毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第3章 ブガッティの女、猛烈に愛しているぜ

(14)みんな眠れない

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私は親殺しで捕まって施設に入れられた
泣いたり笑ったり喚き散らして
恐ろしくて眠れなかった
それから長い間入院して、また施設に戻った
まだ9才だった
イサドラだからサディと呼ぶことにしたと
花屋の夫婦に引き取られて、アヘンを吸わされて
生まれて初めて多幸感に満たされて
幸せとはアヘンを手に入れることだった


『サデイ、お前は死刑になる処だったんだよ。それを助けてやったんだ。アヘンがほしいか。ほしかったら……』


忌まわしい過去
ガーランド様と出会ったのは
私がまだほんの子供の頃。
優しくしてくれた
他の誰よりもガーランド様は特別だった
14才になって
満月会Rからお払い箱になる年頃だと知った
シャンタン前会長のショーパブに花を届けて
前会長に見いだされて……
前会長には感謝しかないわ
ショーパブで働けることになったんだもの


『人生には何が起こるかわからない。この世には人生と言う汽車のレールを切り替える転てつ機がある。お前の転てつ機は、今、切り替わった』


本当に、前会長の言う通りだわ
イサドラ・ダンカンを真似て踊ってもう8年
私はこの街のスターになった
会長は素敵な部屋と
素晴らしい家具を揃えてくれた
私は死にもの狂いでレッスンして
阿片を抜いて、人生のやり直しを図った
人生が薔薇色に輝いて
これからもずっと私は私の道を
進んで行けるものと思っていた
なのに……
前会長がこんなに早く死ぬなんて
いいえ、シャンタン坊やが会長になっても
私の地位は揺るがなかった
それのに、あの春の夜
ガーランド様をショーパブで見たあの夜
あれから私の人生の転てつ機は
再び狂い始めた
私の望む方向へレールを繋いでくれない
私という汽車の走るべきレールは
狂った転てつ機によって
思わぬ方向へ進んでしまう
花屋の夫婦を殺せば
過去から自由になれると思ったのに
やっぱり私の人生は私に優しくない
ラナンタータ
あなたも私の転てつ機を狂わせたのよ


選択の自由を間違えた女が寂し気に微笑む。



ラナンタータはカニバリズム教団ヴァルラケラピスに悩まされて寝苦しい夜になった。

ラルポアがトイレで捕まえた男たちは、パパキノシタの手の者で、あのカニバリズム教団ヴァルラケラピスと連絡を取れると言った。

何故、パパキノシタの手の者がヴァルラケラピスに連絡を取れるのか。ラナンタータは眠れない。


カナンデラ、ラルポア……
明日、私は引きこもる
「ウタマロ」には
カナンデラとラルポアに行ってもらう
カニバリズム教団を撲滅しなければ
世界中のアルビノの命が危ない
安心して暮らせる社会を作りたい
アルビノの逃げ込める国を作りたい



ラルポアも、カニバリズム教団ヴァルラケラピスに悩まされて寝苦しい夜になった。ラナンタータが狙われていることを知ったのはまだ幼い頃、世界大戦前だ。


僕は6才で
2才になったラナンタータと
公園で遊んでいた
まだ僕の父が生きていて
ロールスロイスの
シルバーゴーストに乗っていた頃だ
公園の林の中から
若いカップルが現れて
『あらっ、天使みたいな可愛い子がいるわ』
『アルビノだ。高く売れる』と言った
ラナンタータは女に抱き上げられて
僕は、男に蹴飛ばされた
父がシルバーゴーストで追いかけて
ラナンタータを取り戻して事なきを得たが
それ以来ラナンタータは外出禁止になり
僕は格闘技を学んだ
悔しかった
男に足蹴にされて
何もできない子供の自分が悔しかった

 

カナンデラは、シャンタンに会えずに寝苦しい夜になった。音を立てて起き上がる。


カウンターの中で黒い蝶ネクタイのバーテンダーレスは呻いた。そう若くもないはずだが、夜の色を身に付けた女は年齢不詳で、生まれながらのフランス人のように鼻音の訛りがある。名前は、サヨコと言う。ウタマロのオーナーだ。


「あいつら、パパキノシタの名前を出したのね。パパキノシタはこの店の元の持ち主よ。今は全く無関係なの。たまに、あいつらみたいな昔馴染みの手下が飲みに来てくれるけど、そのくらいのものなのにね」


客は、ル・マンのレーサーみたいなサングラスとキャメルの革ジャンに身を包んでいる。

カウンターにカクテル・ウタマロ。日本酒ベースに赤ワインで桜色に色付けした単純なレシピのカクテルは、見た目と口あたりから女性に人気があるが、レイプ・ドラッグ並に効く強い酒だ。このカクテルを女に勧める男は要注意人物か、田舎者だ。


「探偵ごときに知られたからって、そんな調子でヴァルラケラピスとの関係が続くのか」


男は冷たい笑いを見せた。


「好きでヴァルケラピスに従っている訳じゃないからね、こっちは。月に一度、店の休みの日に大金積んで貸し切りパーティー開いてくれるお得意様だから、一応、掴んでおきたいだけよ。そのくらいの大金だからよ。でもね、誰であろうとこの店を犯罪に使うのならヴァルラケラピスだって何だって追い出すわよ。私の大事な店よ。死んだ男の形見なのよ」


低い小声できっぱり言った後、サヨコは男のカクテル・ウタマロを奪ってゴクリと飲み干した。


「お抱え娼婦のいる店じゃないか。そこら辺の立ちンぼが減れば売上に繋がるんじゃないのか」

「ヴァルラケラピスがカニバリズム教団って、単なる噂ではないって言うのねっ。殺しをしてるって言うわけっ、ここでっ、この店でっ」

「どう言えば良いのかなぁ。それは一口では説明できない」


男の脳裏に鮮やかに蘇る儀式。


『右に乳房と子宮、左に乳房と心臓を置くのだ。ヴァルラケラピス解放の為にこの女の浄化祭を執り行う』


女は鋭いメスで腹を切り裂かれ子宮を取り出されても生きていていた。

いきなり、男の喉を胃酸が襲う。


「うぅ……」


立ち上がって口元を押さえる男に訝しげな視線を送って、サヨコは腹の中で嗤う。


「大丈夫……顔色、悪いわよ」

「いや、何でもない」

「兎に角はっきりさせて。その探偵は何て名前なの」



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