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第2章 主人公はラナンタータ

(17)ぐるぐる廻る

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「印象深い結婚式になったね。良くも悪くもだけど」

「ハウンゼント、私、何かが導いたような気がするの。親友ラナンタータが此の村に来ることで、同じアルビノのラナン事件の犯人が捕まり、フォレステン家の事件も解決したのだから、私達の結婚が不思議な縁を呼んだような気がするの」

  アリカネラがマリアージュフレールのお茶を淹れてアンナベーラが運び、ラナンタータの喉が味わう歓喜を脳に伝えた時、カナンデラが口を挟む。

「まあ、事件も落着したし、旅人もいるし、大団円的終了かな」

  ラナンタータが小声で「旅人1人足りない」と呟く。

  ラルポアがイクタ・シンタに「あなたは此の村にご自分の骨を埋めるのですか」と尋ねた。

「いえ、私は取り敢えずフランスに戻ります。私自身のアイデンティティを否定しない絵画を目指して頑張ってみます。其のために国を出たのですから」

「じゃあ決まりだ。4人の旅人が決まったことにして、ハウンゼント、旅人は初夜の晩に何をするんだァ。俺たち頑張るぜ」

  カナンデラが張り切って宣う。対してハウンゼントの答えは驚くほど単純だった。

「悪い領主をやっつけることを表して、此の館の周りを踊りながらぐるぐる回るんだ」

「「「え……」」」

  ラナンタータを初め、カナンデラとラルポアも目が点になる。

踊る……
ぐるぐる廻りながら……
ぐるぐる……
こんなに広い領主城の周りをか

「いやぁ、子供の頃から嫌だったんだよね。村で結婚式がある度々に、村人全員出てきて此の館の周りをぐるぐる踊り回られてまるで目の敵にされているみたいに感じていたんだけどね。領主殺害の祭りだからさ。一晩中だよ。館の周りをきゃいきゃい騒ぎながら踊り狂うんだ。その風習が大嫌いだったけど、今回は僕たちの結婚式だからね、ふふ、楽しみだ」

「「「……」」」

「一緒に踊りましょうよ。お義母様も濡れ衣が晴れて気分が良さそうだし、いかがですか」

「そうね。私はダンスが大好きなのよ。みんな知らないでしょうから此の祭宣言しておきますけど、ダンス好きでは此の村一番よ」

  明るい笑いが起きた。

  メリーネ・デナリーは過剰防衛で書類送検されることになるが、其の前に警察病院に収監され、おそらく執行猶予がつく。

  ドレッポは殺人罪。

 ジェイコバは、ラナン殺害事件と自殺に見せかけたフォレステン夫人殺害事件とフォレステン爺さんの轢き逃げ事件で死刑は免れないだろう。

 ヨルデラ・スワンソンことターニャは、ジェイコバの証言で手紙を送った本人であることが判明して、死後、書類送検。

  ジェイコバとターニャはアルビノ誘拐を企み、新婚夫婦の館にアルビノが宿泊する情報を得て、邪魔になる『4人の旅人の踊り』を阻止しようと予め図ったもの。

  ラナンタータのチョーカーをぶんどれなかったと悔やんでいたジェイコバは、相棒ターニャの死について「俺の心は戦争で麻痺したよ。それなのに知り合いが死ぬ度に何か思わなければならないのか」と何の感慨も示さない。

  マイアッテン未亡人は、ヨルデラ・スワンセンの『黒田節』に圧倒されて、また舞台人のような派手な猫目の化粧に全く眩まされて、行方不明になったターニャだと気づかなかったと漏らした。

  忘れてはならない。ラナンタータに対する誘拐及び加虐の罪に対しては、ラナンタータも法廷で証言する。アルビノの存在を世間に知らしめ、人権問題として世論を動かす。ラナンタータの望む平和な時代を望んで。

  正面玄関に、1901年に発売の最も古い蓄音機エジソンスタンダード型がお目見えした。鈍い金のラッパが斜め上に音を吹き上げる。ソノシートは村の民謡ではないが、どんな曲でも、例えベートーベンの悲愴でも踊ろうとする村人のダンス根性が見えた。村人も全員揃った。

  館の周りをぐるぐる踊りながら「どれだけダンスの好きな村なんだ」と、ラナンタータが愚痴る。

  カナンデラは「いやぁ、楽しいなぁ。此の村にこんなお祭りがあるなんて知らなかったよ。大切なオトモダチを連れて来たいなぁ」と晴れやかに笑う。

  ラルポアは見知らぬ女性と踊っている。常に絵になる。

  参加者が次第に増えて今やぞろぞろと列になり、何人の旅人かわからなくなった。バイオリンや小太鼓を担いで即席バンドまでできた。蓄音機とのジョイントコンサートに、木立にランプが吊るされ、いつの間にか広場のテーブルが移動してきた。

  イクタ・シンタは、此の光景をいつか絵にしようと幸福な光に包まれて、微笑みのうちに誓う。

  美しい民族衣装に身を包んでも、ラナンタータのダンスはギクシャクと壊れた機械人形を彷彿とさせる。誰もが認める下手くそなダンスを一生懸命踊るラナンタータは、イクタ・シンタにラナンの死の悲しみを乗り越えさせて、温かな笑いを誘った。

「絵を描くよ。ラナンの姿を。世界を変えるんだ」

  料理の皿の前に、マイアッテン未亡人が座っている。アリカネラはマイアッテン未亡人の手を取りダンスに引っ張り出す。記念すべき黎明祭になった。

「ね、ラルポア。人間ってさ、自分の運命を知らないよね。でもさ、人間は、自分の運命を切り開くことができる。よね。ね、ね、ねぇってばぁぁ」

「ラナンタータ。それもアガペーだよね」


  その頃、カナンデラ・ザカリーの大切なオトモダチのシャンタン・ガラシュリッヒ会長は、日本円で200万する絵画を眺めてため息をつき「カナンデラ・ザカリーめ。今度俺様をおちょくりやがったら、あの絵のように穴だらけにしてやる」と、宿敵の帰りを恋焦がれて心待ちにしているが、スミス&ウエッソン22口径リボルバーに、弾は一発しか残っていない。

  裏社会の若き帝王シャンタンは、自分の運命を何も知らない。次にカナンデラ・ザカリーに会ったら間違いなく股間危うし手込め同然の濃厚なキスをされながら成す術もなく、ザカリエンタスで言うところの『Жφ☆ωЫ⊿ゑ々∞§ё』口では言えない恥ずかしさ責めにされることを。


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