毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第3章 ブガッティの女、猛烈に愛しているぜ

(13)ストリッパー

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イサドラは芋焼酎を頼んだ。

出所は東インド会社。
東インド会社の船が海賊船に襲撃され沈没したというのは、このアナザーワールドへの転移のことだ。

東インド会社が過去に日本から大量に買い付けた品物の中に多種多様な酒もあった。独特な味わいで長年買い手の付きにくい商品が、フランスだけでなくイギリスからも流れていたようだ。

この店ではそういう日本の様々な酒類を揃えていた。百年近い貴重な古酒もあった。

ステージでは何人目かのダンサーが裸にキモノを羽織っただけの姿で、股を扇でひらひらと隠しながらぎりぎりの営業をしている。

あるダンサーは最終的にはオ○ニーをして見せ、男たちの間から「いくらだ」「いくらで寝る」と野次が飛ぶのを笑いながらに指先を数本立てて営業した。

その女は舞台から降りると、イサドラの近くの席に座った。女は一杯の酒を呷って、金を出す男の中から相手を選び、店を出て行く。

気がつくと、キモノのダンサーがイサドラの目の前にいた。順番にテーブルを巡っているらしい。

女はヒールの足をジェイコバの太ももに乗せた。股間に挟んだ何かをジェイコバに出し入れさせる気だ。ジェイコバは財布を出して女の要望に応えることにした。

その女の身体をイサドラが自分に向かせる。女はよろめきながら訝しげな表情になったが、直ぐに好き者を見る笑いになって、イサドラの肩に片足を乗せて股を広げた。

イサドラは女の股間からぶら下がっている男性器に似たモノを引き抜いて投げ捨てた。


「ぁ……何をするの」


イサドラは数十枚の札を手渡した。女の顔が固まる。


「今日は私があなたを買うわ」


イサドラとジェイコバは、サニーと名乗った女の部屋で寝た。『私があなたを買うわ』と言って転がり込んだのだ。

小さなベッドに三人がぎゅうぎゅう詰めになると、薄いブランケットの取り合いになる。壁際に部屋の主サニー、真ん中にイサドラ、ベッドの外側にジェイコバ。

見事に何もない小さな部屋だが、ストーブの石炭が切れれば氷原ほど寒い。

ジェイコバは女ふたりに腕枕を提供した。自由に動けないのはジェイコバだけではない。イサドラはジェイコバに背中を向けてサニーを背中から抱く形になった。全員が横向きになってもベッドに収まりきらない。

だが、イサドラは背中からジェイコバの体温で温められ、胸をサニーに押し付けて温まった。


この女を殺せば此の部屋に住める……


イサドラの思いはジェイコバにも伝わっていた。

サニーは、安らかな寝息を立ててイサドラに温もりを与えている。独り寝だろうがぎゅうぎゅう詰めの冷たい壁際だろうが疲れきったサニーには眠れれば良かった。背中をイサドラに温められて、サニーはいつもより早く、深い眠りに落ちた。

ジェイコバの腕が妙な動きになる。サニーの首を絞め始めた。イサドラは暫く黙っていたが、サニーの抵抗が全くないことに何かを思い、ジェイコバの手を解く。「何故」と耳元でジェイコバが囁く。


「今夜は生かしておきましょ。此の女は湯タンポみたいに温かいの」

「俺は背中が寒い」

「明日、ブランケットを買い足せば済むことよ」

「俺が怖いか。俺は不能者だ。戦争で駄目になった。完全に壊れているんだ。お前を抱くことはできない」

「恋人がいたんじゃないの。殺したんでしょ」

「恋人じゃない。娼婦を成敗しただけだ。今夜も何処かの娼婦を成敗して、その部屋に転がり込むつもりだった」

「その賢さを他に向ければ、あなたの人生は成功したかもしれないわね」

「今更。俺は脱獄して来たんだ。田舎の刑務所の事だから、この街ではまだ誰も知らないようだ」

「やっぱり賢いのね。でも何故、娼婦を成敗するの」

「奴等は社会のゴミだ。裁く法律がないのだから市民が成敗するしかないだろう。あんたも脱獄したんだろう。あんなに新聞を賑わせていたあんたが、今頃悠々と街を歩いているなんて」

「明日、話すわ。おやすみなさい」


精神病院で、拘束衣に縛られることになったのは
何故だったのかしら
それまでは催眠術を解くために
あれこれ見せられたり質問されたりしたわ
病院と言っても檻の中と変わらない独房
同じような拘束衣の患者が死んだと言って
あの女医が、キスの上手いあの女医が
拘束衣を脱がせてくれたのよ
シャワーに入れてくれるって……


『此の子は少し懲らしめなければならないわね。あなた方は出ていて。私が呼ぶまでは誰も来ないように』


そう言ってシャワーの前には人払いをして
いつも好きなようにいたぶってきた
叫んでも誰も助けに来てくれない
それが精神病院
私は性器を弄れ噛み千切られた
そして、その血だらけの口でキスされたのよ
あの女医こそ異常者よ
私の身代わりに苦しめば良いのよ
二日くらい食事抜きにされることもあったから
今頃はまだ独房を確認されてはいないわね
顔を潰して拘束衣を着せておいたから
私が寝ていると思うでしょう
そろそろ死んでくれると有難いけど
私の人生は私に優しくない
此れからの計画は慎重に行わなければ……


「ジェイコバ……寝たの」


返事はない
私がこんな部屋でこんな風に過ごすなんて
精神病院よりはマシだけど
やっぱり私の人生は私に優しくない
サニーと言ったっけ
ストリッパーでも私よりは恵まれた人生よ
誰かに感謝しなさい



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