毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第5章 婚前交渉ヤバ過ぎる

(13)アントローサの娘

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  目覚めたら天蓋が見えた。天蓋付きベッドのふかふかの枕で目をキョラキョラ動かす。飛び起きる。衣服が変わっている。着替えた覚えはない。

  ラルポア……今、何時。此処は何処……
何故、知らないベッドで……

  ばかでかいベッドからふかふかの絨毯に下りてスリッパを履く。広い部屋を見渡す。向こうのソファーに横たわっているのはラルポアだ。ブランケットがずれて青いガウンが見えた。

  そっと近づいて横に座る。身体を斜めにする。とうとう横になって添い寝した。ラルポアの腕を枕にブランケットを被る。部屋は暑くもなく寒くもなく、ラルポアは自然に枕になった腕でラナンタータの肩を引き寄せる。寝息が聞こえる。ラナンタータも睡魔に襲われた。

お父さんはどうしているかな。
電話したらお父さんは
迎えに来てくれるはずだけどな。
ラルポアにワインを勧めたのは私だから
叱られちゃうかも……

  ラルポアの手が動く。その手は自然にラナンタータの頬を滑り、首筋から肩に流れ落ち胸の形を準る。

  ラナンタータはラルポアの腕を弾いて、ガバッと音を立てて跳ね起きた。ベッドに駆け込む。

信じられない。
私は妹なのに……
信じられない。
私のおっぱい小さいのに……
信じられない。
ラルポアはお兄ちゃんなのに……
信じられない。
何もかも信じられない……

  触られた胸に手の感触が残って熱い。ラナンタータは自分だけが信じられる存在だと確信した後で思い直した。そう言えば自分自身も信じられないことをしたのだった。ずっと家で育って、社会や人間や常識を知らなかった頃、学園に通いはじめて暫くして、ジョスリンが大好きになってキスしたいと思ったことがあった。

ラルポアに抱きついて
ドキドキしながらキスを迫ったんだよね
ラルポアなら
ちゃんと教えてくれると思ったけれど
大人のキスは
好きな人とするのだと断られたっけ
ラルポアには他に好きな人がいて
私は妹だから出来ないことなのだ
わからなかった
血の繋がりのない妹って
厄介なのかもしれない
まあ、私もラルポアを
お兄ちゃん扱いしてないんだっけ

  ラナンタータは知らないことだが、ジョスリンはラルポアをベッドに誘い、香水を一瓶振りかけたシーツを被って騎乗位から始めた。濃厚な花園の香りの中で上になったり下になったり転がって、ラルポアはジョスリンとの関係を暫く続けた。

『なんだかやっぱりアルビノちゃんに悪いわね』

  其れが関係を終わらせる言葉だったが、ジョスリンの笑顔はいつでも艶やかだった。

遊びにされた……
僕は遊び相手にされたんだ。
しかし
ラナンタータとジョスリンのキスは
阻止することができた
相手はマフィアの女ボスだ
アントローサ総監の娘に相応しくない
立場を守るのは重要だ

  ラルポアは目が覚めた。つと辺りを見渡して起き上がる。ラナンタータはまだベッドにいる。着替えが先か起こすのが先か取り敢えず歩き出す。

  車が二台も乗れるようなバカでかいベッドの真ん中にラナンタータはシーツを頭から被ってタヌキ寝入りを決めている。そのベッドに片膝を乗せてラナンタータのシーツを捲った。

「ラナンタータ、朝だよ」

ふん、ラルポアったら
優しく起こしても許さないから
私の方が先に起きたんだからね

「ラナンタータ、僕は着替えるよ」

ふん、私は着替えに時間はかからない

「ラナンタータ、シャンタンとカナンデラが気にならない」

「起きるっ。起きてたもん」

  ラナンタータはベッドから飛び出してラルポアを振り返った。

「私の服は何処」

  言ってからラナンタータは「あ」と胸を隠す。

「大丈夫。僕は何も見ていないよ、ラナンタータ。目を瞑って着替えさせたんだ。妹とは言っても、ラナンタータも一人前の女性だからね」

「おっぱい触った」

「触ってないよ」

「触った」

「ラナンタータ。僕は着替えるから」

「私も。直ぐにカナンデラを襲撃しよう」

「襲撃……」

 ラルポアはラナンタータと喋るのを諦めた。

  夕べ、アントローサはガラシュリッヒ・シュロスに来た。ラナンタータは酔っ払って、此の部屋、前会長の部屋で寝かされていた。事件の呼び出しがシャンタンを通してアントローサに伝えられ、アントローサは娘を連れ帰るのを諦めざるを得なかった。

  此れでシャンタン・ガラシュリッヒとの繋がりが噂されることになると、アントローサは予感した。パパキノシタの時と似ている。裏の繋がりなどはない。バカ娘ラナンタータが裏社会と勝手に繋がってしまう。アントローサは真っ当に任務遂行しているだけなのに。


  カナンデラは酒臭い息をシャンタンの耳元に吹き掛けて結婚を迫っていた。

「男同士でも結婚できる国にしようぜ。誰かが先にしてくれるのを待つのではなく、俺たちがやって見せようぜ、シャンタン」

  ガウンを脱がせてパジャマの上から腰を合わせる。カナンデラはもう何度もシャンタンを昇天させて、シャンタンに抵抗する気力はない。

「あ……あ……世界を変えるって……」

  そもそも夕べラナンタータが言ったことが心を開いたのか、シャンタンはなすがままにされて、もう無理だと思っても、シャンタンの其れはカナンデラに忠実に反応する。

「シャンタン。お前がこの地域のゴッドファーザーだからって俺と結婚できないのなら、マフィアなんて止めちまえ」

「アントローサの娘の考えなんだね。あ、あ、いく……」











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