70 / 165
第4章 一緒に世界を変えよう
(17)結婚の邪魔
しおりを挟むカナンデラから遅くなると連絡があったことはあった。
「カナンはきっとお泊まりしたんだ。あのイットガールの処で。遅くなるにしてもほどがあるよ」
ラナンタータは出かける準備が早い。お化粧するでもなく、黒マントの下はラルポアのお古のフィッシャーマンセーターだ。ポテポテウエストになった元凶をすっぽり着こんで、ちっともおめかしする気がない。
「ラナンタータ、カナンデラから聞く前に断定しちゃいけないよ。相手は……」
「ママかよ、ラルポアったら。ママが生きていたらきっとラルポアみたいに口煩いだろうな」
探偵事務所のいつもの窓辺からラルポアを振り向く。
「ラナンタータ、所長がなんであそこだと思うの」
ラルポアはロンホアチャイナのお茶をマイセンのカップに淹れた。赤と金色の和柄のカップに美麗的白花茶の象牙色の八重咲きが開く。
「私の勘は鋭いよね。ね。外れることは滅多にないよね。ね。だからさぁラルポア、さっきの話だけど、ハラン上院議員の他に議員の代理人が来ていたかどうか知ることはできるよね、ね」
「ショーファーに聞いてみれば何とか……お茶だよ」
マイセンのカップを持つために、ラナンタータは長いセーターの袖に隠れた手の、手袋を外す。
ラルポアはこっそりため息を吐いた。袖口の編み模様に見覚えがある。ラナンタータが『腰まで覆うから温い』と喜んだラルポアのお古のセーターだ。
「それとね、ハラン上院議員の家ってどこら辺かな。行ってみたい」
「何故……まさか訪問するんじゃないよね、ラナンタータ」
ラルポアは三人掛けのソファーの端に座った。
「ラルポア、ご明察。でもやっぱりママだね」
ラナンタータはカナンデラの指定席を陣取った。カップの花を見つめながらゆっくり座る。
「ハラン上院議員の何に興味を持ったの」
「だって、いきなりショッピング。もしかしたらイサドラを匿っているかもしれないからさ、突撃してみようよ」
「駄目だよ、ラナンタータ。予想が外れたらどうするの」
「探偵は調査するのがオシゴトなのに」
「駄目。ラナンタータ、僕たちは探偵事務所に出入りしているけど探偵じゃない。ラナンタータは探偵の見習いみたいなものだよ。僕は一介のショーファーだ。カナンデラの指示を受けていないことに勝手に首を突っ込んじゃ……」
「はいはい、わかりました。ラルポア、人生って楽しいの」
「え……」
「たまには私から離れて人生を謳歌してみれば。もう二十四才目前でしょ。いつも新しい女ができて今度こそ結婚かなぁと思っても続かない。この世の人間は全てセックスの産物だよ。ラルポアの赤ちゃんを見てみたいよ」
「赤ちゃん……まだ早いよ。ヴァルラケラピスを倒さなければ結婚なんて」
「ふうん。可哀想だね、ラルポア。でもさ、私の勘が当たってハラン上院議員がイサドラを匿っていたら、なんかくれる」
「何が欲しいの」
「ラルポアの10年前の洋服をあらかた」
「そんなものを着てどうするの」
「異世界旅行に行こうよ。アフリカとか。アルビノがいるんだってさ。会いたいなぁ」
「行儀見習いに、日本を勧められたんじゃなかったっけ」
「日本かぁ……ジャポニカジャポネジャポジャポォン……迷うね。ふふ」
ラナンタータの片方の頬がひくひく痙攣する。楽しい妄想にのめり込んだのだ。
ラルポアと契約結婚して
新婚旅行に
アフリカってのもあるかな
ないな、ママはくち煩い
これまでにラルポアが結婚を意識した女性は何人かいた。
しかし何故か皆『ラナンタータの為なら命をかけるのね。私たちの将来のことを最優先に考えられないの』と言い出す。そして『遊びのつもりじゃなかったけれど、遊びだったと思われても構わないから、もうお別れします』等と言う。結局フラれる。
理由は解っている。妹のようなラナンタータに嫉妬する無意味さに疲れたのだろう。そして結婚してもそれが一生続くことに気づいて、感情を処理できなかったのだ。今も、いるようないないようなフェイドアウトしつつある恋人がいることをラルポアは思い出した。
僕は良い恋人って言えないな
最低な男だ
相手も何も言って来ない
呆れられたか忘れられたか
「お茶で温まった」
ラナンタータが黒マントを脱ぐ。ぶかぶかのオフホワイトのフィッシャーマンセーターがラナンタータのポテポテウエストを隠し腰まですっぽり覆っている。白い髪と良く似合う。ボトムにモーブ色のロングスカート。薄い目の色と良く似合う。
「可愛いよ、ラナンタータ。其れ、良く似合う」
「ふふ、やっぱりね。お気に入りだもん」
女性は、ラナンタータの可愛いさを問題視しているのではない。実の兄妹ではないことが問題なのだ。
「今日は暇だね」と言った直後だった。ドアをノックする音が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる