。お茶で喉は潤ったが、暫くすると寒気と共に頭も重くなった。
朝から調子が悪かったんだけれど
若輩者は軟弱だと
後ろ指を指されたくないし
温かい中国茶も飲んから
ちょと休めば回復すると思う
油断大敵とはこの時のシャンタンが思い浮かべるべきゴッドファーザーの銘句だ。何故なら、魔城を出る前に側近は長い廊下でカナンデラ・ザカリーと鉢合わせる。
「ザカリー探偵、丁度良い処に。私は会長の用事でお側を離れます。誰かに警護を頼む処でしたが」
「おお、その必要はない。俺様に任せておけ。行ってらっしゃい、行ってらっしゃい。ついでに可愛い子ちゃんとキスしておいで」
側近の顔が赤らむ。
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