毒舌アルビノ・ラナンタータの事件簿

藤森馨髏 (ふじもりけいろ)

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第6章 殺人鬼と逃避行

(18)一緒に寝る

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「ラルポア、一緒に寝よう」


ラナンタータがラルポアの手を引いて席を立つ。


「イサドラに奪われたくないから、今夜からずうぅぅっと一緒に寝る。おやすみなさい、イサドラ。カナンデラ」


ラルポアは、心配ないよとは言うものの、追従して席を立った。


「悪魔ちゃんと美形男子がいなくなったらおいらたちも部屋に引っ込むとするか」

「どうぞ。私はサニーの部屋を覗いてみるわ。おやすみなさい、探偵さん」




キーツは頬杖をついてぼんやり窓の外を眺めた。


ドリエンヌの死亡当日のアリバイがあるのは、ジャネット・プリントとジャック・デミニー、サリョーカとカイラー・ショーン親子、酒屋の若旦那ジョバンニ・バレイシーだ。


ジャネットの火傷の裏は取れた。刺繍サークルのお茶会で、ケトルを手にしたドリエンヌが躓いてジャネットの手に熱湯が掛かったと言う。


それがわざとなのか
本当に事故だったのかは
定かではないが
慰謝料はどうなった

ジャネットは
二十二才の若さで右手に火傷を負い
火傷の痕はまだ痛々しい
それを気にしてジャネットは
常に左手を重ねる 

日常的な虐めは
殺人の動機になるか……

そう言えば
ジルアベル・デミニーの癖は面白い
顔が良い分目立つのに
人と話すのが苦手なのか
頭を振りながら言葉を探す
それがまた人目を引く
兄貴のジャックが代理で喋ろうとする

いつまでも弟離れしない兄貴だな
煉瓦職人か
ブリンクス・メルローの死体を
隠していた暖炉
その暖炉を塞いだ煉瓦と
兄弟が繋がるかと思ったのだが
煉瓦を持ち帰えることは
絶対にできないと
工場職員が証言する
チェックが厳しいらしい

弟のジルアベルは
アリバイが怪しいが
動機が炙り出せない

暖炉は一部壊れていた
誰かがブリンクスの死体を
見つけた可能性もある

カイラー・ショーンの
母親サリョーカは
確かにサーカスの花形だった
今は見る影もなく窶れ
寝たきりの身体は筋肉も衰えている
アリバイ云々以前に除外だ

カイラーは仕事で
アリバイが成立している
ドリエンヌが死亡した時間
写植の文字組をしていた


メラリー・ポワロは
ドリエンヌ猫虐待が事実なら
恨みを抱いていたはずだ
養女縁組みをドリエンヌに邪魔され
尚且つ、行方不明の旦那が
暖炉の中で死体となっているのを
見たとしたら
ドリエンヌ殺害の動機は十分ある

『私は仲良くできます』
と言っていたが
十七才という年齢に似合わず
案外したたかなタイプなのかもしれない。

第一、メラリーは当日
ブティックの上客に
仕上がった服を届けに出ている
アリバイが有るとは言えない

動機があり、アリバイもない
一番怪しいのはどうしても
メラリー・ポワロだ


チャビーランもアリバイはない
ロイヤルホテルにいたと言うが
チャビーランの宿泊記録はない
宿泊客はとっくに石油輸出国に帰り
証言は取れない
チャビーランにとって状況は不利だ

しかも
チャビーランにも
ドリエンヌ殺害の動機はある
暖炉が壊れて修理を相談したら
家賃を上げると言われた
ドリエンヌは
ブリンクスが行方不明になってから
アパルトマンの男達と関係を持ち
いや、生きていた頃からか
ただで寝る人妻
娼婦にとっては 死活問題だ

そう考えると、犯人は女ふたり
メラリーとチャビーラン……
仲良しというジャネットも
一枚噛んでいるかもしれない

チャビーランが犯人だとは
思いたくない
親父っさんの為に
思いたくないのだが
チャビーランが
親父っさんを落としたのは
犯人だからかもしれない


待てよ
チャビーランは
何処のホテルと言ったっけ……
ロイヤルホテルか……
ドリエンヌの死体発見の電話は
ロイヤルホテルのラウンジからだ

誰かが死体を発見したとして
密室の死体を
どのように発見したのか……
窓から見るしかない

それとも通報したのは
やはり犯人なのか……




「ラナンタータ、一緒に寝るのはどうかと思う」

「嫌だ。ラルポアと寝る」

「どういう意味で言っているの」

「子供の頃のように一緒に寝る。イサドラが誘いに来ても行かないでね」


ラナンタータはベッドにラルポアの手を引いた。


こういうとき
男としてはラナンタータを
抱き締めたいと思う

抱き締めて
キスして
ベッドに倒れこむ

しかし
できない……
子供の頃と同じようにと
ラナンタータは望んでいる

僕も
子供の頃のようになりたい

何も考えずに
一緒に寝ていた子供の頃
唇にも頬にも
軽いキスをしていた
無邪気だった頃に……


ラナンタータは黒マントを脱いだ。見覚えのあるセーターは、ラルポアが思春期の頃に気に入っていた柄だ。


「ラナンタータ、家に連絡できなかったから心配してるだろうね」

「大丈夫。もう門限破りじゃないし、ラルポアが叱られるだけだから」

「ははは。まさかドイツに向かっているとは思わないだろう」

「しかも、飛行船だよ。初めて乗った。ね、来て良かったよね、ね」


ラナンタータの片頬がひくひく痙攣っている。






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