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第6章 殺人鬼と逃避行
(10)チンチン
しおりを挟む「失礼ね。過剰反応しないで、例えのポイントを考えて。もしも、ラナンタータを永遠に失ったら復讐を考えるのでは。ラルポアさん、あなたも私も同じ人間よ。立場が違えば思うことも立場に応じて違ってくるのが、人間よ。でも、はっきりさせておくけど、私はラナンタータお嬢様を攻撃する気はないわよ。ただ少しお借りするだけ」
イサドラは愉し気にグラスを掲げた。
「来てくださって有り難う、ラナンタータ。皆さんも有り難う」
「おいら、来てくださった訳じゃないんだけどね。誘拐されちゃったからさ。でも、乾杯はしようね。ほら、ラナンタータもラルポアも。この飛行船搭乗が実り多い旅になるように、乾杯しようぜ」
カナンデラが茶目っ気たっぷりに勧める。ラナンタータはグラスを持ってイサドラに尋ねた。
「イサドラ、ラルポアが私を永遠に失うって例えは面白くない。それに私、この旅行の目的をあなたの口から聞いていないけど……」
「ふふ、乾杯から先で良いかしら。皆さん、そろそろ飛行船が浮くわ。旅の安全を祈願して、また、皆さんの健康と発展を祈って、ラルポアさんの仰る、目には見えない大いなる力の存在者が、私たち全てを祝福してくださるように、乾杯」
全員、グラスを掲げた。
「チンチン」
とカナンデラが言う。全員が口を揃えて言った。
「「「「チンチン」」」」
くどいようだが、チンチンとは乾杯を意味する。
アントローサは、酒屋の若旦那ジョバンニ・バレイシーが行方を眩ましていることを知った。
ドリエンヌ・メルロー殺人事件の有力な容疑者として、急遽、ジョバンニ・バレイシーの捜索に捜査員を当てる。
ブリンクス・メルローの白骨化した死体を、暖炉の中から出してみると、未だ白骨化していない部分があった。
慎重に運ぶようにと軍事トラックに似た警察のバンに伝える。監察医がブリンクス・メルローの死因を究明する。
ザッキとアデリアの死にも不審な点が出てきた。何故、立て続けに亡くなったのか。
ジャネット・プリントはドリエンヌと刺繍サークルが一緒だった。
ジャックとジルベアル・デミニーはジルベアルの方が不倫相手と勘違いされた。
メラリー・ポワロはメルロー家の養女話があった。
寝たきりのサリョーカとカイラー・ショーンは動機と言うものがない。
チャビーラン・ボルドーは、これはドリエンヌに対する憎しみを隠さない。
ジョバンニ・バレイシーは行方不明。
ティラナとは誰だ……
アントローサはキーツにカイラー・ショーンを訪ねさせ、キーツは首尾よく聞き出した。
「ああ、ティラナさん、その名前で呼ばないでと言われているんだけど、隣のチャビーの、チャビーランの本名ですよ。うちの母親にまさかチャビーランとは名乗れなかったのでしょうね、ティラナさんは」
椿姫は、まだテレビのない時代のこの国では最もポピュラーな舞台の出し物だ。人気の出た女優がチャビーというニックネームで呼ばれていた。
「ティラナ……綺麗な名前じゃないか。寝たきりのご婦人の気分を損ねないように、本名を名乗ったのか……」
ブルンチャスがワインを買おうと思ったのはこの時かもしれない。公務に支障を来すとして禁じられている線を、少しなら踏み越えてもいいような気になった。
「で、おいら、ラナンタータの質問に対する答えを聞きたいな。旅行の理由。俺たちを誘拐してまで観てみたいものなのか、ジョセフイン・ベーカーは」
「勿論よ。新しくてセクシーでコケティッシュな魅力ですって。アメリカの風を感じてみたいわ」
美しい花園のように色とりどりに盛り付けられたカナッペが、美味しさを競う。ラナンタータはモグモグしながら小首を傾げた。
「何故、わざわざ遠いドイツからフランス入りするのか……」
「あら、私は賢いのではなかったかしら。ふふ、ラナンタータ。良く考えてみて。あなたたちを連れて私が直ぐにフランスへ経ったら、フランス警察と懇意な切れ者アントローサ警部の思う壺よ」
「直ぐに捕まる」
「でしょうね。私はあなたのお父様、アントローサ警部が怖いの。だから、アントローサ警部とフランス警察がフランス中を探して諦めた頃に、あなた方を帰してあげるの。大喜びしてくれるに違いないわ。私はゆっくりジョセフイン・ベーカーを楽しんでから戻るつもり」
「やることが残っているからだ。そうだよね、イサドラ。どうしても復讐をし続けるの」
「ラナンタータ、あなたを狙う悪い組織の存在は、あなたに何を教えたの」
「被害者の私が正義の側だってことよ」
「私もそうよ。私が正義だわ」
「違う。イサドラは法律違反だよ。法律は自分で行う復讐を禁じている」
「うふふ……ラナンタータ、もっと違う運命なら、私もあなたを守ったわ。ラルポアさん、お目出とう。ラナンタータを離さないで」
「何が目出度いのか分からないが、そのつもりだ。妙な真似はしないと約束してほしい」
「ええ、約束するわ。私は決してあなた方を殺さない。あなた方も暫く我慢して、私と一緒に旅を楽しんでね」
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