毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第4章 一緒に世界を変えよう

(17)結婚の邪魔

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  カナンデラから遅くなると連絡があったことはあった。


「カナンはきっとお泊まりしたんだ。あのイットガールの処で。遅くなるにしてもほどがあるよ」


  ラナンタータは出かける準備が早い。お化粧するでもなく、黒マントの下はラルポアのお古のフィッシャーマンセーターだ。ポテポテウエストになった元凶をすっぽり着こんで、ちっともおめかしする気がない。


「ラナンタータ、カナンデラから聞く前に断定しちゃいけないよ。相手は……」


「ママかよ、ラルポアったら。ママが生きていたらきっとラルポアみたいに口煩いだろうな」


  探偵事務所のいつもの窓辺からラルポアを振り向く。


「ラナンタータ、所長がなんであそこだと思うの」


  ラルポアはロンホアチャイナのお茶をマイセンのカップに淹れた。赤と金色の和柄のカップに美麗的白花茶白ジャスミンティーの象牙色の八重咲きが開く。


「私の勘は鋭いよね。ね。外れることは滅多にないよね。ね。だからさぁラルポア、さっきの話だけど、ハラン上院議員の他に議員の代理人が来ていたかどうか知ることはできるよね、ね」

「ショーファーに聞いてみれば何とか……お茶だよ」


  マイセンのカップを持つために、ラナンタータは長いセーターの袖に隠れた手の、手袋を外す。


  ラルポアはこっそりため息を吐いた。袖口の編み模様に見覚えがある。ラナンタータが『腰まで覆うから温い』と喜んだラルポアのお古のセーターだ。


「それとね、ハラン上院議員の家ってどこら辺かな。行ってみたい」

「何故……まさか訪問するんじゃないよね、ラナンタータ」


ラルポアは三人掛けのソファーの端に座った。


「ラルポア、ご明察。でもやっぱりママだね」


  ラナンタータはカナンデラの指定席を陣取った。カップの花を見つめながらゆっくり座る。


「ハラン上院議員の何に興味を持ったの」

「だって、いきなりショッピング。もしかしたらイサドラを匿っているかもしれないからさ、突撃してみようよ」

「駄目だよ、ラナンタータ。予想が外れたらどうするの」

「探偵は調査するのがオシゴトなのに」

「駄目。ラナンタータ、僕たちは探偵事務所に出入りしているけど探偵じゃない。ラナンタータは探偵の見習いみたいなものだよ。僕は一介のショーファーだ。カナンデラの指示を受けていないことに勝手に首を突っ込んじゃ……」

「はいはい、わかりました。ラルポア、人生って楽しいの」

「え……」

「たまには私から離れて人生を謳歌してみれば。もう二十四才目前でしょ。いつも新しい女ができて今度こそ結婚かなぁと思っても続かない。この世の人間は全てセックスの産物だよ。ラルポアの赤ちゃんを見てみたいよ」

「赤ちゃん……まだ早いよ。ヴァルラケラピスを倒さなければ結婚なんて」

「ふうん。可哀想だね、ラルポア。でもさ、私の勘が当たってハラン上院議員がイサドラを匿っていたら、なんかくれる」

「何が欲しいの」

「ラルポアの10年前の洋服をあらかた」

「そんなものを着てどうするの」

「異世界旅行に行こうよ。アフリカとか。アルビノがいるんだってさ。会いたいなぁ」

「行儀見習いに、日本を勧められたんじゃなかったっけ」

「日本かぁ……ジャポニカジャポネジャポジャポォン……迷うね。ふふ」


  ラナンタータの片方の頬がひくひく痙攣する。楽しい妄想にのめり込んだのだ。


ラルポアと契約結婚して
新婚旅行に
アフリカってのもあるかな
ないな、ママはくち煩い


 これまでにラルポアが結婚を意識した女性は何人かいた。
しかし何故か皆『ラナンタータの為なら命をかけるのね。私たちの将来のことを最優先に考えられないの』と言い出す。そして『遊びのつもりじゃなかったけれど、遊びだったと思われても構わないから、もうお別れします』等と言う。結局フラれる。


  理由は解っている。妹のようなラナンタータに嫉妬する無意味さに疲れたのだろう。そして結婚してもそれが一生続くことに気づいて、感情を処理できなかったのだ。今も、いるようないないようなフェイドアウトしつつある恋人がいることをラルポアは思い出した。


僕は良い恋人って言えないな
最低な男だ
相手も何も言って来ない
呆れられたか忘れられたか


「お茶で温まった」


  ラナンタータが黒マントを脱ぐ。ぶかぶかのオフホワイトのフィッシャーマンセーターがラナンタータのポテポテウエストを隠し腰まですっぽり覆っている。白い髪と良く似合う。ボトムにモーブ色のロングスカート。薄い目の色と良く似合う。


「可愛いよ、ラナンタータ。其れ、良く似合う」

「ふふ、やっぱりね。お気に入りだもん」


  女性は、ラナンタータの可愛いさを問題視しているのではない。実の兄妹ではないことが問題なのだ。


「今日は暇だね」と言った直後だった。ドアをノックする音が聞こえた。






















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