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第7章 投獄されたお姫様
(1)ひょんな出会いでアルビノ
しおりを挟むひょんな処でひょんな人と遭遇すると、ひょんなことが起きるのかもしれない。
ロンホア・チャイナの龍花が「元気そうだね、アルビノ」と言ってカフェに入って来た。
「カナンデラ・ザカリー探偵。久しぶりだね。異世界旅行なんてオカネモチかよ」
豊かに結い上げた黒髪に牡丹の花の簪が光る。シルバーフォックスの下の青いチャイナドレスはアイスピンクと薔薇紅の龍が描かれていた。
「龍花さん、相変わらず花のように美しい」
「そうね。いつもね。私は頑張っているよ。あんたも相変わらず素直だ」
龍花の後ろにフロックコートの下に軍服を着た男と長い黒髪のぴったり前を閉じたフロックコートの紳士が立つ。
「こちらドイツ将校のリヒター・ツアイスとルパン。私のトモタチ」
金髪のリヒター・ツアイスは、カナンデラより若く見える。
銀縁の丸眼鏡を右目に掛けた眉の薄い青い目。ナチスの党員らしいハーケンクロイツの党章が胸に光る。
1927年末、ヒットラーを党首とする国家社会主義労働者党(ナチス)は、党員七万人の野党だった。
後にヒットラーが首相となり、八百万人を越える党員に総統と呼ばれて狂気に走るナチス・ドイツを形成することになる。
リヒター・ツアイスのハーケンクロイツの党章は、彼がかなりランクの高い党員であることを示す。
カナンデラは立ち上がって握手の手を出した。
「グーテンターク。マインナーメイストカナンデラ・ザカリー。イッヒビンエンダタクティヴ」
カナンデラとしては「こんにちは。私はカナンデラ・ザカリー。探偵です」と自己紹介したつもりだったが、リヒター・ツアイスは苦笑いした。龍花が間にはいる。
「カナンデラ・ザカリー探偵。あんた、フランス語訛りの鼻音が強いネ。この世界のドイツ語はとても硬質ヨ。鼻音はほとんど無いネ。リヒター、ルパン、この人は探偵。見かけいい人よ」
カナンデラはリヒターとルパンと順番に握手した。
「私はリヒター・ツアイス。物理学研究所の所長です。龍花とは党首に捧げるチャイナの件で知り合った。探偵とはまた稀なる職業ですね」
「私はルパン。所長の下で働いている研究者です。あなたのお国に友達がいますよ、探偵さん」
ルパンは爽やかな笑顔で三人を見渡す。
ふたりともフランス語が流暢だ。
「このアルビノのお嬢様は……」と、龍花が言いかけた時、ラナンタータがドイツ語で自己紹介した。
「ラナンタータ・ベラ・アントローサです。宜しく。彼は私の婚約者ラルポア・ミジェール」
ラルポアとカナンデラが顔を見合わせる。ラナンタータはおほほと付け足してリヒターとルパンと次々に握手をしようと手を差し出して、あっと驚いた。
リヒター・ツアイスがラナンタータの手の甲にキスしたからだ。
「あなたのような美しい方と知り合えて光栄です、マドモアゼル・アントローサ」
リヒターはにっこり笑う。
ラナンタータの片方の頬が痙攣った。
ラルポアがその腰にそっと手を添える。
「物理学研究所ではどういった研究しているのですか」
「半導体研究をしています」
「始めて聞きます」
「エネルギーを伝える物質なのですが、そこら辺にあるような代物ではできない役目を果たす伝達物質のことです。できれば、反物質と言う厄介なモノも探せないかと欲張っているのですが」
「半物質って、SFに出てくるヤツですか。反発し合って消滅するもの」
「あなたは美しいだけでなく、聡明な方のようですね」
リヒター・ツアイスの横でルパンも頷く。
「私はロンホア・チャイナのオーナー龍花よ。アルビノの名前はラナンタータね。仲良くしよう」
龍花がラナンタータをハグした時、ルパンが口を開いた。
「ミジェールさんは異世界アントローサ公国の絵描きさんですよね。フランス美術展に出展している方」
「何故それを」
「天才の名前は忘れません。あなたの絵のファンです」
ラナンタータがラルポアにしがみついた。
「ダメ。ラルポアは私の婚約者よ。ルパンさん、ラルポアのおカマを掘らないで」
「「「「「……。……。……」」」」」
凍りついた場をルパンの笑い声が爽やかに溶かす。
「ははは……面白いお嬢様ですね。何故わかってしまったのですか、私があなたの婚約者を狙っていると……」
「ドイツはイケメン大国。だからドイツはソドミーに走るイケメンが多いと理解している。日本に次ぐ歴史的なBL文化国家でしょ」
ルパンは肩を竦め、リヒターが笑った。
「ははは。ドイツでは、同性愛を戒める法律を作らなきゃあならないようだ。しかもマドモアゼル・アントローサは、ドイツは美人の宝庫だということをご存知ないのですね。ああ、来た来た。皆さん、私の婚約者を紹介しますよ」
フロアの真ん中を大股で歩いてくる派手な軍服の美人が、リヒターを見て微笑む。
「あ、あの人もアルビノ……」
「誰が婚約者だって……あら、可愛いアルビノ……うん、食べちゃいたくなる気持ちが理解できた。確かに貴重品だ」
ラナンタータは腰にいきなり手を回されて引き寄せられた。身体がぐっと反り返る。
自分と同じ銀色の混じった白い髪の若い女性軍人の顔が近づく。睫毛も白い。
それに、本人を含めその場にいる全員が知る由もないことだが、昭和の漫画「ベルサイユの薔薇」の男装麗人オスカル並みに、軍服の似合う綺麗な顔だ。
「アルビノ、私はゲルトルデ・シュテーデル少佐だ。濃厚キスして良いか」
「「「「「「……。……。……」」」」」」
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